第21話:大収穫祭を警備せよ
「せっかくの祭りなのに見回りかよ~! モムモム」
「邪神教徒許すまじっスよ! ムグムグ」
「君らせめて片手は空けておこうよ……」
両手に屋台の食い物を一杯に抱えながら、文句を垂れるマービーとミコト。
俺達は今、見回りという体で屋台街を練り歩いているのだ。
見れば、後輩君たちや、見慣れた顔の冒険者達も俺達と同じように、見回りを行っている。
「本当に襲撃なんてあるんスかね? ハムハム」
「大陸西の強豪冒険者がいっぱい来てるんだぜ? そこに襲撃とか死にに来るようなもんじゃねえの? モグモグ」
ミコト達は襲撃に懐疑的だ。
確かに俺もそれは思うし、仮に襲撃を受けてもすぐに鎮圧されるのが目に見えている。
ただ、国の偉いさんや、商会のトップが一堂に会する以上、用心に越したことはないだろう。
しかし、襲撃計画の件を捨ておくなら、賑やかでいい雰囲気の祭りである。
ついにデイス、バーナクル、インフィート、カトラス、ランプレイの5つの大やぐらが広場に立ち並び、それぞれやぐらに設けられた舞台の上で様々な出しものを行っている。
デイスの大やぐらには各商会の長と国のお偉方が座り、祭りの様子を眺めている。
サステナもシャウト先輩と共に座っているのが見えた。
去年は意識もしなかったが、商会トップと国のお偉いさんらの席の感覚えらく近くねぇか……?
法王サマが普通にサステナの横に座ってるんだが……。
実権が無いとはいえ、法王サマって結構尊い立場じゃねぇの?
あのフレンドリーさが民衆から人気の理由なのかな。
ていうか先輩……法王サマに話しかけられてるけど……すげえ居心地悪そう。
でも張り付いたようなニコニコ顔でへコヘコしてるシャウト先輩って新鮮かも。
サステナは各商会のトップと楽しそうに談笑している。
裏では商会同士の足の引っ張り合いで泥沼状態!みたいなことは特になく、どの商会も互いの出展を楽しんでいる様子だ。
祭りにおいてはライバル同士とはいえ、普段はお互いが客であり、交易相手なわけだから、足の引っ張り合いなどやるだけ損なのである。
バーナクルの屋台街に目を移すと、やはり魚介類押しだ。
祭り開始前、やぐらに氷と共にうず高く積まれていた魚や貝、海藻は、屋台街で様々な料理に姿を変え、客を楽しませている。
バーナクル料理の特徴というべきか、味は素朴で、比較的薄味のものが多い。
それ故、素材の良さが抜群に生きている。
俺が買ったタチマンボウの昆布巻き焼きもめっちゃ旨い……。
今度釣ってみたいな……。
カトラスのやぐらの周りでは温泉が湧いている。
カトラスから持って来たものすごい量の温泉水を沸かし、デイスに温浴施設を再現しているのだ。
無論、マリバナナや温泉饅頭、温泉卵に温泉せんべい等々、カトラスの温泉街で食べられる名物は大方揃っていた。
驚いたのが、今年は岩盤浴施設まで再現されているということだろう。
デイスではあまり一般的ではないためか、長蛇の列ができている。
こりゃ今年はガチで優勝狙ってきてるな……。
でも時々思うんだけど……疲れを癒す施設に並んで疲れるって本末転倒じゃないかな……?
今年のランプレイの飲食屋台のメインを飾るのは、野菜や油を使った料理である。
輸送路の拡張により、輸送できる商品の幅が広がったみたいだな。
ただ、綿花やヤギ毛を使った衣装が展示の大部分を占めていた。
元々、ランプレイ方面の商会はあまり優勝に対して無頓着というか、商品の見本市と割り切っている節がある。
実際その目論見は間違いではない。
毎年、ランプレイの屋台街には大陸中から客が訪れ、その場で商談を行うのだ。
大陸中央から直通の交易船を出してまで輸送する業者もいるほどである。
そして我らがインフィートは……。。
やはり全体で比べると見劣りが……。
まあしかし、真新しさもあってか、客の入りはそこそこだ。
ていうかさっきからやぐら下の大舞台で上演してるあの劇なんだけど、悪党に乗っ取られた街を救う勇者の物語って……アレこの間の一件モチーフだよね……?
このまま何も起きずに、平和に祭りが終わればいいんだが……。
と、俺が広場を見渡していると、突然「キーーーン……」という耳鳴りのような小さな金属音が聞こえた。