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人が居る?

「――――――人が居る」


 明狼がそう驚くように言うのを聞いて、日美々は周囲を見回す。


「えーと、生きてる人?」


 日美々には人らしき姿を見つけられなかったので、明狼の魔法による探知で見つけたものだろうと判断した。


「たぶん生きてそう」


「一人?」


「うん」


「その人はどこに?」


「とりあえず行って確認してみよう」


 そう言う明狼に日美々は手を引かれ歩き出した。


「見捨てた俺が言うのもなんだけど、助けられるようなら助ける」


 明狼がそう自嘲するように言う。


 日美々はそんな明狼の声を聞いて、繋いでいる手を強く握った。


「大丈夫! 私も共犯だから!」


「えーと?」


 突然日美々が言い出した言葉の意味が理解できなかったようで、明狼は困惑した表情を浮かべる。


「私にも魔力がある以上、ゴブリンを倒すこともできたかもしれないし、なによりあの時めいろくんにゴブリンを倒してもらうようお願いすることだってできたのに、わかっててしなかった、私も同罪だからね!」


「あー……」


 日美々が何を言いたいのか、明狼もなんとなく理解したようだ。


「私も同罪で、共犯者だからね!」


 日美々は明狼の目をじっと見つめる。


「うん。ありがとう」


 手を繋いだまま見つめ合う。


(私の想いちゃんと伝われ!)


 じぃぃぃっと見つめ合う。


(めいろくんの瞳きれいだなー。めいろくんのニオイも好きだし、手のぬくもりも心地いいし……って、あれ?)


 日美々の顔に朱が差していく。


 体中が熱くなっていくのを感じて、日美々は目をそらした。


「あー……」


 日美々の表情を見て、明狼も気恥ずかしくなったようだ。


「とりあえず行ってみよう」


「あ、うん」


 ようやく二人は三階の廊下を進み始めた。




(あれ? ここって)


 現れるゴブリンたちを明狼が適当にあしらい、たどり着いた先で日美々は目を見開く。


「ここ?」


「うん」


 日美々の問いに明狼が頷く。


(なんか空気が微妙に違う?)


 中に入ると、魔素が薄いように感じられた。


「誰かいますか?」


 明狼がコンコンとノックしながら声をかける。


「か、加池くん?」


 その中からか細い女性の声が返ってくる。


(こんな所に女の子? しかも声だけでめいろくんだとわかるんだ?)


「うん。加池です」


 明狼がそう返すと、そのドアが開く。


 中にいた女性は、明狼の顔を見るなりその胸に抱きついた。


「加池くん!」


 叫ぶようにそう言いながら、声を上げて泣いているようだ。


塀所(へいじょ)さん?」


 日美々は驚きながら、呟くように言う。


 明狼はそんな日美々に「知ってる人?」と訊ねるように視線を向ける。


(めいろくんは本当にクラスメイトの事を全然認識していないんだねえ)


 日美々は、明狼がクラスメイトとの距離を取って学校に通っていたことを知っている。


 であるならば、何故学校にわざわざ通っていたのかは知らないが、学校に通っていてくれたことで出会ったので、気にせずスルーしている。


 クラスメイトという、嫌でも顔を合わせるような関係でも認識しないようにしており、現に認識できていないことを確認できたことで、それでも明狼は自分を認識してしまっていたという事実に、こんな時だというのに日美々は天にも昇る気持ちになっていた。


(それなのに私は無視できなかったんだねえ――と高まってる場合じゃなくて)


 目の前で、明狼に抱きつき泣きじゃくるクラスメイトの女性――塀所芽緒(めお)の事を考える。


(めいろくんに抱きついてニオイ嗅ぎ放題で羨ましい――って場合でもなくて)


「ええと、その子はクラスメイトの塀所さん……ってあれ?」


 よく見ると、明狼は芽緒を抱きしめるように腕を回していた。


「めいろくん?」


 日美々は、芽緒が明狼に特別な視線を向けていたクラスメイトだと認識していた。故に明狼がクラスメイトである芽緒を分かってないことを、本人に伝わる形で話してしまうことが何故か憚られた。日美々としては芽緒に気を遣う理由など無いはずなのに。


 そして芽緒は、自分に勝るとても豊かな膨らみを保持しており、それが今明狼に惜しげもなく押し付けられていることに不満が募っていた。


「寝ちゃった――というか、意識を失ったっぽい」


 明狼が言う。


 あれから一日以上経過しており、こんな所に一人でずっと居れば、精神的にはボロボロだったはずだ。そこにヒーローが颯爽と現れたとすれば、そうなっても致し方ないことだろう。


「彼女を連れ回す訳にもいかないし、戻って父さんに連絡して保護してもらおう」


 明狼は芽緒を抱え上げようとする。


「待って」


 それを日美々が止めた。


「塀所さんは私が背負っていく」


「え?」


 明狼は、疑問を浮かべた表情で日美々を見つめる。


 日美々も、明狼が自分に余計な負担をかけさせないために、芽緒を抱えて行こうとしているのはわかっている。


 先程は無意識に芽緒に気遣った日美々ではあるが、それはそれとして嫌な事もあるのだ。


「ええと……急に強力なモンスターが出てくるかもしれないし、めいろくんがいつでも対応できるようにしておいた方が安全だと思う」


 日美々の言うことも頷けたのだろう、明狼は思案する。


「それに獣人としての力もあるし、女の子一人背負うくらいなら私でも余裕」


「なるほど……」


「まあ、できれば魔法で落ちないように固定してくれると助かるけど」


「にみが彼女を背負って、俺が落ちないように魔法で固定すると」


「うん」


「にみがそれでいいなら」


「任せて!」


 日美々が芽緒を背負うと、明狼が何らかの魔法をかけたようで、背中にくっついたように動かなくなった。さらには重さも軽減したようで、負荷をほとんど感じられなくなっていた。


 気になるのは、破壊力抜群の柔らかい部分だろうか。それが明狼に当たり続けるのが嫌で、日美々は彼女を請け負ったくらいだ。


(でっか……)


 そんなことを思いながらも日美々は考える。


(でもなんでこんなところに塀所さんは居たんだろう?)


 普通に逃げようとするのならば、こんな所に来る事はあり得ないのだから。


 こんな所を目指したのは、【転移】しようとしていた明狼くらいのものなのだ。


 教室から出て、一階上がった先にある、()()()()()に、わざわざ女性が逃げ込む理由など、日美々にはわからなかった。 

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