属性と能力と魔法の力 5
「ふぅ、こんなもんか」
ロープでぐるぐる巻きにした男たちを、腕を組んで冷めた目で見下ろす。
「くそぉ……」
「俺たち何もしてねーだろっ!」
「いやいや。俺様に声をかけるとか、見る目ないし。それに常習犯だろ?」
「う……」
「ま、運が悪かったと思って諦めるんだな」
なんならジェネラル呼んでやろうか? との一言に押し黙る男たち。警察機関に捕まれば政府に登録され、最低でも五年は監視を受ける。そんなことになれば動きにくくなることは必至。政府への登録は権利を与えられる変わりにそれなりの義務も課せられる。かつては強制であった登録だが、現在は個人の自由である。削除するには諸々の手続きや多額の資金が必要になる。一般人からの評判はけして悪くないが、流歌たちのように個人でも活動する者たちにとっては厄介なことこの上ない存在だ。
「そういや、お前ら仕事はどうした?」
「……ぁ」
拘束されているこの状況で、何ができるはずもなく、リーダーらしき男は観念したように俯く。しばらく考えてから、口を開いた。
「破棄するよ。せっかくのSランクだったのに……」
Sランクの依頼が受けられるだけの実力は実際に持っているらしい。ただ使い方を間違えただけで。依頼はジェネラルに連行されれば当然のように破棄されてしまう。男たちは沈鬱な表情で深いため息をついた。
「その依頼、俺様が受けてやろうか?」
「本当か?」
「おう。あんまりめんどくさいのだったらわかんねーけど」
「いや、頼む。早めに片付けなきゃヤバいんだ」
「……そんなん受けてるならナンパなんてしてんじゃねーよ」
「出来心だ、仕方ないだろ」
リーダーの言葉に頷く四人。可愛い子には声をかけなければ男じゃない、なんて声も聞こえてくる。救いようがない、と呆れながら流歌はロープを解いた。全員解放したあと、ぱんぱんと両手を叩いてみせる。
「え?」
「おい」
「いいのか?」
「いーよ。なんかもうめんどくさいし」
その言葉のどの辺りに感動したのかはわからないが、男たちは涙を流しながら頭を下げた。そのまま何事もなかったように去ろうとする背中に流歌は声をかけた。
「でも仕事は譲れよ」
「あ、あぁ」
「かわりに俺様の依頼譲ってやるよ」
猫の里親さがしだけど、とは敢えて言わない。しぶしぶと必要書類を渡しながら話し出す男。内容は『ある企業の内部調査』と簡単そうなものだった。こんな仕事がSランクである理由がわからない。
「依頼者は?」
「政府だ」
「あぁ、なるほど」
政府が絡んでいるのならそれくらいは当然だろう。あれに狙われるなんて、それなりに不味いことをやらかしているに違いない。どうせ裏だってすでにとれているのだ。御愁傷様。
協会を通して依頼を出す、というのは一種のパフォーマンスか、何か面倒な構造なのか。大きな組織が一枚岩で無いのはどこもにたようなものだろう。
「で、どこの企業だ?」
「『創楽社』だよ。結構ヤバいって噂だぜ……」
「……へぇ、それはそれは」
創楽社といえばこの国一の企業のはず。子どものゆりかごや玩具から老人の杖や入れ歯までなんでも作っていて、今の科学の発展にも貢献しているとかいないとか……。そんな企業が何故? 政府との癒着はそれなりにあるだろう。なるほど、だから協会を通しているのか。あの地獄は、今も。
流歌はそこまで思考を進め、そして止めた。そもそも考えるのは仕事に含まれていない。行って情報を得るのが仕事。それ以外は必要ない。
「じゃ、ありがたく貰っとくぜ」
「いくらお前でも一人じゃ無理だろ」
手伝おうかと続くはずだった男の口を人差し指で塞ぐ。
「俺様を誰だと思ってんだ?」
流歌はにっこり笑ったあと、書類を手に受付へ向かった。