眠たい授業中は妄想に耽るに限る
授業中の今この場に、テロリストが侵入してきたらどう対処してやろう? そんなくだらない妄想に浸った経験が誰にでもあるのではないだろうか? 少なくともオタク男子と呼ばれるような属性を持つものであれば。
あるものはテロリストから武器を取り上げ、あるものは口八丁で煙に巻き、あるものは不思議な力に目覚め。
各々展開は違うものの、このクラスの男子ならば結末は同じだ。
美少女中の美少女。キュートオブキュート。クラス一――いや、学校一の美少女、小唄日美々から尊敬と好意の眼差しを向けられ、「怖かった……」と抱き付いてくる。というものである。
昼食で腹を満たし、午後のぽかぽかとした陽気の中、睡眠導入剤とまで呼ばれるおじいちゃん先生の授業中で、そんな妄想の世界に入り込んでしまうのも致し方ないことだろう――というより寝てないだけマシとすらいえた。
廊下側の一番後ろの席に座る、端から見ただけでは普通の男子高校生、加池明狼もご多分に洩れず似たような妄想の世界に入り込んでいた。ただし彼の妄想はクラスメイトとは少し違った。
明狼が何度目かの敵が突入してくる妄想――シミュレーションを始めたその時、異変は起こった。
突然、音もなく教壇の隣に得体の知れない何かが三体現れたのだ。
得体の知れないとはいえ、妄想に浸っていたオタク男子たちであればソレの名前くらいはわかる存在だった。
現実には存在するはずのない、見たこともない得体の知れない存在――しかしそれでも彼らはわかる。ゲームやアニメで何度も目にしたモンスター。ソレは間違いなくゴブリンだった。
その瞬間、明狼は何度もしてきた妄想――シミュレーション通りに、音を立てることなく、隣の席に座っていた日美々の手を引き教室から走って廊下に飛び出していた。