属性と能力と魔法の力 3
流歌はにっこり笑って、まだ怒っているマスターを見る。今まで口付けていたグラスをそっと撫でた。
「面白そうなメモリーログ見っけてさ、使ったら電気だった」
「……次は何ヵ月だ?」
「二ヶ月かな……これで通算五年くらい」
「っまえなぁ……。魔導師なんだから、それ以上の力なんて必要ねーだろ?」
「いーだろ、別に」
「……」
「盗むのに飽きたんだよ」
マスターの視線に耐えきれず、流歌は口を開いた。
流歌は数少ないと言われている魔導師である。その上、属性に自然を、能力には操作と転写という特殊な力を持っていた。能力はけして珍しいものではない。注目すべきは彼の属性。自然という属性は今までにどんな文献を漁ってみても、持って産まれた人間はいない。ある種、突然変異のような属性である。自然とは言っても自然界の全ては操れない。自然を中心に考えたときに末端と呼ばれるのは五大元素。それらから派生し、そこから大きく離れた属性は操ることができない。
だが盗むことは出来た。それが転写能力。本来なら自分が持つ属性と同じそれの派生、或いは相性の良い能力しか盗めないものだが、自然はすべてを抑えつけられる。つまりどんな属性、能力、魔法であっても、彼にはコピーすることができた。けれど、それを本人が良しとしているかどうかは別問題。
「大体お前は──」
「ごちそうさま」
マスターの小言が始まる前にと流歌は席を立った。これ以上ぶつぶつ言われては堪らない。自分の人生は精霊との契約のせいで後百余年あるのだから、好きなように生きる。流歌はマスターに微笑みかけてから扉に手をかけた。マスターはその背中に声をかける。
「あの話、考えてくれたか?」
「何度言われてもダメだよ。俺様は一人でいい」
「じゃあ、また考えといてくれ」
お決まりになったこの言葉にくすりと微笑んで、今度こそトワイライトを後にした。
***
トワイライトを出てから流歌は協会に来ていた。協会とは言わば仕事の斡旋所のことである。ギルドに所属する者だけでなく、個人でも仕事の依頼を受けることができる。仕事を募集したい者が協会に提出し、それをランクによって振り分ける。政府への登録は必要ない。
「終わったぜ☆」
受付窓口で紫紅の宝玉を渡し、ポーズを決めながら流歌は言う。受付嬢は何も答えず宝玉を受け取り、報酬額の記された小切手を差し出す。流されること自体はいつものことなのであまり気にしない。例の会社の倒壊に関わりたくないという意思表示か、受け取った報酬は募集時に提示された額より多い。
「次、なんか面白そうな仕事ない?」
「現在魔導師さまへの仕事依頼はありません」
「一般のやつは? Sランクで」
「一般のものは、先日ギルド『レッドカルダ』様が受注されたため全てそちらに回りました。現在Sランクは3つ、どれもまだ未完ですが、すべて配布済です」
「そっか……Aランクは?」
「現在、どなたも受注されていない依頼の最高ランクはC。『子猫の引き取り手を探してほしい』というものです。受注されますか?」
「うーん。貰っとく」
「かしこまりました。手配いたします」
「最近変な事件なかった?」
「変な……先日ビルの倒壊がありましたね」
「それじゃなくてー……」
「他にはこれといって存じ上げません。受注、完了いたしました。期限は一ヶ月となります」
「りょーかい」
流歌はつまらなそうに書類を受けとると、受付から背を向けた。が、そういえば、と溢された彼女の言葉に足を止める。
「コピーを転売なされば犯罪となります。お気をつけください」
「……ありがと」
ニヤリと一度だけ振り返り今度こそ受付窓口を出た。