属性と能力と魔法の力 4
扉を開けると建物の前、敷地内には広場がある。そこでは情報交換や、ギルドへの勧誘、単なる噂話など様々なことが行われている。また、協会に依頼するほどでもないお手伝いや、アルバイトなどを張り出した掲示板もある。
流歌は掲示板を覗くが、簡単な手伝いすら見当たらない。軽いため息を溢すと、広場の真ん中を背筋を伸ばして歩いた。ちらちらと伺う様な視線にももう馴れている。
外門までの距離があと数歩といったところで、ばりばりと音を立てて氷の壁が立ち上った。明らかに流歌の邪魔をする意識を感じ、振り返るとガラの悪そうな若者が五人。嫌そうな表情を隠しもせず流歌は彼らを見上げる。
「何?」
「お嬢ちゃん、かーいいねー」
「お母さんのお使いかなぁ?」
「一人で歩いてちゃ危ないよ~?」
ニヤニヤ笑いながら流歌を取り囲む若者たち。もうため息しか出ない。鋭い風で氷の壁を切り裂き、流歌は前に進もうとした。が、今度は突然の炎に取り囲まれる。面倒なことこの上ない。
「どこいくのさぁ」
「風属性だったんだね。めっずらしー」
「ちょっと遊ばね? お金なら心配しなくていいから」
「遊園地でもいくか? ウィンドウショッピングってやつでもいいぜ」
「るさいなぁ。邪魔なんだけど?」
不機嫌にそう言うが、男たちは聞く耳を持たない。面倒になり足をならせば、応えた水の精霊がザァァと雨を降らせる。炎の鎮火と共に雨は止んだ。
「ひゅうう」
「すごいねー、いまのお嬢ちゃんがやったのかい?」
「これは将来有望だな」
「なんなら、俺たちの仲間にしてあげようか?」
「まずはそこのカフェでお話聞かせてよ」
男の一人が無理に腕を掴み連れて行こうとする。周りの人間は見ているだけ。それにも段々とイライラしてきて腕を掴んでいる手を逆に掴んでやる。少し捻り上げれば男は簡単に悲鳴をあげた。
「にすんだてめぇっ!」
「俺たちを誰だと思ってやがるっ!!」
「そうだぞっ! 俺たちは泣く子も黙る最強チームっ!!」
「数々のSランクをこなしてきた最強チーム『シュロッソ』だっ!!」
「今の内に泣いて謝った方がいいんじゃねぇのぉ?」
弱い、弱すぎる。なぜこう、悪役というものは偉ぶるのか。つーかそんなチーム名聞いたことねぇし。ギルドですらねーのかよ。心の中で毒づきながら相手を見る。
軽く咳払いして、男を解放する。何回見ても強そうには見えないが、Sランクをこなしてきたということはそれなりの実力、ということだろう。相手を見る目がないのだけは確かのようだが。
「ほら、お嬢ちゃん。今なら謝るだけでゆるしてやるよ?」
「お前らさぁ、誰に声かけてるかわかってんだよな?」
「は?」
「何言ってんだ、こいつ」
ニヤリと笑いながら流歌は一歩踏み出した。その気迫に圧されて全員──もちろん遠巻きに見ていた人間も含めて──一歩下がる。
「あれ、俺様のこと知らないの? 今まで達成した一般のSランクは今回ので百件を達成したんだ」
「な、」
「魔導師の仕事も同時遂行なんて当たり前。一般の依頼であってもランクには拘らない」
「こいつ……」
「政府には登録してねーけど、仕事の報酬としてその絶対の権力を保証されてる。逆らうことは赦されない」
「ま、さか……」
「俺様は『流歌』。大魔導師さまだぜ?」
ひっ、とどこからか悲鳴が上がるが、気にすることなく流歌はにっこりと笑った。周りの人間からすればさながら恐怖映像。笑うところではけしてないはず。男たちは回れ右をして逃げた。いや、逃げようとした。しかしその行く手を急成長した草が壁となり阻む。
「おいおい、どこいくつもりだよ」
「あ、いや、その……」
「おにーさんたち、遊んでくれるんだろ?」
壁から花が咲き花粉を撒き散らす。流歌の合図で風が吹き、濁りかけた空気が霧散した。
「さぁ、遊びの時間だ」
流歌の言葉に青くなるも後悔先に立たず。その場には男たちの悲鳴が響き渡った。