第17話:改良タライ出撃!
「イケるイける! ラウダーさんこれ凄い良い感じです!」
「はっはっは! そう言ってもらえると私も頑張った甲斐があるってもんジャン!」
俺は作ってもらった改良タライを早速地底湖に持ち込み、試乗している。
アウトリガーの作用で横揺れと回転が抑制され、かなり乗りやすい。
それに加え、足置きや椅子、オール固定具など、増設された快適装備、操作支援装備が使いやすさに拍車をかける。
うん! これなら誰にでも簡単に扱えるはずだ。
実際、俺と並んでタライに乗っているサポートメンバーの皆も、口々に使いやすい、使いやすいと言っている。
今思うと、素のタライの乗り辛さが酷すぎた。
「ユウイチさん! 私の糸もどうですかー?」
そうそう、アオラちゃんも糸を改良してくれたんだった。
アオラちゃんの糸には、俺の魚料理バフよろしく、食べたものの性質が強く表れる。
ミコトの魚料理をたらふく食べて出された糸には強い耐水性が発現し、水に入れても縮まなくなったのだ。
それだけではなく、俺の召喚したフロロカーボン、ナイロン、PEラインを分析した彼女は、糸の編み込みの規則性を変え、より釣りに適したものにしてくれたのだ。。
引っ張ってみると分かるが、明らかに弾性が良くなっている。
糸の表面にも小さな球が付けられていて、持ちやすさが遥かに向上している。
「凄い良い感じだよ! ありがとうアオラちゃん!」
「ふぇへへへへ……。嬉しいよぉ……。ご褒美にまた吸わせてほしいよぉ……ジュルリ」
物騒なセリフが聞こえたが、聞かなかったことにしよう。
糸をしゃくっていると、指先に魚信が伝わってきた。
最初の糸に比べるとアタリに対する感度はやや低いようだが、特に問題はない程度だ。
アワセを入れると、その優れた弾性により、魚の引きがかなり軽減される。
フロロカーボンにナイロンの特性を合わせたような糸だ。
「よっしゃ! 左のレバーを思い切り引くジャン!」
俺が魚を掛けたのを確認したラウダーさんが、思い切り叫ぶ。
「はい!」
タライの左側に設置されたレバーを手前に引くと、両側のアウトリガーが「グン!」と跳ねあがった。
すると、アウトリガーによってこれまでオミットされていた回転特性が一瞬にして復活。
魚の引きに合わせてクルクルと回転を始めた。
後はもう慣れたもので、糸を手繰り寄せ、魚を取り込む。
周りの皆も改良タライと改良テグスの威力に驚きながら、魚を次々と釣り上げていく。
俺達の班の漁業体制はほぼ完成したと言っていいだろう。
あとは魚を樹木側にスムーズに輸送する動線の構築と、これを使った名物料理を完成させれば、俺達に割り振られた仕事は終わりだ。
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「おーい、ユウイチ! もう使わないトロッコ貰ってきたぜ」
俺が皆に釣り上げた魚の締め方を教えていると、マービーがリアカーを引いてやって来た。
これに木の箱を積み、中に魚を入れて運ぶのだ。
まず底に竹の葉を敷き、その上に魚を並べていく。
その上に俺が氷魔法で粒氷をたっぷり被せれば、市場の魚屋の店頭に並んでいるトロ箱と遜色のない見た目になった。
「よっしゃ! みんなで押すんだ!」
30匹あまりの魚と、氷を満載したリアカーは重い。
歩く分には大して問題は無かったが、やはり地上と地下を結ぶ坂道がある分、マービー、ラウダーさんのような力自慢がいても、なかなか進まない。
これは一度に運ぶ量制限しないと危ないかも……。
10人がかりでヒーヒー言いながらダンジョンを抜けると、ダンジョン入口のすぐ横にギルド支部直通リフトが用意されていた。
サステナが手配してくれていたらしい。
本当に彼女のサポートには頭が上がらないな……。
最大積載重量を考えれば、5往復は必要になるが、リアカーで樹木側最上階に持って行く労力を考えれば何ということはない。
魚を積み、レバーを倒すと、シュルシュルとリフトが上がっていった。
以前疑問に思ったこの動力だが、至る所から溢れている地下水の水力を用いているらしい。
どっかでデカい歯車回されてる奴隷でもいるんじゃ……とか思ってごめんよサステナ。
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ギルド支部では、コモモとサラナが小ぶりなゴンブトダケタライを並べて待っていた。
何故にタライ?
「ミコトちゃんが前に話してた鍋料理からヒントを得たんです」
「みんなの集めてきた素材や、この街の特徴を生かしたアイデア料理だよ!」
そう言いながら、彼女達はタライの中にこの町特産のキノコ、タケノコ、葉野菜を入れていく。
今度はそこにハマダイ、シロチテイダイの切り身を交互に並べる。
「この神木の街にお祝いの紅白幕がかかってるイメージです!」とはコモモ談。
なかなかに乙な発想だ。
ていうかこの世界でも紅白ってめでたいもの扱いなんだね。
タライの上辺には葉野菜、下の方にはキノコタケノコ、中央には魚の紅白幕が綺麗に並んだところで水が注がれ、全体が水に浸る。
「さーて、ここからが肝だよ」
そう言いながらサラナが持って来たのは、湯気を放つ石。
それを、タライの中で空いていた魚の身の両側に落とした。
同時に「ジュワッ!」といい音が鳴り、水が瞬く間に湧き上がる。
そして部屋中に広がるいい香り……。
湯気がスッと消えると、一瞬にして美しく琥珀色に透き通った出汁のスープが出来上がった。
「凄いっス! こんな綺麗な色、そう簡単には出ないっすよ!」
それこそ京都の料亭がじっくり3時間とかかけて作るような上品な出汁である。
一気に過熱するとアクが大量に出てスープが濁るものだが、ゴンブトダケの特製のおかげで、こんなにも簡単に良い出汁が取れてしまうのである。
これ我が家にも一個欲しいな……。
「味は……まだ洗練の余地ありっスね……」
我慢溜まらず一口食べたミコトが、急に冷静なコメントを出した。
俺も食べてみるが、うん……。
味が薄いね……。
コモモとサラナも試食してみるが、同様に「む~」という感じの顔になる。
自信満々だっただけに、ちょっと悔しそうだ。
醤油とか味噌があればいいんだけど……。
この街には無いからなぁ……。
ただ、塩を加えるとだいぶ味が出たので、サポートメンバーの皆で美味しくいただいた。
釣りをした後に、冷えた身体を温めるにはありがたい料理ではある。
「よし! もう一息頑張ろう!」と、コモモ達は炊事場へと戻っていった。
「私も手伝うっス!」とミコトもそれに続き、サポートメンバーを送り出した後、俺とマービーは手持無沙汰になってしまった。
炊事場を手伝おうと思ったが、タライと、何やら岩のようなものが山積みされていて、これ以上は入れなさそうだ。
流石に働いている3人を横目にのんびりするのも格好が悪いので、俺達はなんとなく街へ繰り出すことにした。