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第14話:仲間たちと蜘蛛娘の夕べ




「このハマダイとシロチテイダイをこうやってゴンブトダケに詰めて、遠火でじっくり炙るっス」


「わっ! すごい! 良い香り!」


「ミコトちゃんって面白い料理いっぱい知ってるよね!」


「てへへ……それほどでもあるっス……」



 姦しい声と、良い香りで目を覚ますと、ギルド支部の会議室だった。

 匂いの飛んで来るほうを見れば、微妙に豪勢になった炊事スペースでミコトとサラナ、コモモが料理をしている。



「おっ! 起きてきやがったな」と、マービーが濡れタオルを投げてくれた。

 顔を拭き、起き上がると、何やら妙な音が聞こえてくる。

 「チュー……チュー……」と、何かを吸うような……。

 音のする方向を向くと、アオラがシロチテイダイをギュムと抱きしめていた。


 一見、ぬいぐるみを抱く少女のようで微笑ましい光景に思えたのだが、よく見ると彼女の頭から伸びた牙が魚の頭に突き刺さり、魚の身を溶かしながら啜っている。

 ……うん。

 この子は基本的に蜘蛛なんだね……。



「おーオメーら今日も随分旨そうなもん作ってんじゃねーか。早く味見させろ」



 遅れて入ってきたシャウト先輩が、ドカッと俺のいるソファーに座ってきた。

 一瞬部屋にいる巨大蜘蛛に面食らった様子だったが、すぐにアラクネの少女だと理解し、背もたれに体を預け、ダランと身体を傾けていく。

 先輩ちょっと汗臭い……。

 それになんか木屑みたいなのメッチャ付いてる……。



「おん? 何だジロジロ見て」


「あ、いえ、先輩なんか木屑にまみれてるなって」



 俺がそう言うと、先輩はクルリと姿勢を変え、俺の肩に足を乗せ、ソファーに寝そべった。



「おーおー。そうなんだよ。くっそ疲れたぜ。お前もうちょい向こう行け」


「ここが隅っこっすよぉ……」


「んだよ……ったく」



 せ……先輩頭に足乗せないで……。

 俺も結構疲れてるんす……。



「何かあったんすか?」


「一日中材木運びだ。それも神木のクソでけぇ枝をな」


「デカい神木の枝っすか。やぐらの材料にでもするんで?」


「材料っつーか、やぐらそのものだな。この街は神木の街なんだから、そこをアピールした方が良いってサステナと話し合ってよ。ウチのやぐらはデケェ神木の枝にログハウス付けたようなもんにすっぞ」



 ほぉ……。

 なかなかに面白い考えかも。



「サステナちゃんセンスいいんすねぇ」


「あ? 神木そのまま使うのはアタシが言い出しっぺだぞ」


「先輩のそういう負けず嫌いなとこ可愛いと思います。あ痛っ!!」



 ちょっとからかっただけなのだが、強烈な無言かかと落としを食らってしまった……。

 やべぇめっちゃ痛てぇ……。

 顔を起こすと、ミコトが炊事場からこちらを凝視していた。

 ミコトイヤーは地獄耳である。

 天使なのに……。




/////////////////




「今日のディナーは紅白ダイの竹筒焼きっスよ~」


「あとは焼きタケノコと、茹でネマキダケ」


「それに竹筒果物ゼリーですよ!」



 炊事場に立っていた3人が、ぞろぞろと運んできたのは、随分と豪勢な夕食だ。

 これが大収穫祭において、新興インフィート商会の主力となる食材たちである。

 バーナクルに比べれば見劣りはするだろうが、特産の竹を使った料理は、なかなかのインパクトになることだろう。


 いびきをかき始めたシャウト先輩をくすぐり起こし、良いパンチを食らいつつ食卓に着く。

 あれ?

 エドワーズは?



「エドは今日、耳長族の宴会に呼ばれてるらしいですよ」


「エドってばもう打ち解けちゃって……。天然人たらしだもんねぇ……」



 と、コモモとサラナは少し寂しそうだ。

 まあ、あいつが人たらしというのは何となく分かる。



「それでたまに厄介な仕事とか持ってきたりしてな!」


「そうそう!」


「分かります……」



 マービーの愚痴なのか、いい思い出話なのか分からない言葉に、二人は深く頷いている。

 しかしそれでも付いていくあたり、相当あいつにほれ込んでいるんだろうな。

 特にコモモとサラナは。



「おい。そこのクモチビ。お前も生魚吸ってねぇで食えよ」



 シャウト先輩が、部屋の隅で魚食いグモと化していたアオラに声をかける。

 人見知りの気があるアオラは、しなっしなに干からびた魚の裏に顔を隠し、先輩をチラチラと見つめていた。



「あぁ!? 何だテメェ!?」


「ひいいいいい!」



 こういう煮え切らない態度を取られるのが大嫌いな先輩が一喝すると、アオラはますます小さく縮こまってしまった。

 部屋の隅で丸くなるハエトリグモみたい……。



「だ……駄目っスよ先輩! この子怖がりで恥ずかしがり屋さんなんスから!」



 ミコトがブルブルと震えるアオラの頭を撫で、落ち着かせる。

 「あぁ……悪かったよ……」と、先輩は決まりが悪そうだ。

 俺達だいぶ慣れたけど、先輩ヤンキーっぽいとこあるからなぁ……。

 大人しい一般人にはちょっと刺激が強いか……。


 ミコトに促されるまま、アオラが食卓につくと、先輩の音頭で軽く乾杯を交わし、皆で食事を始める。

 今日の料理は、恐らくインフィートの秋の地産地消フードでは最高級の食材である。

 その味たるや全てが絶品。


 竹で焼かれた魚は、脂が身全体にしっかりと回り、香ばしく、それでいて竹の香りが心地よい。

 これには麦酒がよく合うな。


 焼きタケノコはもちろん外れ無しだ。

 少し苦みのあるものもあるが、この程度ならいいアクセントだろう。

 これは……うん、米酒との相性がいい感じだ。


 茹でネマキダケ……。

 ほほう。

 甘みが強くてコレは旨い!

 コリコリとした歯ごたえも心地よい。

 あ~……。

 これは白ぶどう酒がなんとも合うねぇ!


 デザートも、これまたなかなかに甘酸っぱくていい。

 果実酒をシロップ代わりにして、一緒に飲むのもまた悪くない。


「雄一さん飲み過ぎっすよ……。ていうか私と同じ量飲んだり食べてるのに、痩せてて羨ましいっス」



 ミコトが俺の食いっぷりを恨めしそうに見つめてくる。

 彼女の取り皿には、普段の半分くらいしか入ってないようだが……。

 一応、ダイエットは実行中のようである。



「お腹でお悩みなんですか……?」



 突然、グイと身を乗り出してくるアオラ。

 なんか鼻息も心なしか荒い。



「え……ええ。私ちょっとポッチャリっスからね……」


「じゅるり……」


「す……吸うのは駄目っスよ!?」



 ……大丈夫かなアオラちゃん。

 明日も張り切って糸出してもらわなきゃいけないんだけど、野生目覚めかけてない……?


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