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第24話:祭のあとさき




 初日にあんなことがあったが、大収穫祭は最終日まで問題なく進行した。

 結局、法王サマはあの後姿を見せなかった。

 急用で首都に帰ったということになったらしいが、法王庁の客車は最終日まで置きっぱなしで、どうやって帰ったのかは謎に包まれている。

 まあ、法王サマだし、なんか凄い移動手段とか持ってるんだろう……。


 そして、結論から言うと……。

 この大収穫祭、インフィートは優勝できなかった。


 流石にハナから勝負を捨てきっているランプレイ方面には勝ったが、カトラスには僅差で競り負け、バーナクルとはもう全然勝負にならなかった。

 やはり、豊穣の祭りにおいて、多様な食材というアドバンテージは揺るがすことができなかったか……。

 バーナクルあれでいて農作物も結構豊かだもんなぁ……。

 悔しいが、受け入れるしかない。


 ちなみに、以前の事件に対する恨み辛みの影響か、祭りを襲った邪神教徒のキルスコアはウチがトップだった。

 良くも悪くも爪痕は残せた……のか……?



「各地方の商工会の方々ともタップリお話できましたし、大陸中の方々に私たちの街を売り込めたと思います! このお祭りは凄く勉強になりました! この経験をバネにまた来年頑張りましょう!!」



 サステナが興奮に目を煌めかせながら、閉幕の挨拶をしている。

 凹んでるんじゃないかと心配していたが、この程度でへこたれるような子ではなかったようだ。

 まあ、この祭り最大のメリットはまさにそこで、他の商工会との連携を密に取りやすくし、特産品や技術を他の街、地方へ売り込む足がかりが作れるという点である。

 ランプレイ方面ほど極端でなくとも、どの街の屋台街にも、奥には常設の特産品商談テントが設営され、華やかな祭りの喧騒をBGMに、金と熱意をぶつけ合う商談会が開催されているのだ。


 アオラちゃんの糸や、ラウダ―さん達の竹、ドワーフのおっちゃんらの鉄器、宝石、その他、祭りを盛り上げる用途には使いにくい、地味ながら付加価値の高い、収益性のあるものがそういったテントで商談され、都市間交易の種になっていった。


 アオラちゃんは人見知りのため、ラウダ―さんが代理で商談をしてくれたそうだ。

 都の上流階級向けのアクセサリーとしてごく少量を流通に乗せるらしい。

 これなら本を読む傍ら、釣り糸と並行して作れると喜んでいたとのこと。


 この最奥のテント街こそある意味、この祭りのバイタル・パートであり、ここが邪神教徒による被害の一切を被らなかったのは幸運というほかない。

 商会重鎮の死人とか出したらデイスの運営委員会の責任問題になっちゃうからね。




/////////////////




「ありがとうございましたー!!」


「「「「ありがとうございました!!」」」」



 インフィートの飛行甲板。

 サステナと共に並んだ祭り関係者が、一斉に見送りをしてくれる。



「気をつけてなー!!! みんなー! また会おうぜ―――!!」



 そして、その輪の中から馬鹿デカい声が飛んで来る。



「お前こそ気を付けてなー!」


「危ないことがあったらいつでもギルドバード飛ばしてくださいねー!」


「また……! また会おうね―――!!」



 その声に反応して、俺の隣からも熱い声が放たれる。

 そう。

 マービーはインフィートに一人残り、サステナの護衛兼助言役になることを買って出たのだ。


 彼女は確かに、エドワーズパーティーのイケイケな立身出世街道に疲れていた。

 だが、かといって俺達のようなノンビリまったりのパーティーもイマイチピンとこなかったらしい。


 この祭りの間ずっと、自分の生き方や身の振りに悩んでいた彼女に道を示したのは、ラウダ―さんやアオラちゃんのような、ある時は自分の得意分野へひた向きに、またある時は自分の好きなように生きるこの街の職人達であった。


 そんな人々の姿に惹かれた彼女を、サステナが側近にスカウトしたというわけだ。

 ちなみに、そのスカウトの後押しをしたのはシャウト先輩である。

 俺じゃないよ! 本当だよ!?


 シャウト先輩は誰に教えられるでもなく、マービーの変調に気づいていて、さらにマービーが職人達の……特にラウダ―さんに惹かれているのも感知していた。

 そして、側近への推薦の決め手となったのが、祭りへ向かう道中、俺の進言でアレコレと走り回るサステナの姿を見たことらしい。

 

 俺も思ったのだが、サステナは真面目で優秀で、人を動かす愛嬌もあるが、頭がちと固い。

 ヒト、モノ、カネ、情報を結び付けて、より多くの富を生み出す能力に欠けているところがあるのだ。

 そこで白羽の矢が立ったのがマービー。

 行動力があって誠実だが、遊び心があり、肩の力を抜くことの大切さを知っている。


 元々ワンマンだった都市の事、気軽にアレコレ言い合える、同じ性別、同い年くらいの女房役は、サステナにとっても、インフィートにとっても、よりよい未来を目指す足がかりとなることだろう。



「おいユウイチ、ミコト」



 窓からエドワーズ達と一緒に手を振っていた俺達の肩を掴み、無理やり荷室の奥へ引っ張っていくシャウト先輩。

 な……なんすか!?

 今日はまだセクハラしてないっすよ!?

 え……もしかして後夜祭のこと……!?



「お前ら、分かってんだろうな」


「はいっ! 後夜祭の最中、先輩のお尻触ったの俺です! すみません!」

「後夜祭で酔い潰れた先輩のお皿に残ってたオーギョーチ全部食べたの私っス!」


「ちっ……違うわ! ていうかお前ら……」


「ぐえぇ!?」



 ビリビリダブルチョップが俺の脳天に叩き込まれた。

 ついでに横から張り手も来た。

 ごめんミコト! 汗でツヤっとしたぴっちりショーパンがあんまり眩しかったもんで……! 酔った勢いでつい……!


 ハァハァと荒らげた息を整えた後、先輩は頬に赤みを残しつつ再び口を開いた。



「ユウイチが何か背負わされてんのは分かった。不本意だがな」


「俺も全くもって不本意ですが」


「そんなこと契約書に無かったっスよ……?」


「だがな、分かってんな? お前はアタシのパーティーのメンバーだ。勝手なことは許さねぇからな」



 そう言うと、先輩は俺達の胸倉を掴み、グイと顔を近づけてきた。



「神託だか何か知らねーが、何か起きたら絶対アタシに真っ先に言え。どんな奴が相手でも、どんな規模でも、アタシは絶対味方になってやるからな。勝手に首突っ込んで勝手に死ぬとか許さねぇぞ」



 先輩の熱い言葉。

 しばらく見つめ合う俺達。

 やがて、先輩の顔がプシューッと赤くなっていく。

 本心なんだろうが、かなりクサいことを言ってしまったことに気付いたらしい。

 内心気恥しいと思いながらも、俺達のためを思って放たれた言葉に、俺達は胸が熱くなる。

 熱くなったらすることはただ一つ。



「「せ……先輩―――!!」」


「だーもう!! その抱き着き癖やめろ馬鹿ども!! あっ……お前どこ触ってんだコラ!! おいミコトもっ……どこ揉んでんだオイ!」



 暑苦しい3人組×2の声が秋空に響き渡る

 「あの……ボチボチお静かに……」と、船長から注意されるまで、そのバカ騒ぎは続いた。


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