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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪夢は終わらない

作者: 鬱鬱鬱

後味最悪な作品です。Uターンをお勧めします。

(ーーー死にたくない死にたくない死にたくない)


 俺はトラックにはねられ、感覚的には永遠かと思えるほど長い時間、空中に投げ出されながら、願い続けた。

 先週、一世一代のプロポーズに成功し、愛しい彼女と共に歩んでいくことが決まったのに、こんなところで居眠り運転のトラックにはねられ、身体中に痛みが走り、なぜ自分にこんな不幸が降りかかるのか、と心の奥底で疑問に思いつつ、とにかく今は死にたくなかった。愛しい彼女のもとへ帰りたかった。


『その願い叶えてやろう。ただし呪いという形でな』


 幻聴。その声はあまりにもはっきりと、しかし、その声質は透き通った美しい声のような、はたまた老婆のようなしわがれた声のような、幾重にもいろんな人の声が折り重なったような不思議な幻聴だった。










 気がつくとなぜか森の中にいた。

 服装はいつもの安いスーツ、傍に手持ち鞄、周りは見渡す限り木、木、木。

 先ほどトラックに跳ねられたのは夢だったのだろうか?いやいや、たとえあれが夢であったとしても森の中に一人でいる今の状況の方がおかしいだろう。むしろ今が夢なのではないだろうか?

 そう考えて頬をつねってみると


「いはい」


 痛かった。

 今、座っている地面も、近くにある草も触り心地はこれが現実だと訴えている。しかし、なぜ森の中?

 そう思ったところで5メートルほど離れた所の茂みがガサガサっと音を立てた。

 思わずビクッと体を震わせて、しかし、もしかしたら森林浴に来た人か救助隊かもと考え直して、誰か居るんですか?と誰何してみる。

 あとから思えば、この声掛けは悪手だったんだろうな。

 茂みから出てきたのは、小さな子供だった。ただし、その肌は緑色で手には少し太い木の棒を持ち、服など一切着ていない汚物をぶら下げた変態露出狂。ファンタジーによく出てくるゴブリンさんだった。


「ぐぎゃぁ」


 ゴブリンさんは、こちらを見てニタァと気持ちの悪い笑みを浮かべている。まるで獲物を見つけて、その獲物が無様な姿を晒しているのを嘲笑っているかのようだ。

 そうか、獲物は俺か

 頭の中でなぜか冷静だった部分がこの状況を正確に捉えて教えてくれる。

 それが体全体にまで行き渡るのに数秒。その間にもゴブリンさんは近づいてきており、2人の間はわずか2メートルちょっと、おそらくゴブリンさんは、次の一歩を思い切り踏み込んで一気に接近してくるだろう。

 本能がゴブリンさんを敵だと認識し警鐘を鳴らしているのに、日本という平和な国で育った自分はどこか楽観的でゴブリンさんは対話でなんとかなるのではないかとプリンのような甘い考えを持っていた。しかし、プリンも甘いだけでは美味しくない、カラメルというちょっぴり苦いあのソースがあるからこそあそこまで美味しいのだ。

 ゴブリンさんはまさにカラメルソースのように苦い存在だった。


 より一層その醜悪な笑顔を深めて一気に駆け寄ってくるゴブリンさん。その勢いに喉のどこから出ているのかわからない「ひゅぅ」という変な声がでて、腰が避けてしまう。


「まっーーー」


 待って欲しい。そう声を出そうとした瞬間、ゴブリンさんが振り上げた太めの棒が振り下ろされる。

 反射的に体を傾けて、左腕を頭上にあげガードしようとするが、思い切り振り下ろされた棒は、今まで本気で殴り合いなどしたことのなかった自分には、予想外の衝撃で、そのまま腕ごと頭、背中と叩かれ、地面に叩き潰される。


「がはっ」


 肺から空気が漏れて、軽く地面に跳ね返りその場でバウンドする。

 痛いと思う間もなく、ゴブリンさんに腕を踏まれ、押さえ込まれ、ちらりと横目に見えたゴブリンさんの顔は先ほどよりもさらに醜悪な笑顔になり、それは喜色を表していた。目が爛々と輝いていて、まるで目の前にご馳走があるようだ。

 ゴブリンさんは棒を振り上げてとどめを刺そうとする。

 その時になってやっと恐怖と絶望が全神経に行き渡って体が震えだす。

 それを感じ取ったのか、ゴブリンさんはピタっと動きを止めて、今まで浮かべていた笑顔をやめ、真顔になった。


「こ、殺さないで」


 もしかしたら、と一筋の希望にすがるように、か細い声で懇願してみると、ゴブリンさんは何かを考えているようで動かない。

 そう思っていると腕を踏んでいるゴブリンさんの足からプルプルとした小刻みな震えが伝わってくる。一瞬、痛みと恐怖による自らの震えかと思ったが、よくみるとゴブリンさんは、その小さな体躯を全身震わせていた。

 何かに怖がっているのか?などと見当違いのことを考えて、次の瞬間、ゴブリンさんの表情をみて思い直した。

 その表情は醜く、恍惚としており、満面の笑顔だった。


 ああ、喜びに打ち震えていたのか。


 またしても、変に冷静なところが現状を正確に教えてくれる。

 勢いよく振り下ろされる棒、それは狙い違わず、頭部に直撃し、さらにもう一度、もう一度、もう一度、もう一度、もう一度ーーー


 いつのまにか、意識は飛び、暗闇の中に閉ざされていた。


(死ぬのか…いや、死んだのか?)


 そう考えた時、夢だったのか現実だったのかは、分からないがトラックに跳ねられた時に聞いた幻聴と同じ不思議な声が響いてきた。


『いいえ死なないわ。あなたには不死の呪いがかかっているもの』


 不思議な幻聴は、とても可笑しそうに、うふふと笑い声をあげている。

 不死の呪いとはなんだろうと考えたところで、ふっと目の前が明るくなった。

 そこには、見慣れた高層ビルや人ごみ、電車や車などの現代の風景が映し出されていた。そして何よりその光景の中心には、愛しい彼女が写っていた。あられもない姿でーーー

















(なんなんださっきのは!?夢にしたって悪夢すぎるだろ!!)


 見せられたのは愛しい彼女が身なりの悪い、いかにもな男の集団にレイプされる場面だった。

 彼女は抵抗し、助けを求めて叫ぼうとするが、口を封じられ、そのうち目が死に、諦め、受け入れてしまっていた。

 そんな最悪な場面をただただ眺めるしか出来なかった自分は、自己嫌悪と男たちに対しての憎悪で怒り狂っていた。

 そこにまたしても不思議な幻聴が聞こえてくる。


『さっきのは現実に起きていることよ。あなたが死にたくないって言うから、あなたが生き返るたびに大切な人に不幸が降りかかる呪いをかけたの。くふふ。とってもいい顔ね。私その顔とっても好きだわ』


 幻聴が悪魔のようなことを言い終わると、今度はさらに強い光が差し込んできて、意識が浮上するのがわかった。



 目が醒めると、先ほどと変わらず森の中にいた。

 しかし、近くにゴブリンさんの姿はない。

 しばらく呆然と先ほどの夢について考えていると、またしても、5メートルほど離れた茂みがガサガサと音を立てて揺れた。

ごめんなさい

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文章とても読みやすかったです。 [一言] いわゆるデスループものの亜種だと思いますがスイスイ読めたので、 異世界無しの、完全現実世界のパターンを希望します! (なんでゴブリン?って思いまし…
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