歌わないで!猪恵美さん! ~3日目7つのチャクラ~
ガバッ!
猪恵美はベッドに横たわる俺の毛布を胸元まで脱がし始めた。
右肩が下につくように横になった状態にして、チクビが丸見えの状態だ。恥ずかしい。
さらに、バターランプに残っていたジェル状のバターをオレの頭の頂点にペタペタと塗り付ける。
なんだか頭の頭頂だけがスース―しそうだ。
猪恵美「7つのエネルギーを貯める箇所、チャクラがある。尾てい骨、へその下、みぞおち、胸、ノド、眉間、頭がい骨の頂点だ」
「名前は漫画で聞いたことあるだろう?クンダリニー・ヨガの瞑想でも使われている。」
「裕也の頭頂から入って、へそにある心の滴を引き抜いてあげる。それがウチの仕事だ」
準備が終わった猪恵美は、マイクのスイッチを入れて歌い出した。妹の千恵美は座ったまま、ペンライトを両手に応援している。
猪恵美は俺の耳元に唇を寄せ、おもむろに叫び出した。
「死んだ!死んだ!裕也は死んだ!気づけよ!」
「死んだ!死んだ!裕也は死んだ!気づけよ!」
「死んだ!死んだ!裕也は死んだ!気づけよ!」
干した布団をリズミカルに叩くように何度も何度も叫んだ。10回超えた辺りから、ヘッドバンキングしてノリノリだ。千恵美ちゃんは、姉の本気に乗っかり、元気に腕ぶんぶんしている。
シンプルでわかりやすいフレーズだ。癖になりそうだ。
あれ、俺って死んだのか?
もう、家族と会えないのか?
じゃあ目の前で横たわる「偽物のオレ」ってなんなんだ。
そうか、この歌は死を受け入れない不慣れな魂が旅立てるようにする攻略本だったんだ。
「死んだぁ!死んだぁ!ゆうたは死んだ!気づけよぉ! はぁはぁ…」
息を切らしながら、もう30分は叫び続けている。千恵美は疲れて座って見ている。
しんだ。しんだ。オレは死んでいた。気づいたよ。
声は出なくても歌を意識で合わせた。
しばらくして、汗だくの猪恵美は歌うのをやめた。少し落ち着くと、千恵美に声をかける。
猪恵美「ゆうやよ。よく聞くんだ。体から綺麗に抜ける奥義を伝える」
猪恵美「体の縦にまっすぐ、ヘソから頭まで豆粒くらいの光る心の雫が飛び跳ねているイメージをするんだ」
猪恵美「神様・仏様なんでも良いから、それがへそから頭の頂点に塗った所をつき抜けるように思い描くこと」
猪恵美「直近で強く、強く神に祈った場面を思い出すんだ」
ああ、天井スルーして8万課金して端数の単発のボタンを押す感じだな。吐きそうだ。
猪恵美は呼吸を整え、座りこむ。そして目をつむって座禅を組んだ。