第18話:街はお祭りムード
大収穫祭という街対抗イベントが始まるらしい。
優勝すると観光客がわんさか来るようになるらしい。
産業が活性化して暮らしが良くなるらしい。
インフィートの街ではそんな会話が飛び交っている。
最後に参加してから相当の年月が経っているためか、サステナの懸命なPRにも関わらず、街の人々はこの街がその祭りに参加する実感が殆ど無かったらしい。
しかし、街の中心部の広場でやぐらの仮組みが始まると、段々と現実味が湧いてきたのか、住民達もお祭りムードになり始めた。
まあ、デイスやバーナクルとは比べるべくもないが、商業区画には旗やのぼりがチラホラ上がり始め、普段以上の賑わいを見せている。
ただ、祭りに際して何をすればいいのか分からない人が多いようで、とりあえず自分が思っている限りのお祭り感を演出しようと手探りの状態である。
そのためか、これまで区画の片隅で閑古鳥が鳴いていた大収穫祭相談窓口にも屋台や飯屋、その他商売人、職人が入れ替わりでやってきては、イベントの説明を受けたり、出店の申し込みをしている。
「いい感じじゃん。町全体で祭りに向かおうってなり始めたな」
「祭りって口で説明されただけじゃ分からないもんな。やっぱ先輩のやぐら効果はすげぇ」
手持無沙汰になってしまった俺とマービーは、夕闇に包まれ始めた木の街をまったり散歩している。
罪悪感が無いわけでもないが、一応は定時上がり的な時間である。
それに俺は今日結構働いたし、まあ、文句は言われまい。
俺もマービーも毎日がノー残業デー派である。
この世界にはまだ労務管理のような制度は無いが、大体夕食の時間を回れば、街の人々は仕事を切り上げて各々の家に戻ったり、飯屋で食事を取ったりする。
こういう暗黙の了解で動く日常には少し憧れがあるな。
それこそ昭和初期……日本がまだ木造建瓦屋根の農村だらけだった頃の人々の暮らし、映画やアニメくらいでしか見たことはないが、ある種心の原風景のような世界だ。
俺は多分、タヌキ軍団の見せた幻に飛び込んでいくタイプだと思う。
まあそれはさておき……。
商業区画から見下ろす街の広場には、シャウト先輩が提唱した神木のやぐらが仮組みの状態で鎮座し、その周りには街の特産品をPRするための大屋台がこれまた仮組みで置かれている。
あそこで俺達が釣った魚の料理が披露されるわけか……。
これは俺達もそうだが、サラナとコモモの責任も重大だな。
よく見ると、職人もまばらになった広場の隅に見覚えのある金髪と水色の髪がいた。
シャウト先輩とサステナちゃんかな?
二人は広場の隅っこに置かれた小さなテーブルで何かを食べながら談笑している様子だった。
当初は難航が見込まれた先輩率いるやぐら、出店の総合計画部隊だが、先輩のカリスマかサステナの献身か、順調に動いているようだ。
後はサステナちゃんがやりたいと言っていた出し物が固まれば、祭り当日に向けて完成度を高めていくだけになる。
少数精鋭によるリソースの選択と集中は功を奏したと言えよう。
豪勢さで他の商会に勝てずとも、神秘性と物珍しさ一点勝負である。
「勝ちたいな」
思わず、柄にもないことを呟いてしまう。
マービーはそんな俺を見てニヤリと笑うと、「アタシも同じ気持ちだ」と呟き返してきた。
「お前案外アタシと気が合うかもな」とも……。
し……しまった……。
俺がこんなやる気出したらマービーうちのパーティーにますます心惹かれちまうんじゃ……。
しかし「みんなでいい祭りにしようぜ!」と言われてしまっては、俺も「おう!」と応えざるを得なかった。
大収穫祭までちょうどあとひと月。
なにやらルート分岐をミスった気がしてならない。