[ もなか / ミシン / 懇願 ]
母様は、平民の出だ。
平民であった頃は、手遊びとして、よく、縫い物を嗜んだという。
そんな彼女のために、父様はミシンの間を彼女に用意した。
小さい部屋。
それでも母様は、とても喜んでいた。
「見て、私のお城よ」
そんなミシンの間は、母様が生きていた頃は彼女のアトリエとして機能していたが、母様が流行り病で亡くなってからというもの、父様は人が変わられてしまった。
愛する人のお気に入りだったアトリエを、仕置き部屋に作り替えてしまったのだ。
何人の使用人がここで命を絶ったか、もう僕にも分からない。
僕は今、そこに繋がれている。
『魔女の地図』を視ていたことが、父様に知られてしまったのだ。
重い足漕ぎミシンは、鎖で繋ぐときの重しとしてぴったりなのだろう。僕の足に繋がれた鎖は、亡き母の、形見のミシンに続いている。
やがては、僕も、使用人たちと同じ道を辿るのだろう。
カタン、と音がして、拷問官と父様が現れた。
激しい責問は、どのくらい続いただろうか。
だけども僕はなにも知らない。あの地図がなぜあの図書館にあったのかすら。
着ていたドレスは裂け、肌は破け、血を吐いた。
僕はその最中、父に懇願した。
『魔女の地図』を作った者に会ってみたい。
絶対に見つけ出す、だから。
父は、そんな僕の顔を見て、拷問官を下がらせた。
父様が僕を許した理由は、僕には分からなかった。