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その3

 どうやら、体を乗っ取られたらしい。

 お婆ちゃんに。


「どうしたの?そんなに怒って?」


 叔母さんはひしっと抱き合う私と伊子川いしかわを引き離して、路地裏に連れて行った。

 そこで、私の体を使って、お婆ちゃんは叔母さんに事情を説明する。


「お母さん!前から自分勝手だと思っていたけど、やりすぎよ。大体なんで五年も経っているのに成仏してないのよ!」

「あれ、成仏はしかけたのよ。だけど、ほら。手紙を見つけてくれたでしょう?そしたら、なんだか誠司さんへの想いで胸がいっぱいになって」

「歳子さん!」


 二人の話を黙って聞いていた伊子川いしかわ、もとい誠司さんだろうな?伊子川いしかわの体を乗っ取った誠司さんが私に抱きついた。

 うー、まじでやめてほしい。

 私の体に伊子川いしかわが!

 っていうか男なのになんていい匂いするんだろう。

 あ、嫌だ嫌だ。変態だわ。私。

 

「お母さん。みなみに体を返してとっとと成仏してください。ほら、誠司さんにも会えたし」

「まだ足りないわ。そうね。あと一年くらい?」


 一年!ふざけるな!


「お寺にいきましょうか?お母さん!」

「待って、待って!みなみちゃん、雪子を説得して?1日だけ体を貸してくれたらいいの。クリスマスを誠司さんと過ごせたら、成仏するから!」

 

 おばあちゃんは私の口でそうまくしたてる。


「一日だけなら」


 いつの間にか私は体を使えるようになっていて、おもわずそうぼやいたつぶやきが、自分の口から洩れていた。


「みなみ?みなみなの?一日だけなら、この状態耐えられるの?」


 叔母さんはとても心配そうだ。

 うん。そうだよね。

 私は本当はとっても嫌だけど、体を共有しているせいか、おばあちゃんの誠司さんへの気持ちとか喜びが直に伝わってきてて、なんだかかわいそうになっていた。

 おばあちゃんは、ずっとこの気持ちを隠して過ごしていたんだ。

 そう思うと一日くらい体を貸してもいいかなって思ってきた。


「みなみがそう言うなら私は異存はないけど」

「それじゃあ決まりだね」


 そう言ったのは、私の体を使ったおばあちゃんだ。

 ちゃっかりしている。

 だけど、喜びではちきれんばかりで、なんだか私も嬉しくなる。

 私は恋愛小説が好きで、映画とかも大好きだ。

 だから、恋に焦がれていた。

 おばあちゃんから、恋心が伝わってきて、私も恋愛を体験しているような気分になる。

 相手が、伊子川いしかわの体を使った誠司さんっていうのは、ちょっとだけ嫌だけど。

 ところで伊子川いしかわはどうなんだろう。

 あっちも同じ状況で、体を勝手に使われることになるんだろうけど。

 叔母さんは彼のことはどうでもいいみたいで、気にしていないみたいだけど。


「うん。わかった」

「まあ、後は自分でがんばるんだぞ」

「うん」


 伊子川いしかわはぶつぶつを一人芝居をしているが、言っている内容は不明だ。だが、二人の間で話はついたようだ。


「で、お二人さん。これからどうするの?二人とも体は未成年だし、勝手なことをすると私がすぐに二人ともお寺に連れて行くわよ。一日ってことだから、明日のこの時間帯まで。今日は家に帰るわよ」

「私もいいかな」

「あなたは、ご自分の家にお帰りください」


 叔母さんは伊子川いしかわにはフレンドリーだったけど、誠司さんにはなんだか冷たい。

 

「ひどいな。歳子さん〜」

「雪子。後生の頼みだよ。一緒に」

「無理に決まってるでしょ?しかも明日は学校。さあ、誠司さん、自分っていうか大介君の家に帰ってください。二人ともクラスメートらしいし、学校で会えるんでしょ?」

「そうだった」

「そうよね!」


 伊子川いしかわ、ああ、もう誠司さんと呼ぼう。

 誠司さんと私の体を使ったおばあちゃんは二人で手を取り合って喜んでる。

 伊子川いしかわの手って案外ごつごつしてるな。

 いやいや、そんな感触知りたくないから。

 おばあちゃんのドキドキした気持ちまで伝わってきて、複雑。

 やっぱり早まったかな。体を貸すのは。でも決めたから。明日の夜までだし。

 伊子川いしかわ自身がどう思っているのかわからないけど、まあ、お互い自分の意志ではないんだし、この一日に関しては目を瞑ろう。


「では。歳子さん。明日学校で」

「うん。誠司さん」


 二人は、っていうか、誠司さんと私はそう言って別れた。

 叔母さんは終始呆れている感じだ。 

 うん。気持ちはわかる。

 お互い別の家庭があったわけだし、うん。微妙。




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