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おくぶたえ  作者: 水上栞
第三章
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12◆ 光太郎のかくしごと

 


 夏休みがあけて、ふたたびスクールライフが始まった。去年の新学期は骨折で入院していたが今年は幸い何事もなく、あゆみともまた同じクラスで同じように喋ったりお菓子を食べたり、休み前と変わらず過ごしている。


 いや、厳密に言えばむしろ彼女とは以前より本音の付き合いに近づいたと思う。以前の私たちは光太郎を挟んでどこかしら不自然に対峙していた感があったが、その仕切りが取っ払われた事ですっきりと風通しが良くなったのだ。



 ところが今度はその仕切りであった光太郎が、ややこしい事をし始めた。何と奴は新学期早々バスケ部を辞め、学校でもちょくちょく問題行動を起こすようになったのだ。とは言っても別に警察に厄介になるような悪さではないのだが、たまに学校に遅刻したり無断欠席をするようになり、中間考査の成績もガタ落ちしたらしい。




「もー、あいつの頭の中身がわかんないっ!」



 由佳里ちゃんが頭から湯気を出している。母の使いでお惣菜を射手矢家に届けに来た私は、さっき光太郎とケンカしたばかりの由佳里ちゃんにつかまり、近ごろの末っ子の不可解な行動について相談される羽目になってしまった。


 実は私も知らなかったのだが、このところ光太郎はアルバイトをしているらしい。うちの学校は基本的にバイト禁止だが、夏休みだけという約束で親に承諾を得たディスカウントストアの仕事を、新学期になっても光太郎は続けていて、部活をやめたのもどうやらそこに原因があるらしい。私は由佳里ちゃんに光太郎がバイトを始めた理由を訊ねてみた。



「はじめは、バイクのガソリン代だったはずなのよ」


「という事は、今は違うの」


「うーん、何だかバイト先の連中と遊んでるみたいなんだよね」



 光太郎のバイト先のディスカウントは、私も知っている店だった。乗換駅の前にあるドラッグストアを兼ねた大型店で、おそろいのTシャツを着た若い店員さんが大勢働いていたような記憶がある。


 ただし若いといっても大学生かそれ以上の人たちで、高校生の光太郎がつるんで遊ぶとなると、ちょっと背伸びの感が否めない。頑張っていたバスケをやめてまで遊ぶなんて、何だか光太郎らしくないような気がした。奴は人当たりこそ最悪だが、決して非行に走るような人間ではなかったはずだ。


 私は今度、その店に寄って様子を見てくることにした。バイトが学校に見つかれば停学はまず免れない。そのリスクに見合うだけの収穫があるのかどうか、この目で確かめてみたいと思ったのだ。






 通常の探偵活動は秘密裏に行われるべきものなのだろうが、私の場合はお目付け役がついてきた。私の放課後の予定を完全把握しないと気がすまない羽根田氏は、かくかくしかじかでディスカウントストアに偵察に行くのだと白状すると「俺も行っちゃる」とのたまった。


 何と彼の通う予備校が例の店の筋向いにあるらしく、授業の前に立ち寄ると言って聞かないのだ。この調子では嫌と言っても結局ついてくるだろう。私は仕方なく探偵ごっこにノリノリの圭吾を引き連れ、光太郎のバイト先偵察に繰り出すことにした。



「あ、いたいた射手矢」


「どこ」


「あそこ、ポテチのかごの前」



 光太郎はお菓子コーナーでポテトチップスの品出しをしている最中だった。箱をつぶして数を報告する光太郎の横で、女の人がボードにチェックを入れている。かなり明るい茶髪の、どちらかというと華やかな感じの美人さんだ。年は20歳前後だろうか。二人は仲良さそうに微笑を交わしながら、淡々と作業を進めている。やがて全てのポテチの品出しが終了したところで、圭吾が陳列ラックの陰に私を引っ張りこんだ。



「見たか」


「何を」


「べっぴんじゃねー?」


「あんたどこ見てんのよ」


「いやいや、あの姉ちゃんが、射手矢が遊びだした理由じゃね?そうとしか思えん、俺ならそうだ」



 私は圭吾に「エロじじいめ」とデコピンをお見舞いした。確かに彼女は美人だが、果たしてそれが彼の問題行動の理由になるだろうか。ちょっと年上の人たちと一緒に遊んで、大人になった気でいるだけかもしれない。私たちの年代の男の子には、往々にして起こる。


 もしそうなら熱病みたいなもので、じきに平常に戻る可能性が大きい。私は今日のことは由佳里ちゃんに言わずにおこうと思った。根の真面目な光太郎の事だし、黙って少し様子を見たほうが良い。私はアダルトグッズコーナーを覗き込んでいる圭吾の耳たぶを引っ張ると、早々に店から退散した。


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