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九話 毛を連続で抜くと薄毛は進行する




あちらでもこちらでも叫び声が聞こえる。

たまに笑い声もするが、たぶんテュフォンだ。


これだけの騒ぎに、広場にいなかった盗賊たちも続々と集まってくる。しかし、戦局に大した影響はなく、ただただ悲鳴が増えるだけだった。



「なんの騒ぎだ!」



広場の奥から一際体格の良い男と、そしてその男に付き従って、リンダとギリーが現れた。

一際体格の良い男は、巨大な両刃斧を背から取り出すと、ズンズンと大股で近づいてくる。



「…ボス!そいつら、今日連れてきたカモたちだ!それに、内陸で捕まえてきたエルフも混ざってやがる」


「ほう、カモの分際で楯突こうってのかお前らァ!」



体格のいい男は周りの盗賊たちから、ボスと呼ばれているようだ。そういえば、ここに捕まったとき、目隠しをされながら聞こえてきた声と同じような声をしている。



「よーやく、本命の登場だね。死になァァ!」



ボスを見つけた瞬間に、テュフォンが矢を放つ。探していた相手に対する、見つけた感慨も、情けも感じられない、先手必勝の攻撃だった。

しかしいくらか距離が離れていたからだろうか。矢に気づいたボスは斧を構えて盾のようにすると、そのまま矢を受け弾く。人の頭を貫通するような弓を受け切るとは、あのボス人間じゃないぞ。



「ちいィ!ニーシャ、ラルフ!あいつはアタイの獲物だ、横のやつらは頼んだぞ」


「任されたっす!さーて、リンダもいるっすね?アイツ、燃やしてやる!」



テュフォンは矢を撃ち放ちながら、ボスへと肉薄していく。どうやら遠距離から矢を撃っていたのでは倒せないと判断したのだろう。いや、面を殴るって言っていたから、本当に殴りにいったのかもしれないな。


ニーシャはテュフォンに呼応し、リンダへと掌を向ける。

ニーシャがブツブツと何かを口にすると、リンダの後ろで巨大な蜥蜴が連続で火球を吐き出していく。

リンダに向かって一直線に飛んでいく火球。

リンダはすぐさまそれに気づき、横へと跳ね飛んで回避する。



「あらあらニーシャちゃん、私を殺す気なの?」


「消し炭にしてやるっすよ!」


「そう…、じゃあ追ってきな」



ニーシャからの攻撃を避けながら、リンダは次第に広場から距離を離して逃げていく。

ニーシャもそれに続いて広場から離れていった。



さて、なんか、嫌な予感がするぞ。


ボスと肉薄し、巨大な斧が振り回される、さながら暴風雨のような中を矢を放ちながら動き回るテュフォン。


広場から離れたところの森の中では、火柱が次々に上がり、空を真っ赤に照らしている。

あの辺りで、きっとニーシャがリンダを追いかけながら森を燃やしているのだろう。



さてさて、そうなると、一人手持ち無沙汰の奴がいるよな。俺の前にゆっくりと歩いてきたソイツは、腰から二振りの剣を抜いて、俺と相対した。



「…ギリー」


「どうやって逃げ出したんだ?あの魔法使いとエルフは厳重に鎖で縛ったんだぞ?お前にロープを引きちぎったりするような力があるとな思えねえんだが…。まあ、どうやって逃げたかはこの際どうだっていいんだ。俺たちの棲家を荒らした罪を、償ってもらう」



二刀を俺に向けて、ギリーは構えをとった。

めっちゃ喋るじゃん、コイツ。ギルドや旅の道中、あんなに無口キャラだったのに、喋れんのかよ。だったら最初からもっと喋ってくれ、旅が気まずくて仕方がなかったんだぞ。

…うん、そんなこと考えてる場合じゃない。



俺はポケットからクシャクシャになった召喚用魔法陣を取り出す。

こうなったら他に選択肢はない。

なにが悲しくて自分で自分の髪の毛を!薄毛の俺が!何本も抜かなきゃなんねぇんだよ!


ブチッ。


気持ちの悪い感触が頭に響く。

また一本、髪の毛が俺の元から去っていった。

涙が溢れる。抜けたのが頭皮が痛かったからじゃない。心が痛いからだ。


召喚陣に髪の毛をのせ地面に置く。

掌をかざして、俺は呪文を唱えた。



「ギリーよぉ、俺に髪の毛を抜かせやがって、絶対に許さねえ!『我契約者なり。贄に応じて姿を現せ』!来い、ヌケゲぇぇぇ!!」

 


髪の毛から溢れる光。

そして閃光。

目の前にヌケゲが現れる。



「ヌケゲ、俺を守…いや、アイツをぶっ倒せ!」



俺は髪を抜いた怒りをそのままに、ヌケゲへと命令を下す。さっきの盗賊たちの様子から、命令の内容に注意しないと死人が出るが、この際もう関係ない。ギリーが裏切らなければ、俺は髪の毛を抜かなくて良かったんだ。コイツには、罪を償ってもらう必要がある。


命令に応え、体を膨らませるヌケゲ。

あっという間に、体格は人を超える。



「な、なんだそのヘビは?」



慌てふためくギリーだったが、もう遅い。


ヌケゲは頭を縮こませて、勢いをつけ体当たりをギリーにかました。

金属の扉をひしゃげさせる体当たりだ。普通の人間が食らえば、平気であるはずがない。



「ちっくしょうがァ!」



だがギリーは俺の予想を上回った。

なんと体当たりに合わせて二刀を上手く合わせて、攻撃を交わしたのだ。ギリーはそのまま二刀をヌケゲの体に滑らせるように切り付ける。


避けて、なおかつ反撃までするとは、アイツは人間か?

だが、思い返せばギリーは冒険者ギルドに出入りしていたようなやつだ。冒険者として身軽に動けてもおかしくない。それに、そんな冒険者の中でも内陸までの護衛を、受付が推薦するほどのやつだ。内陸の魔物の強さは知らないが、その環境で戦えて、なおかつ対象を守れなければ、護衛は務まらない。

普通の盗賊とは格が違う、ということか。



切り付けられたヌケゲだったが、肌には傷一つついておらず、まったく痛みもないといった様子で尾を振り回し、ギリーに再度攻撃を仕掛けた。

しかしその攻撃も、ギリーは避け、そして反撃を加えていく。



「クソ、しょうがねぇ。おいお前ら!あの男を殺せ!このバケモンヘビは俺が請け負う、お前らでアイツを殺してこい!」



ギリーはヌケゲに対処しつつ、周りの盗賊たちに命令を出す。

マズいぞ、それは正解だ。

ヌケゲのいない俺はただの雑魚。1秒だって生き残れる自信はない。

ヌケゲを俺の守りに戻そうかとも思ったが、ヌケゲだっていつまでも俺を守り通せるわけではなく、時間で消えてしまう。そうなれば、残った俺は新しくヌケゲを召喚する間も無く殺されるだろう。


…ん?新しい、召喚。

俺はもう一度ポケットに手を突っ込む。

ニーシャからもらった召喚用の魔法陣はまだ残っている。

ギリーと戦っているヌケゲは、まだ消えていない。

だが、この状況でもう一体、ヌケゲを出すことは可能なのか?



ギリーの命令に、周囲にいた盗賊たちが各々動き出し始めていた。

躊躇っている時間はない。


プチッ。本日3度目の、毛抜きだ。


苦しい、頭皮が泣いている。しかし苦しいが今は身を守ることが大切だ。

俺は召喚用の魔法陣に毛を乗せて、呪文を唱える。



「『我契約者なり。贄に応じて姿を現せ』」



光り輝く俺の髪の毛。

またしても、広場に閃光が走る。


目を開けるとそこには、二体目のヌケゲがいた。

なるほど、魔法陣がある限り何体でも同時に召喚できるのか。これは新たな発見だな。


しかし手痛い出費だ。いや、頭が痛む出費か。

非常時とはいえ、髪の毛を何本も贅沢に抜いて使うなんて、痛すぎる、辛すぎる。


だがこれで形勢は変わった。



「よーし、二体目のヌケゲ!盗賊たちを蹴散らせ!」



命令を受け、今召喚されたばかりのヌケゲが体を膨らませた。



ギリーと戦うヌケゲ。盗賊たちを蹴散らすヌケゲ。各々が縦横無尽に這いずり、尾を振り回し、頭をもたげて体当たりをする。

鋭い牙で敵を切り裂き、長い胴で締め上げ、盗賊の骨を無慈悲に折って肉を潰す。


ギリーはなおも避け続けていたが、先に盗賊たちが全滅した。


一対一でヌケゲとやりあえるなんて凄まじい実力だが、盗賊を殺しきって手の空いたヌケゲが俺をじっと見つめて暇そうにしている。うん、分かったよ。



「いってこいヌケゲ。二体でぶっ倒せ」



待ってましたと言わんばかりに、ヌケゲは二体でギリーを攻め立てる。

一体だけならギリギリ捌けていたようだったが、それが二体に増えて、手が足りなくなったらしい。

二刀をそれぞれ弾き飛ばされたギリーが、こちらを向いて焦った顔で叫ぶ。



「待て、待ってくれ!ちょっと待てよ!ズルいだろぉ!」



俺が止める間も無く、ヌケゲたちがギリーに噛みつき、そして身体を真っ二つに引き裂いた。

放り投げれたギリーの上半分と下半分が、宙を舞う。

夜空の星に照らされて、一瞬の風情を醸し出しながら、ギリーは地面に打ち付けられてピクリとも動かなくなった。










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