友だち
俺はとんでもない田舎に住んでいた。山奥で道は舗装されてなかったし、近所の家は数キロ先。小中学校も十キロは離れていた。
両親は小さい頃に他界して、祖母の家に引き取られたからこんな田舎だったらしい。
学校だって全校生徒十二名しかいなかったので、どんなところか推して量るべしといったところだろう。
そんな辺鄙なところだから寂しいだろうと思うだろうが、そんなことはなかった。
一つ上のタケルくんがいつも遊んでくれていたからだ。
十キロ先の学校への登下校、いつも一緒におしゃべりして歩いた。
しかし小学五年の帰り道、タケルくんが途中にある神社で遊ぼうと言ってきた。
そこは古い場所で神主なんかもいない。俺は怖くて鳥居をくぐったこともなかった。
タケルくんは強引にかくれんぼをしようと言ってきて、俺を鬼にしてさっさと隠れてしまったのだ。
俺は苦笑して鳥居の柱のほうに顔を向けて数を数え、神社のほうに向かって
「もういいかい!」
と叫ぶと
『もういいよ!』
と複数の声が聞こえてきたので固まった。恐ろしくなってもう一度聞く。
「もう、いいかい?」
『もー いー よ……』
背中がざわめく。
タケルくんの声と別な声がいくつも合わさって、太い、太い、男の声──。
俺は動けずに、その場で声を出せずにいた。
『も
いっ
よぉー……』
熊笹がカサカサと揺れるが探しに行けない。恐ろしくて声が出ない。
俺は泣いてしまっていた。
そのうちに暗くなり、見回りの地元消防団と青年会の人が来て、俺を見つけてくれ家まで送ってくれた。
俺は神社にいるタケルくんを探して欲しいと懇願したが、みんな、そんな子はこの辺にはいないと言っていた。
それでも神社の中を探してくれたが、やはり何もなかったのだそうだ。
それ以来タケルくんとは会えなかった。大人になって分かったが、どうやらこういう現象を『イマジナリーフレンド』と言って、自分が作り上げた架空の友だちらしかった。
そう言われると納得する。寂しくて怖かった下校の時間に付き合ってくれる友だちを自分で作り上げてしまったのだろう。
歳月が流れて、俺は結婚し都会に出ていた。夫婦、子供の三人で会社から与えられた社宅に住んでいた。
ある日の夕方、帰宅すると一人息子が庭で遊んでいる。妻は台所で夕食を作っているのだろう。
「ただいま、ツヨシ」
「あ、おとうさん、おかえり」
「さ、家に入ろう」
「うん。じゃまたね、タケルくん!」
息子は何もないところに手を振っていた。
俺はしばらくそこに立ち尽くしてしまった。
『 もぉっ い よ~…… 』