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その2

 クリスマスイブ、なんやかんやで結局ファミレスで夕食を取って、その場所へ向かう。

 思ったより大きくないクリスマスツリー。

 偽物っぽいもみの木だった。赤いリボンや大きなボールが可愛らしい。サンタやトナカイのミニチュアも飾られていた。古さを感じさせないから五十年前と同じものじゃないと思うんだけど。


 クリスマスツリーなんて、珍しいものじゃないし、しかも街のあっちこっちで飾られている。

 だから、そのクリスマスツリーは存在を忘られたみたいでちょっとかわいそうだった。


「ねぇ。みなみ。ちょっとおかしくない?」

「え?何が?」

「あのクリスマスツリー、ぼんやりしている気がするんだけど」


 叔母に言われて、目を凝らす。


「うん。確かに」


 なんか、薄い感じもする。


「あ!」


 見ていると、遠くから走ってきた男の子がクリスマスツリーにぶつかりそうになった。

 けれども、男の子はするりと通り抜けてしまう。


「まじで?」


 そう言ったのは私ではない。


 ツリーを挟んだ向こうから、その声が聞こえた。


「幻?」


 声の持ち主はクリススツリーをするりと抜けて現れた。


「あ!」


 現れたのは私の苦手な人。

 クラスメートの伊子川いしかわ大介だいすけだった。

 陽キャで、軽そうな男の子。

 金髪に染めた髪にピアス、絶対にクリスチャンではないくせに十字架のネックレスをしているチャラ男だ。

 休日なのでもちろん制服なんか着ていない。

 青色のジーンズに黒色のパーカー、その上に黒のデニムジャケットを羽織ってる。

 頭悪そう。


「あ、田形じゃん!」


 ジロジロみすぎたせいか、それとも驚いた声が聴かれてしまったのか、奴に気づかれてしまった。

 ニコニコ笑いながら近づいてきた。

 来るな。


「……知り合いなの?」

「クラスメート」


 叔母さんの問いに答える。


「なんで、こんなところにいるんだよ」

「それは私も聞きたいくらいなんだけど」

「聞きたい?」

「あ、聞きたくないわ」

「またまた、聞かせてあげるよ。あ、こんにちは。俺は伊子川いしかわ大介だいすけ、田形さんのクラスメートです」

「挨拶なんてしなくていいから」

「あら、みなみ。失礼よ。その態度。えっと大介くん。よろしくね。私はみなみの叔母で、雪子よ」

「雪子さん。可愛い名前ですね」

「ははは。軽いわねぇ。あなた」

「よく言われます」


 何二人で楽しそうにしゃべってるの?叔母さんもなんでそんな友好的?こんな軽い奴と。


「あらあら。みなみ。ごめんね。仲間はずれにしたわけじゃないのよ。ほら、みなみ。あなたも話しなさい」

「別に話すことなんてないけど」


 本当は、あのクリスマスツリーのことを聞きたいとも思ったけど、こいつと話すのはなんか癪だ。


「まあまあ、みなみ。大介くん。こうして会ったのも何かの縁だと思うのよ。お茶でもしない?」

「いいですね。ぜひ」

「は?なんで?嫌なんだけど」

「みなみ。照れちゃって」

「照れてない。伊子川いしかわもいやよね?私となんかお茶するの?」

「なんで?別に。楽しそうじゃん」


 は?

 私の抵抗むなしく、なんだか三人でお茶をすることになってしまった。

 クリスマスツリーの謎は?おばあちゃんのいい人探しは?


 ☆

「さて、大介くん。君、あのおかしなクリスマスツリーについてどう思う?」


 叔母さんはカフェラテ、私はココア、伊子川いしかわもココア[真似すんな]を注文し終わると、叔母さんは突然質問した。

 唐突すぎる。

 伊子川いしかわは目を丸くして驚いていたけど、すぐに答えた。


「雪子さんには見えてましたか?あれ?」

「うん。通り抜けてたよね。子供が」

「物凄いおかしいですよね?っていうか見えてないのかな?他の人には」

「現場に行って検証してみようか。飲み物を飲んだ後に」

「いいですね」


 二人はウキウキと話を進めている。

 うーん。

 なんていうか、どうしたらいいんだろう。

 学校で見た伊子川いしかわは頭悪そう、軽そうで、慣れ慣れしく話しかけてくるから、大嫌いだったけど、今日の彼はちょっと違う。慣れ慣れしいけど、頭悪そうじゃない。


「田形にも見えんの?あれ」

「うん。まあね」

「そうか」


 伊子川いしかわはちょっと嬉しそうに笑う。

 なんで?


「ふーん。そういうこと。ねぇ。大介くん。もしかしてあなたのおじいちゃん、誠司っていう名前じゃない?」

「な、なんで知ってるんですか?」


 ……嘘。

 こいつが、孫。

 おばあちゃんの好きだった人の孫。

 こんな軽そうな人が。

 やっぱり現実は違うよね。


「ふふふ。実は私のお母さん、歳子っていうの」

「え、歳子さんの娘さん?!」

「歳子さんって、伊子川いしかわはおばあちゃんと面識あるの?」


 それっってびっくりなんだけど。


「いやないけど。じいちゃんの日記で何度も見かけた名前だから。つい」

「日記!あら、誠司さんもお母さんのこと忘れられなかったみたいね。ふふ」

「叔母さん」


 ふふって。

 車の中では、なんか不倫とか言っていたのに。


「爺ちゃんは、多分死ぬまで歳子さんのことを好きだったと思う」

「一途〜。あれ、でも結婚したのよね?」

「はい」


 一途じゃないじゃん。それ。

 なんかもやもやする。結婚したら、やっぱり他の人のことは忘れるべきだと思う。


「あれ、みなみ。なんか不服そうね」

「別に」

「……爺ちゃんは、ばあちゃんと仲良かったよ。だけど日記を読んじゃって。色々納得した」


 納得?

 伊子川いしかわは何を言ってるんだろう。

 結婚したのに、前好きだった人を忘れられないなんて誠実じゃない。

 ああ、軽薄な伊子川いしかわ)だから、ありなのか。

 やっぱり最低な奴じゃんか。

 うん。


 なんだか、手紙を見つけたところまでは映画みたいだと浮かれていたけど、現実を知って、幻滅。もう聞きなくないと思っているんだけど、叔母さんは伊子川いしかわと話しつづけている。


「で、クリスマスツリーを見にきた理由は?」

「今年初めにじいちゃんが亡くなって、日記読んでツリーに纏わる話も知ったんで、見に来たんです。でもなんか幻みたいだし。まさか人まで通り抜けるなんて」

「面白いわ!謎のクリスマスツリー。解明しましょう。まずは飲みものを飲んであったまって。それからクリスマスツリーを見に戻りましょう!」




 ☆



 クリスマスツリーはそこにまだあった。

 だけど、やっぱり薄い感じだった。


「通り抜けますね」

「本当ね」


 伊子川いしかわと叔母さんはクリスマスツリーに触ろうとしているけど、触れないみたいだ。


「みなみもやって」

「え?」


 なんかそんな不気味なもの触りたくないし、近づきたくないんだけど。

 そう思ったけど、叔母さんの視線が痛くて、仕方なくクリスマスツリーに近づく。そうして触った瞬間、バチって電気が走った。そうして私はもう一人の自分を見た。


『みなみちゃん。お婆ちゃんにちょっと体を貸してちょうだい』


 そんな声が聞こえて、もう一人の自分が私の中に溶け込んだ。


『え??』

「え?消えちゃった」


 叔母さんが驚いた声を上げた。

 視線はクリスマスツリーがあった方に向けられている。


「歳子さん」


 そう私を呼んだ伊子川いしかわが泣きそうな顔をしていた。


「誠司さん」


 私の口が勝手に動いて、名前を呼ぶ。

 伊子川いしかわのおじいちゃんの名前を。


「え?どういうこと?」


 叔母さんが私と伊子川いしかわの二人を見て仰天している。

 私の体は私の意志を全く無視して動いていて、伊子川いしかわの胸に飛び込んだ。








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