5◆ 圭吾の初めての女
帰りの新幹線の中では二人とも疲れ果てて爆睡した。絡めた指にはシルバーのペアリング。圭吾はそれを渋谷のショップで私に内緒で買い、帰りの東京駅のホームで指にはめてくれた。
鈍く輝くその銀の輪は、まるで甘い監獄のようだ。ドライだと自己分析していた私が、こんなメロウな気持ちになるなんて。「恋は愚か者の知恵であり、賢い者の愚行である」とはよく言ったものだ。その言葉どおり、私たちは親や周囲を欺く知恵をつけ、人前でいちゃつく愚行を重ねた。
「圭吾の初めてっていつ?」
「中2の時、相手は飲み屋のホステスさん。家の手伝いでビールの配達に行ったら気に入られて」
私は先日が初体験であったのは言うまでもないが、「手当たり次第」と言われた遊び人の圭吾にも当然だがお初はあった訳で。東京から帰って何度かそのような行為を致した時、前から気になっていたことを思い切って聞いてみた。それが上記の答である。
安易というか動物的というか。しかもそのホステスさんとは半年以上も関係を続け、最後は彼女の彼氏に見つかり、部屋から蹴り出されたというから呆れてしまう。
「でも、その頃って同じ中学の彼女いたよね」
「いたね」
彼に初カノができたのは中1の冬。例のごとく告白されて即OKというパターンで付き合い始め、半年足らずで消滅した事は以前に聞いて知っていた。
解せないのは、キス止まりとはいえ彼女がいたのにホステスさんとエッチしてしまう精神構造だ。彼にモラルの概念がないのか、それとも男はみんなそうなのか。そう言うと圭吾は「男はみんな」説を力強く支持した。
「男なんてそんなもんだって。中学生なんてサルだぞ、チャンスがありゃ食いつくよ。 処女と違って童貞は早く捨てたもん勝ちみたいなところあるしさ」
そこまで言って、私の眉間のシワにおそれをなしたのか、ぼそぼそと言い訳を付け足した。
「まあ、彼女を本気で好きじゃなかったからだろうけど」
以後は本人いわく「合意の上」で4人と交際に至らない関係を持ち、高須さんと付き合い始めたのが高1の秋。その間3回浮気をして現在に至る。つまり私は彼女としては3人目という事になるが、何だか釈然としない。
自分だけのものであるはずの彼氏が、まるでみんなの共有物であるような気がしてならない。圭吾の色んなアレコレを知っている女が私の他にもいっぱいいるという事実が、特別でありたい私には非常に受け入れがたいことであるのだ。
「特別だって言ってるじゃん、千夏子は」
拗ねていたら圭吾が前髪を梳いてくれた。私は髪をさわられるのが大好きだ。圭吾の指は長くて節が骨張っている。そのセクシーな指が生え際に触れるたび、弱電流に触れたような痺れが全身を駆け巡る。
「俺、やることばっかり考えてたから、他の奴らが女のことで悩んだり浮かれたりしてるの、バカじゃないのって思ってたけど」
長い指が今度は私の鼻をキュッとつまんだ。
「でも、ようやくその気持がわかった。千夏子が笑うと嬉しいし、一日会えないだけでイライラするし。きっと俺にとっては、千夏子が初恋だよ」
自分で言っといて圭吾が「恥ずかしいこと言わせんな」と私の耳たぶに齧りついてきた。舌先で擽られて思わず背筋が仰け反る。その反応に気を良くしたのか、圭吾が今度は首筋に吸い付き始めた。どうやらスイッチが入ってしまったらしい。
最近私はこういう彼のサインを察知できるようになった。しかしこちらは全くその気がない。私は圭吾を鎖骨から引き剥がすとキッと睨みつけた。
「ちょっと、さっきしたばっかりでしょ」
「千夏子となら何回でも復活しちゃう」
「麻美ちゃんに聞こえちゃうってば」
麻美ちゃんとは中学2年になる圭吾の妹である。今日は日曜で部活も試験前休みなので、私は圭吾と一緒に勉強をしようと羽根田家を訪れていた。ところがこの男ときたら、家族が出払っているのをいいことに、来るなり私を押し倒したのだ。確かに拒まなかった私も私なのだが。
しかし現在、隣の部屋には麻美ちゃんが帰ってきている。兄貴と彼女がいちゃこく気配に気付かれでもしたら大変だ。




