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二話 白髪薄毛は、黒髪より薄毛が強調される



水面に映るのは真っ白な髪の毛を生やした、俺。







え?





状況に頭が追いつかない。

なぜだ?なぜ俺の髪の毛が一瞬で白くなった?



順を追うぞ。

頭に赤い光が当たる。

青く光る発毛剤に頭を突っ込む。

そして、今。髪の毛が真っ白になる。



…なんにも分からない。赤と青混ぜて紫じゃなくて白なんだっていう感想くらいしか出てこない。絵の具みたいな話じゃないんだな、魔法は。…いやいやそんな悠長に考えている場合じゃない!



「お、おいニーシャ!これどうなったんだ?!」


「…い、いや、わ、分からない」



俺もあたふたしているが、それ以上にニーシャがあたふたしている。こんなに取り乱している彼女を見るのは初めてだ。



突然、ニーシャはハッと我に返ったかと思うと、辺りをキョロキョロと見回して、俺の手を掴んだ。



「と、とにかく、まずはここを離れてどっかで証拠隠滅しないと…」



ニーシャに釣られて、俺も辺りを見回してみる。どうやら先ほどの赤い光は俺に当たったもの以外にもいくつか周囲にばら撒かれていたらしく、部屋中の至る所で炎が上がっていた。それなりの騒ぎになっており、このままじゃ火事になるほどの火柱が上がっているが、魔法使いたちは各々魔法で中空から水を出すなどして鎮火させている様子であり、しばらくすれば騒ぎは落ち着きをみせるだろう。



「これ、これって、治るよな?毛根やら頭皮にダメージとか…」


「いいから、今はそれより逃げ出すのが優先!さーっラルフさん、早く鍋持って!」


「なんで逃げるんだよ!」


「この騒ぎでいろいろ調べられて、発毛剤なんか作ってたのバレたら、あたしクビですもん!」



頭が回らない。俺は言われるがままに、発毛剤が入った鍋を抱えると、ニーシャとともにざわつく部屋から逃げ出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ギルド内にある、素材倉庫。



「どもども。ふー、戻ったっす」



状況確認のために一度先ほどの部屋に戻っていたニーシャが、帰ってきた。

俺はというと、合成鍋を見つめ、水面に映る自分の毛量を確認中だ。こんないきなり真っ白になるなんて、絶対に毛根にダメージ負ってるに決まってる。びっくりして毛が抜けたりしてないか確認するのは最優先事項だ。



「なんか、スクロールの暴発だったみたいっす。スクロール部門が人足んねぇからって、うちに皺寄せで来てたスクロール依頼を間違えて作ってそれが暴発したらしく、あの騒ぎってことらしいっす。…で、なにしてんすか」


「毛、減ってないかなって不安でさ」


「いや、そもそもが薄毛だからそんな変わらないっすけど」


「白髪で薄毛なおばあちゃんとか、黒髪で薄毛のおばあちゃんより薄毛に見えない?」


「薄毛あるあるは知らんっす。とにかく!向こうは向こうで片付いたみたいなんで、こっちも現状把握しちゃいましょ」



現状把握っつてもな。

俺としては魔法はまったく分からんから、とりあえずハゲが進行しなければそれでいいんだけども。



「よっ」



プチっ。


なんだ今の不穏な音と痛みは!

いや、これは知ってるぞ!毛の抜けた痛みだ!



「何してんだニーシャてめぇ!」


「いやいや、検体っすよ。じっくり観察したいけど、おっさんの頭直接嗅ぎながらじゃ、それどころじゃないでしょう」


「失礼に失礼を重ねやがって…!というか、その毛、根本が太いやつじゃねえか!まだ元気なやつだぞ!そういう生きてる毛根に負担かけるような真似すんなよな、いや、死にかけの毛根だからっていいわけじゃないけど…」


「ふむふむ、ほうほう。で、こっちの鍋の中身は…、あちゃー、そうきたか」



失礼に失礼を重ねた上で、無視ですか。息をするように失礼をかますなコイツは。





「す、すげー、これ、どーなってんだ」



しばらく俺の髪の毛を眺めていたニーシャが興奮した様子で、独り言を言い始めた。



「なんだ、なにか分かったのか?」


「い、いや、たぶんそう、ってだけなんすけど、それでもよければ分かったことがありまして」


「なんでもいい、分かったなら教えてくれ!」



頼む、毛が死んでますとか、そういうハゲに繋がりそうなことじゃないことであってくれ。



「これ、この毛なんすけど。…髪の毛じゃなくなってます」


「どういう、こと?」


「えーと、あたしの見立てでは、これ、龍の髭みたいなんすよ!ちょっとこのあたり見て欲しいっす」



…龍の髭?

ニーシャは俺の目の前に髪の毛をグイッと押し付けるように差し出している。

言われるがまま、俺は目を凝らして髪の毛をよく観察した。

毛の表面には、鱗のようなものがびっしりと張り付いていた。触ってみると、鱗っぽいもののせいか、なにやらざらついた感じもした。砂場で遊んだあとの髪の毛を触っているかのようだ。

俺は自分の頭に手を伸ばして、指を通してみた。うむ、なんだかざらつく。一応指通りはするが、なんかひっかかる感じだ。



「こ、こいつはすごいっすよ!あたしも、学園で飾られてるの何回かしか見たことない、超お宝の召喚用素材っす!なんでも、この龍の髭を使って召喚した使い魔は、一国を滅ぼすほども強いんですって!」


「嘘みたいだな。なんだよ、その絵本みたいな話」


「いやいや、なんなら、あたしの生まれた国では絵本になってるくらいっすよ。寝る前に聞かされたこともありますし」


「そんなもんが、なんで俺の頭から生えてんだよ」


「うーん、そこなんすよね…。でもでもでもでも!そんなことより!超お宝の、絵本にもなってる召喚用素材っすよー、さっそく召喚してみましょうよ!」


「いや、あのな。そんな嘘みたいな話信じれるわけないだろ。あれだろ、俺が魔法使いじゃないからって、バカにしてんだろ」


「まったく、ラルフさんってば、その歳にもなって頭固いっすね。いや、その歳だからか。てか、嘘だと思うならそれこそやってみれば分かることじゃないすか」


「それは…、たしかにそうだな」


「よーし!そうと決まれば、今準備しちゃいますね」



なんだか、上手く言いくるめられてしまった。まあ、嘘なら嘘ですぐ分かるし、その瞬間に謝らせればいいだけか。発毛剤と、髪色を戻す魔法とかで許してやることにしよう。



…というか、まったくどうなってんだ?

髪の毛が龍の髭になってる?そんな突拍子もない話、聞いたこともねえぞ。

髪の毛は、髪の毛だろ。俺の頭から実際に生えてるのに、なんで龍の、しかも髭なんだよ。

頭から髭が生えてんのか、その龍とやらは。口元から生えてるから髭って言われてんだろうに、なんで龍の髪の毛じゃなくて髭なんだよ。



「よしよし、準備できたっす。ふぅー、優秀だと魔法陣だってこーんな早さで描けちゃうんだから」


「あんま凄さが分からん」


「ちくしょう、魔法使いじゃなきゃ伝わらないの悔しい」



床に描かれたのは、丸い円形の図式。なにやら読めない文字で、円を描いており、中心には星やニョロニョロとした線がいくつも書いてある。



「で、どうすんだ」


「あっ、まずはこの魔法陣が失敗作じゃないか調べないとだ。と、なると、ここらへんに、おっ、あったあった」



ニーシャはローブのポケットをかき乱し、なにやら鳥の羽のようなものを取り出した。



「いつかとっておいたハーピーの羽!」


「年代物なかんじがすごいする」


「まあまあ、そこらへんは気にしないでくださいよ。さーて、いきますよ。まずは、円の中心に供物となる素材を置きます」



円の中心にはぽっかりと、物を置けるようなスペースがあり、ニーシャはそこに羽を置いた。



「そいで、こう言うんです。『我、契約者なり。贄に応じて姿を現せ』!」



ニーシャの声に、魔法陣が赤く光り始める。

光に続いて周囲に風が起こり、風が埃を撒き散らす。



一瞬光が強くなり、目が眩みような閃光があたりを包んだ。

そして、次に目を開けた時、魔法陣の中心には、1匹の小鳥が、跳ね回っていた。

小鳥はしばらく跳ね回ると、そのまま羽を広げて飛び回り、ニーシャの肩へと留まった。



「おっ、成功っすねー。こんな感じっす。ちなみに、魔力はいらないんで、ラルフさんにもできますよ。召喚用素材に籠った魔力を糧に、こいつら使い魔は出てくるんで」


「すごいな!魔法が使われるとこ、初めてみたよ!」


「いやいや、魔法っていえば仕事中スクロール作ったりポーション使ってるの見てるじゃないすか」


「あれは地味」


「それは同意するっすけど」


「よし!じゃあ俺、自分でやってみたい!」


「じゃあここに真ん中に毛を置くんで、口上はお願いしますね」


「うし、任せられた。えーと、『我、契約者、なり。贄に応じて、姿を、現せ』!」



口上が終わった。しかし、魔法陣はウンともスンとも言わなかった。

…やられた。ニーシャの野郎、一回成功をみせてから俺をハメやがった。ちくしょう、やられた。さっきまで嘘だと思ってたのに、召喚を見せられてそんなの忘れちまってた。策士だ、嘘と真実を織り交ぜてきやがった。



「ニーシャ!お前やっぱり嘘ついてたんだな…?期待させてから落とすとは、ずいぶんイラつくやり方でいじって」


「待って待って!よく見るっす!」



ニーシャが魔法陣を指差す。

魔法陣は変わらず光っていなかった。だが、中心に置かれた毛、そのものが光っていた。

毛から溢れ出す白い光。その光はまるで毛を突き破ってくるかのように、そう、まるで卵から雛が孵るかのように、ピキピキという音と共に、その大きさと鮮さを増していく。



閃光。



目を開けると、そこには一匹の小さな真っ白の蛇がいた。



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