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 ――男性は杖をつき、もう一人のご婦人は車椅子だったのです


「いやぁその姿を見た僕はですよ…」

 喉をビールで濡らす。濡らすとぺろりと舌を出して唇を濡らす。

「そりゃ一目散にですね、そのお二方目指して右手に生首、左に桐箱を抱えていざぁ鎌倉って感じで石段を駆け降りたんです。野武士ですよ、野武士!!それで今思えば下から見ていたお二人は怖かったでしょうね…。なんせこのもじゃもじゃアフロを振り乱し、格子島の浴衣の胸元ははだけ、下着は丸見え…、おまけ高下駄を履いて天狗のように飛んでくるように降りて来る。その時の僕は空襲で阿鼻叫喚の世界を逃げ回る狂いもんでさぁ」

 腕で唇を拭く。拭くとビールを手酌でグラスに注いだ。

「想像するに有り余るね。正しくあの鬱蒼とした楠の祠の有る苔むす石階段をそんな恰好で狂態具合で降りてきたら、驚きもんだからね。僕だって思わず拳銃に手が行くかもしれないよ」

 どこか笑いを隠し切れないような表情で田中巡査もグラスにビールを注ぐ。注いでから一気に喉に流し込んだ。

 それから釣り合いの取れない状況を想像して二人目を合わすと、思わず笑った。笑いながら巡査が聞く。

「それでまぁ二人の前に現れた君はどうだったの?そのお二人は君のお目当ての人物だったわけ?」

 ロダンは軽く頷く。頷くと人差し指を立てて軽く二、三度振って巡査を見た。

「ええ大当たり。ビンゴでさぁ、田中さん」

 うん、と巡査が頷く。

 恐らくそうだろうと思っていた。

 推理とは『謎』を剥ぎ取る作業なのだ。まるでバナナの皮を剥ぎ取るかのようなそんな作業なのだ。

 はぎ取られるのは事実に照らされ解を得た『謎』という皮、推理とはその皮に覆われた真実という果実を食するための皮剥ぎ作業に他ならない。

 田中巡査はビールの表面に映る自分を見ると、それを一気に飲み込んだ。

 しかし不思議な気分にさせる。推理とはこんなに甘美な知的作業なのだろうか。それとも横にいる人物が醸し出す香気が鼻腔を突いて自分をそうさせるのだろうか。

「それから僕は二人の前に立つと聞きました。僕は四天王寺ロダンといいます。あなたは…X氏ですね。本名は、今は未だ伏せておきますが、その時…相手側には『自分はあなたの名前を知っている』と言いました」

 じっと巡査は聞いている。

「すると相手は深く頷きました。それから後ろの方に目を遣るのです。それで僕はそちらの方を見ると…少し離れた所に白塗りの派手な高級車が見えました。その運転席にはサングラスをした男がいます、僕がそちらを見ているもんですから老人の男性が僕に言いました。『あれは、連れです。妻は認知症があって、僕等歳ですからここまで連れてきてもらったんです』と…」


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