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自分が親元を離れたのが早かった。
だから息子も早いだろうと漠然とではあるが、思っていた。
実際はそれほど早くなかったが、家を「じゃあちょっと行ってくる」と言って
出ていって以来戻ってこない。
どこにいるのか知る唯一の手がかりは息子宛に送られてくる葉書だ。
旅先で出会った人に何か良いことでもしたのだろう、
あの時はありがとうだとか、楽しかったと書かれている。
時には見慣れぬ文字の手紙もくる。
読める人を探し出し、訳してもらうと、それはタイ語で、
また遊びに来いということが書かれていた。
日本にも帰って来てはいると思うが、
この家に帰ってきそうな気配はない。
育て方が悪かったのかしらと妻は悩んでいるが、
素地がもともとあったのだ。
育て方云々ではない。
きっとそのうち出ていった時と同じように、
唐突に「ただいま」と帰ってくるのだろう。
その時は、頼むから昼間、明るい時にして欲しい。
<了>