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第23話:暗黒大陸から来た者たち




 恐れられていた邪神教徒による大収穫祭襲撃作戦は、完全に未遂で終わった。

 大収穫祭は半日の休止の後、日程通りに続行するそうだ。


 ただ、気がかりなのは、二つの邪神教徒集団を率いていた人物が不明という点と、誰にも気づかれることなく邪神教徒達をデイスの中に侵入させた方法が全く分からないという点だった。


 例によってデイスの受付のお姉さんがごう……いや、尋問をしているが、誰も彼も「青より(黄色より)多く人を殺せ、屋台を燃やせ、家を焼けとしか言われなかった」である。

 それぞれの集団のリーダーはデイスの入口付近で謎の死を遂げていた。

 片方は元々この地域で指名手配されていた山賊の長、もう片方は、バーナクル方面で悪事を働いていた海賊の下部組織のリーダーとのことだ。

 またやりやがったなフランチャイズ邪神教徒……。



「お前ら襲ったっていうローブの奴が気になるな」



 シャウト先輩がサステナを膝枕し、扇であおぎながら言う。

 あの時デイスの大やぐらの上にいたサステナは、目の前の光景に失神してしまい、未だに目を覚まさない。

 シャウト先輩の腰にしがみ付き、寝言(?)で「お母さん……」と呟いている。

 あれ……なんか尊みが……。

 いや、今はそれは置いといて。



「まあ、無関係ではないでしょうね」



 先輩の短剣を手入れしながら返事をする。

 研いだ後魔法結晶で磨いてやると、魔法の乗りが良くなるのだ。



「デイスの魔防陣を越えて感知も出来ない遠方へテレポートしたり、殺気を出し入れしたり、相当の実力者っスよあの人」


「その割にはあんま強くなかったけどな」



 ミコトの話も、マービーの話も間違いないだろう。

 比較的テレポートを使いこなしている俺でも出来ないような転移をしたり、無詠唱でフロロバインドを打ち消したりする割には、対人下手な俺やミコトに追い詰められ、マービーにあっさり蹴り倒された。

 この傾向、なんか覚えがあるんだが……。



「身の丈に合わねえ強能力持ちってか。初めの方のユウイチみてぇだな」


「あ、先輩もそう思います?」



 まさかとは思うけど……俺と似たような事情の人……か?

 仮にそうだとするなら、何かチートスキル持ってる可能性があるけど。

 なんて説明したらいいんだ……?

 ……。

 相談、してみようかなぁ……。




/////////////////




「オイ、ユウイチ……。 大丈夫なのか? 知らねーぞ」


「雄一さんどうやって法王様と知り合ったんスか……? お酒飲み過ぎて幻見たとかじゃないっスよね?」


「いやまぁ……あの人だとは思うんだけど……多分大丈夫……だよね?」


「知らねーよ! ただでさえアタシやらかしてるのに、訳分からねぇこと言う怪しい下っ端連れて来たとかなったら、絶対国から懲罰来るぞ!」


「ゆゆゆ……雄一さん! やっぱやめましょうよ! 先輩が冒険者の権利はく奪されて農奴送りとか嫌っスよ!」


「ふ……不安になること言うなよ! 最悪そうなったら俺達で養うしか……痛ぇ!」


「おっ……お前アタシを養うとか何言ってんだオラ! 10年はえーわ!」



 俺達は今、先輩の権限でデイスの大やぐらに登っている。

 夕刻だが、法王サマはまだやぐらの上で祭りを眺めているらしい。

 不安ではあるけど、あいつが転生者だったら放っておくわけにはいかない……よな。


 意を決し、最上段に繋がる階段に足をかけると、聞き覚えのある笑い声が聞こえた。



「待っておったよ ほっほっほ……」


「で……出たー!」



 驚いたシャウト先輩が俺の後ろに隠れる。

 ミコトも負けじと俺の後ろに潜り込んだ。

 いや! 離してくださいよ!

 あとミコトはズボン掴むな! 脱げる!



「ほっほっほ……。愉快なパーティーじゃのう」



 やっぱりあの爺さん、法王サマだったんだ……。



「雄一さん頭が高いっスよ! 控えおろうっス!」


「はは―――!」


「はっ……はは―――!」



 ひれ伏す我らがシャウトパーティー。

 法王サマは腹を抱えて笑っている。



「ワシはただの隠居ジジイじゃよ。君たちの言葉で言うなれば、もっとフランクに接してくれて構わんのに」



 ありがたき幸せ……。

 いや、そうじゃない!



「法王サマ! 今日の襲撃にその……」



 途中まで言いかけて気が付いた。

 シャウト先輩に俺のことバラしていいのか……?

 そんな俺の表情を読み取ったのか、法王サマはニヤッと悪戯っぽく笑い、



「君たちと同じ暗黒大陸出身の異能者が関わっておる。ということじゃな」



 と、いい具合にぼかしてくれた。

 流石法王サマ。

 話が分かる。



「結論から言うと、君たちが戦った者も暗黒大陸出身じゃよ。彼は元々大陸南部、ダンクルの街を拠点に活動しておったのう」


「そ……そこまで分かってんならさっさと……いや、どうして早く対策しなかったん……ですか?」



 先輩が思わずズイと前に出るも、途中からぎこちない敬語になる。

 駄目だ、ちょっと笑う。



「暗黒大陸出身者は、皆何らかの大義を成す。彼もまた、大きな目的のもとあの教団に所属しているのじゃ。ワシはユウイチくん含め、暗黒大陸の若者たちには干渉しない方針じゃよ」


「大きな目的って……。その結果人が傷ついたり、死んだりしてもっスか!?」


「そうならんために君たちがおるんじゃろう? 特に君はよく知っておるはずじゃ。ワシらの干渉しえない大きな意思がユウイチくんにはかかっておるとな」


「そ……そうっスけど……」


「このせか……いや、この大陸を守り、存続させるのがワシらの役目じゃ。暗黒大陸の者の役目は、大きな変化をもたらすこと。それが良いことであれ、悪いことであれのう」



 な……なんか壮大な話になってないか……?

 俺別にこの世界変えようとは思わんのだけど……。

 ああ……先輩が「何言ってんだこいつら……」って顔になってる……。



「じゃ……じゃあこの大陸にはユウイチみてーに変な能力持った奴らが何人もいて、アタシらはそいつらの思惑に蹂躙されろってか!? 冗談じゃねぇぜ!」



 そりゃそう思う。

 俺だって思う。



「そんな悪事を働く暗黒大陸の連中に対するその……なんか攻略ヒントとか貰えないんすか……?」



 流石に俺も、法王サマの黙認姿勢はいただけない。

 せめて魔王復活とか考えてる連中だけでも何とかしないとと思う。

 俺の質問に、法王サマはフム……と髭を触り、しばらく考え込んだ後、口を開いた。



「君が目の敵にしておる大魔封結界を破壊しようとする者たち、邪神教徒には7人の暗黒大陸出身者がおる。姿勢は違えど、その7人があの教団の中枢じゃ。彼らを説得するなり、倒すなりすれば、少なくとも邪神教徒の活動は止まるかもしれんのう」


「っしゃ! 分かった! 大陸中回って全員ぶっ倒す! 居場所教えろ!」



 完全に敬語を忘れた先輩が法王サマに掴みかかる。

 ちょ……先輩駄目っすよ! と止めに入ろうとしたが、法王サマはスッと後ろに下がり、先輩の掴みかかりを回避した。

 勢い余ってコケる先輩。

 「大丈夫っスか!?」とミコトが慌てて抱き起こす。



「残念じゃが、君では誰にも敵わんよ。今日の襲撃者も、あの格闘娘が死なんかったのは奇跡じゃった」


「何を……!?」


「ついでに一つ言っておく。彼らは当面活動を止めるじゃろう。彼らの今現在の目論見は無意味であると理解したらしいからのう」



 そう言いながら、大やぐらの客席まで続く廊下をまるで宙に浮くようにスーッと下がっていく法王サマ。



「ユウイチくんが何かを成さねばならぬ時は必ず来る。まあ、暗黒大陸の神々の神託あるまで待機といったところじゃろう。ほっほっほ……」



 そのまま法王サマは廊下の曲がり角の先へ消えた。

 「あっ! おい待て!」と、先輩が追いかけたが、そこに法王サマの姿はなく、やぐらの客席には誰もいなかった。


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