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芽緒の目に映る世界

 塀所(へいじょ)芽緒(めお)にとって、他人の視線とは凶器である。


 同性からも、異性からも、極めつけは親からも、向けられる視線によって傷付けられ続けてきた。


 目付きが悪い。怒っているように見える。キツい目をしている。そんなふうに言われ、あまり触れたくないモノとして、多くの人から――母親も含めて――見られてきた。


 目付きは悪いけど、顔はそそらないけど、ぶっちゃけブサイクだけど、でも――身体はイイよな。めっちゃ胸デカくね? 巨乳だよな。と、ニヤニヤと、下卑た、下劣な視線を、異性のクラスメイト、教師、道行く男性、すれ違うおっさんから向けられてきた。


 そんな視線に、芽緒は晒され続けてきた結果、精神的にスレてしまっていた。


 だからだろうか、本来であれば人としての尊厳を大きく損なうはずの、クラスメイトの加池明狼から向けられた、何者でもなく、物や背景でも見るような視線に、むしろ安心感を芽緒は抱いてしまった。


 気持ち悪い異性からの視線より、机でも見るかのような――いっそ机に対しての方が使っている分、愛があるかもしれない――そんな明狼の視線に、芽緒は心地良さすら感じていた。


 向けられる視線に、嫌な思いをする必要のない人物。芽緒は加池明狼をそう評価した。


 見られることに不快感を抱かないからだろうか、芽緒は明狼をちらちらと追いかけるように見ることが増えた。


 つい追いかけてしまっているうちに、芽緒の中に一つの疑問が湧き出ていた。


 加池明狼は他人を人として見ていないのではなく、()()()()()()()()()()()()()()()だけではないかと。


 その疑問に理由も具体性もなく、そう見えただけであり、芽緒の思い込みなだけで思い違いも甚だしいのかもしれないが、なんとなく芽緒には核心をついているだろうという確信があった。


 何故、他人との関わりを極力避けようとしているのか? どんな経験を経てそんな心境に至ったのか? 他人との関わりを極力避けようとしている人間が、何故学校に通っているのか?


 芽緒の中に、加池明狼という人物に対して気になることが止めどなく溢れ出てくるが、残念なことに、答えを得る術は何一つとして無かった。



 芽緒から見て、不思議なクラスメイトが加池明狼の他にもう一人いた。


 小唄日美々。


 どこをどう切り取っても「かわいい」、かわいいの権化とでも言うべきクラスメイトである。


 自分とは住む世界が違う、自分と同じ人間ではなく、神のような上位存在なのかもしれない、芽緒は小唄日美々を見るたびにそう思わされる。


 そんな小唄日美々から芽緒が受ける視線は、他のクラスメイトと同じものだった。分け隔てることなく、誰に対しても公平に接している。


 人である以上、どうしたって他者に対して順位付けがなされてしまうはずだ。


 好きな人、嫌いな人、どちらでもない人、見た目の好み、性格の好み、相性、打算、etc.理由は様々あれど、差異は生まれる。


 しかし、小唄日美々のクラスメイトへの視線からは、それを感じられなかった。


 特定の仲の良い友人も、グループもなく、それでいて浮いているわけでもない。


 それは芽緒には到底できない事で――芽緒に限らずそんな立ち回りができる女性がいるとは思えないが――ここでも自分とは違う、人を超えたナニカではないかと思わされた。


 他人(ひと)を等しく人と見ないようにしている加池明狼と、人を等しく他人(ひと)として上辺の付き合いしかしていない小唄日美々。


 

 とある日、芽緒がいつものようになんとなく加池明狼のいる辺りを見ていると、後から教室に入ってきた小唄日美々が、挨拶と共に加池明狼と視線を交わしている姿が目に入ってきた。


 その瞬間、芽緒の目に映る世界が変化し、色が失われた気がした。


 二人の間に()()()()()かはわからないが、()()()()()のは間違いないのだ。


 明らかにお互いがお互いを意識していた。


 加池明狼にとって、小唄日美々をクラスメイトで唯一しっかりと認識していて、小唄日美々にとって、加池明狼をクラスメイトの中で一番目に位置付けられ、他のクラスメイトは等しく二番目――いや、等しく最下位に位置付けられていたのだ。


(あぁ……)


 芽緒にとって、芽緒の人生とはおそらくずっとこうなのだろう。ままならないまま進んでいくしかないのだ。


(あれ? なんで私はショックを受けていて、なんで私は自分で自分を慰めようとしているんだろ?)


 そんなことを思っていると、再び芽緒の目に映る世界が変化した気がした。


(あー……)

 

 芽緒は今の今まで気付いていなかった。


 繋がりも、ドラマティックな会話も、ドラスティックな出来事もない、自身を人として見ないようにしているような人間に対して、恋をしてしまっていたことに。

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