魔力の使い方
湧き出てきたゴブリンたちを見て、明狼は別の検証に取り掛かることにした。
「まずは」
明狼はそう独り言のように呟くと、三体のゴブリンのうちの一体、杖を持っていた魔法使いタイプと思しきゴブリンを一瞬で倒した。
「ダンジョンがゴブリンを産んだんですかね? って、いつの間に倒したんですね。残りの二体は倒れない?」
「いや、実験体として役に立ってもらおうかなと思って、動けなくしてる」
「なるほど〜」
剣を持ったタイプと弓を持ったタイプのゴブリンは、明狼が【影縫い】と名付けた魔法で身動きが取れない状態になっていた。
ちなみに、日美々によって魔力を保つ者には、抵抗される可能性があることを証明されているため、明狼は過剰気味に魔力を注ぎ込んでいた。
「ダンジョンの魔素から産み出されたっぽいね。とりあえず、さっきのが消えてからだいたい一時間か」
明狼はスマートフォンを取り出して確認する。
「さっきのが倒された分が復活したのかな?」
「たぶんそうだね。感知できる範囲で増えた様子は無かったし、一定数を維持してるって感じかも」
【千里眼】と名付けた魔法で、明狼は周囲の索敵を行っていた。とはいえ、ダンジョンの中では普段ほどの能力を発揮できないようで、同じフロア内でしか探ることができなかった。
【千里眼】の範囲内だけな上に、滞在時間も一時間程でしかないが、ゴブリンたちが湧き出てくるのを確認したのはこれが初だった。
「じゃあ、ダンジョン内のモンスターが増え続けるわけではないのかな?」
「おそらく現状は。何らかのきっかけで溢れる程増えてしまう可能性は否定できないけど」
このダンジョンは昨日かなりの人間を飲み込んでいるはずで、それが栄養や燃料になるとすれば、このダンジョンが産み出せるモンスターの数はかなり多いのではないかと明狼は考えていた。それでも一定数を保つだけしかモンスターが湧き出ないのであれば、今すぐダンジョンから溢れ出てくる危険性はかなり低いだろう。
ダンジョンが産み出すのとは別に、モンスターが繁殖して増える可能性もあるが、それはもう少し探ってみないとわからないと後回しにすることに決めた。
明狼は次の検証をするため、「ごめん」と日美々の手を離し、背負ってきたリュックサックの中を探る。
明狼が取り出したのは、いわゆるリボルバー式と言われる、この国の警察が採用している拳銃だった。
銃火器に詳しくない明狼が、弾を一発ずつ詰めて撃てる銃を不知川に要望してみたところ、用意されたのがこれだった。
明狼たちのダンジョン調査が夕方になってしまったのも、拳銃が届いてから出発した為だった。
明狼は、こんな扱いしたら怒る人がたくさんいそうだなと思いながら、リュックサックに無造作に入っていた銃に、同じく無造作に入っていた弾を一発取り出し込める。
身動きの取れなくなっているゴブリンのもとへ、拳銃を片手に明狼は近付く。
明狼に射撃の経験などなく、拳銃を手渡されたところで軽く説明を受けた程度だ。なので、明狼は標的に近付いて撃つ事を選択した。飛び道具としての意味が薄れる行動ではあったが、あくまで実験のためであり、まず当たらなければ意味がない。
傍から見たらまるで近所で散歩でもしているかのように、自然体の明狼だが、ゴブリンが動き出さないとも限らないと、魔法による防壁をきっちりと張っていた。
ゴブリンと1メートル程の距離で明狼は立ち止まり、両手で構えた拳銃を、腹部に向けて突き付ける。
拳銃を撃つ時、どの程度の衝撃がかかるかわからない明狼は、筋肉を補強するイメージで魔力を体内に巡らせる。
魔法を使えない日美々も、同じように魔力で筋力を補っていると、先程までの日美々との会話で明狼は知った。
魔力とは、何かに変換するための燃料や栄養のような役割と、何かを保護、強化するための役割、どちらも担えるモノなのだろう。
そんなことを考えながら明狼は、トリガーに右手の人差し指をかけ――引いた。
必要以上に強化しておいたおかげか、明狼の体はブレることもなく、拳銃から飛び出していった弾丸は、狙っていたゴブリンの腹部に当たり、跳ね返され床を跳ねて転がっていった。
「ノーダメージ、と」
これは明狼の想定通りの結果だったので、淡々と次の行動へ移る。
拳銃から空薬莢を落とし、次の弾を手にすると、軽く握りしめ、明狼は弾に魔力を纏わせる。
いわゆるゲームなどでよくある、エンチャントと呼ばれる魔力を付与する行為だ。
エンチャントした弾を拳銃に込め、先程と同じゴブリンの腹部に向けて構え、トリガーを引いた。
拳銃から飛び出した、魔力を帯びた弾丸は、ゴブリンの腹部に穴を開けることに成功する。
魔力を纏わせたことで不発や、拳銃の中で爆発する可能性を明狼は考慮して構えていたが、ふっと息を吐いて肩の力を抜いた。
「めいろくん? 今のは?」
「弾に魔力を纏わせてみたんだけど、どうやらこれでダメージを与えることができそう」
少し離れたところで見ていた日美々からの疑問に答えながら、明狼はさらに実験を重ねていく。
拳銃にだけエンチャントして撃ってみたところ、ほぼダメージを与えることができず、拳銃と弾の両方にエンチャントして撃ってみても、著しく威力が上がることはなさそうだった。
どうやらエンチャントした弾を用意できれば、警察や軍人の手でもダンジョン内のモンスターを処理することは可能だろうと結論づける。
――もっとも、魔素が充満するダンジョンという空間に、普通の人が対応できるかは未知だったが。
「にみにも銃を撃ってみて欲しいんだけど、いいかな?」
銃で撃つ際に、無意識に魔法を飛ばして攻撃していた可能性に気付いた明狼は、魔法の使えない日美々にも試してもらおうと提案する。もちろん、日美々が嫌がるようならやらせるつもりはなかったが、
「めいろくんの役に立つなら!」
と、日美々は胸の前で両手のこぶしを握って、やる気をアピールしていた。
明狼は日美々を防御魔法で包みながら、エンチャントした弾を込めた拳銃を手渡す。
「この辺からでいいかな?」
「うん」
明狼はゴブリンに近付いて撃ったが、日美々はそれより離れた場所で拳銃を構える。
飛び道具は離れた場所から攻撃するためのものであり、エンチャントの効果が、距離によって薄まる可能性の考慮を忘れていたことに今更気付き、この距離ならその検証もできると思いながら、日美々の姿を見つめる。
脱力するわけでも、余計な力が入るわけでもなく、自然体ですっくと立ち、拳銃を両手で支え、ゴブリンを睨むように見る日美々の姿は、見惚れてしまうほどに美しかった。
「いきます」
すっと拳銃をゴブリンに向けると、日美々はトリガーを引く。
拳銃から飛び出した弾丸は、ゴブリンの頭を撃ち抜いていた。
「当たりました!」
「すごい! お見事」
慎重を期して近付いて撃った明狼とは違い、5メートル程度ではあるが、おそらく初めての射撃で、なんの訓練もなくヘッドショットをキメた日美々を明狼は素直に称賛する。
魔法を使えない者が撃ってもダメージを与えられ、この距離であればエンチャント効果も薄れないという実験結果を出した日美々は、明狼の役に立ち、褒められた喜びをぴょんと跳ねて表していたが、それ以上にスカートの中でぶんぶんと揺れている尻尾が、日美々の喜びっぷりをこれでもかと語っていた。




