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 外に出れば夕陽が遥か大阪湾の向こうに沈むのが見えた。田中巡査は天王寺界隈から少し離れて、四天王寺ロダンと谷町筋という幹線を歩いている。仏舎四天王寺の側から天満橋まで伸びるこの幹線はどこか静かだ。新世界や難波と言ったいわゆるミナミを含んだ繁華街とはまるで無縁のどこか閑散としたこの通りに来れば本当に大阪だろうかと思うかもしれない。

それはこの背に受ける夕陽がよりそうした思いを人の心に植え付けるかもしれない。

地名は『夕陽丘』、成程な…と巡査は思った。

先程歩きながらロダンはこの辺りの事を簡単に自分に教えてくれた。

昔大阪湾はこの辺りが砂州にも似た突起状の台地だった。それを今では上町台地と言うのだが、古代船に乗り海原に浮かんだ人々はここら一帯を仰ぎ見れば、海から突き出た台地に見えただろう。その台地上に仏舎四天王寺をはじめ多くの伽藍が見える様はさながら海上都市アクアポリスだったに違いない。

その名残ともいえる所以を今、自分は歩いている。先程の店で飲んだビールは少しだけ心地よさを与えてくれるスパイスとしてちょっとした辛味の在る寂寥感を今与えてくれている。

寂寥感…

それが絡んだ舌先で言葉になり、過去をなぞる。

「成程、それが君の言う昔の傷害事件というやつか。本当に大分昔だなぁ、今じゃ…」

 アフロヘアに風が吹いたのか、それが森のように揺れる。

「ですねぇ」

 ロダンがポケットに手を突っ込みながらリュックを背負った背を丸めている。矢や猫背になりながら、ロダンは時代という風を背負って進んでいるように見えた。

三室魔(みむろま)(ほう)という人物、中々癖があるねぇ。芸術家と言うのはどこか清廉潔白な人ばかりかと思ったけれど」

 ロダンが渇いた笑いを上げる。

「いやいや、とんでもない。そう外見を作り出している人の方が多いかもしれません。なんせ内面における個性が強い人ばかりですから。出なけりゃ、灰汁の強い芸術何てできやしませんよ」

「しかし、手を出すかい?内弟子の奥さんに?」

 矢継ぎ早に巡査がロダンに問う。

「そいつが人間の何ともと言うところかも知れません。なんせ美というのはエロスと繋がり、まぁプラトン曰くそれは「(エロス)」なわけで、それを欲する為には国宝級の美術品何て何の意味もないガラクタ。どうしても欲しかったんでしょうね、老人の狂った年老いた恋…、いやこの場合、肉体を欲するだけの唯の下卑た恋と言ってもいいのでしょうけど」

「君はその辺の事は知っていたの?」

三室魔(みむろま)(ほう)の晩年、腕が麻痺で効かなくなって作品ができなくなり、やがて苦悶の上死んだのは知っていましたが、その事実がまさか…それも時代が下って僕の所でこのように事実が明らかになるなんてね…本当にひょんなことが『場所』と『場所』、『時間』と『時間』を繋ぐとは…」

 そこでロダンは首を撫でると、パチンと音を響かせて首を叩いて呟いた。


――頭と胴を繋いでるのも首なんでよねぇ。首って繋いでいる大事なパーツなんですよ…


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