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希望の塔と恋情の邂逅 3

 真っ白な廊下を進み、「A‐3」と書かれた扉を開ける。中に入るとたくさんのごちゃごちゃした機械と大きな窓が二人を出迎えた。窓の向こうには白い空間。遮るものの何もないその空間は、まさに実験場だ。

 中央には2人の少年が向かい合って立っている。右側に立つ少年は金色の髪に、金色の目。左側に立つ少年は銀色の髪に青色の目。二人とも病院の患者が着るような服に、靴は履いていない。金色の少年は手首に枷のような機械が付けられているが、全体的に身軽である。対して銀色の少年は腕や首にたくさんのコードが付けられており、動きを制限されているように見えた。

 金色の少年には左の頬に、銀色の少年には右の鎖骨に、それぞれバーコードが付いている。

「人体実験……か」

「ええ。いまさら、道徳とか神とか言わないでよね」

「言わねーよ」

 遊理が茶化すように言うのも無理はない。人体実験、それが『禁忌』と言われた時代は、遠に過ぎ去った。政府に登録していないものに人権など存在せず、自分の身を守れるのは自分しかいない。ルールが無いと言うことはそれなりにリスクが高いが、だからこそ力あるものは自由だと豪語する。力の無いものは、他者の踏み台にすらなれない。道徳的・宗教的にはそれがいけないことだと人々が言われ育ったのはどれ程前のことだろう。力あるものが平然と弱者を虐げるなんてことは世の中に溢れかえっている。

 これも、その一つ。

「右の子は肉体強化で左の子は魔法研究の実験中なの」

「へぇ。あの子どもたちはどっから?」

「元はひとぼしだったみたいね」

「ひとぼし……あぁ、孤児(みなしご)たちか」

「昔はロストチルドレンなんて呼び方もあったらしいけど、ひとぼしの方が素敵よね」

 ひとぼしとは親がいない子たちの総称である。政府に登録すれば施設に入れるが、その施設内で何をさせられるか解らないという点では、どちらが危険か分かったものではない。政府ですら、彼ら弱者を食い物にする。

 彼らはグループで行動することが多い。盗みを働くのに便利だとか、仕事を受けるためには人数がいるとか、もちろんそう言った理由もある。だが、彼らは時々保護活動と称した政府公認の捕獲対象にされる。捕まれば登録は免れないし、犯罪歴がバレれば監獄行きもありうる。監獄はこの世の果て。同じ人間が帰ってくることはない。

 だから彼らは、一人では行動出来ない。ひとぼしはどこにでもいる。時には良い人間に拾われて、育てられるなんて幻のような話もあるが、希望なんてものがあるから、絶望が濃厚になる。

「ちょうど始まるみたいね、見ていきましょ」

 遊理は放送器具の方へ近づきマイクのスイッチを入れる。

「識別コード、《P‐018》及び《M‐001》。始めなさい」

『LV.5 ミッション・スタート』

 機械的な女性の声に合わせて、白い壁の一部が開く。ぴくりと少年たちが反応した。

《P‐018》と呼ばれた金色の少年が先に飛び出す。扉の先にいたのは、ライオンらしき生物をベースにした合成獣(キメラ)。ほとんどライオンだが、頭には角が生え尻尾は3つに別れている。そして背中には大きな翼。

「へぇ、キメラじゃん。あんなんまで作ってんだ?」

「えぇ。動物の体内にも少量の魔法物質が存在するから、立派な研究対象なの」

 金色の少年は敵が動き出す前に飛びかかり、顎の下からアッパーを繰り出す。よろけて左にふらついた合成獣の横腹に回し蹴りを叩き込む。

 後ろに立つ銀色の少年は目を閉じ、魔法を使うことに集中している。足元に紫色の魔方陣が浮かび上がり右手には赤色の、左手には青色の光を灯す。

 無防備な少年を敵が放置するはずもなく、鋭い爪で襲いかかる。しかし金色の少年がそれを追いかけ防ぐ。激しい攻防が繰り広げられる中で、銀色の少年の魔法が完成した。


──「()(すい)魔法(まほう)水憐(すいれん)(ごう)()』狂い咲け」──


 詠唱と共に、魔方陣をとんっと踏む。開いた目の色は赤色になっていた。続いて空間を切り裂くような絶叫の後、合成獣が倒れ、炎が燃え上がり、燃え尽きて、塵になる。

『LV.5 ミッション・エンド』

 先程と同じ声のあと、扉が閉まった。金色の少年が駆け寄り、銀色の少年からコードを外していく。とても仲が良さそうだ。銀色の少年が悲しげに笑っていた。金色の少年も困ったような顔をする。

「へぇ、なかなかやるじゃん。瞬殺?」

「でもまだまだね。まだこの程度」

「何言ってんだよ」

「だってあなたには到底敵わないじゃない?」

「ん~、どうかな」

 茶化すような流歌の態度。しかし遊理は流歌を見てにっこりと笑った。

「嘘でも嬉しいわ。あの子たちは2人ともプロジェクトの研究成果なの」

「そういや《M‐001》の目の色が……」

「あぁ、あれは研究体に魔力を注入し過ぎたみたい。突然変異よ」

「魔力?」

「うーん、魔法を使うための力、とでも言えばいいかしら」

 そんなんあるんだ。と、銀色の少年を見た。彼らは手を繋いで、合成獣が出てきたのとは別の位置にある、開かれた扉から出ていくところだった。

「そうだ、どっちかと対戦してみない?」

「遠慮しとく」

「なんでよ、ケチ」

 少女のように頬を膨らまして拗ねる。どうせデータが欲しいだけだろ、と相手にはしない。取らせてやってもいいが、あの子達とやるのは気乗りしない。

「そういや、あいつらの名前は?」

「……秘密よ」

 悲しげな遊理に、流歌はそうかと言葉を濁した。


***


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