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第13話:インフィート地底湖のハマダイ タライ釣り




 インフィートの地底湖にプカプカと浮かぶタライ。

 その上に乗るのは俺。



「もうちょい良いもの無かったんか」


「仕方ねぇだろ……。この街では船使う機会殆ど無いんだから」


「元々あった小舟は邪神教に壊されちゃったみたいっスからねぇ」



 そう言いながら、二人が長い竹を使い、俺の乗ったタライを沖に向かって押していく。

 その衝撃だけで、タライは転覆するのではないかと不安になるほど揺れる

 このタライはゴンブトダケの中でもずば抜けてゴンブトのものを輪切りにしたもので、見た目はバッチリなのだが……。


 やはり、風呂桶に使われるものを船に流用しようというのは無茶な話だったか……。

 ただ、贅沢ばかり言ってもいられない。

 今あるものの中で、出来る限りのことをしなければ。


 えっちらおっちらと、これまた急ごしらえの竹オールを使って、大魔封結界岩のある小島と、ミコト達がいる岸の丁度真ん中あたりで止まる。

 流れの弱い地底湖にあっては、アンカーの類が無くとも、タライは殆ど流されない。



「よーし! 釣り始めんぞー!」


「「頑張れー」っス!」



 二人ののんびりとした声援を背に受け、俺はアオラが編んでくれた糸を水面へ垂らす。

 オモリと針だけのブッコミ仕掛けだ。

 エサには以前釣ったハマダイの魚肉を付け、ヒカリゴケを針の上に通して集魚ケミカルライト代わりにする。


 しかし……アオラの糸は本当に美しい

 サラサラと心地よい手触りでありながら、しなやかで張りがある。

 手から伝わる感触としては、細いナイロンラインを3本ヨリにしたような具合だ。

 強く引っ張ると、これまた気持ちよく伸縮する。

 流石に最新の釣り糸と同等とは言えないが、この世界では最高峰の繊維素材の一つだと思う。

 

 もと居た世界では、やれ同重量の鋼鉄の6倍の引っ張り強度だのなんだのと、蜘蛛糸が新素材として注目されていたが、俺はまさにそれを手にしているわけだ。

 そのカタログスペックを聞けば、もう現代の釣り糸いらないんじゃないかと思うかもしれないが、この糸、釣り糸として使うには致命的欠点があるのだ。



「おぉう……。やっぱ縮むなぁ……」



 そう、この糸、水に濡れると長さが半分になってしまうのだ。

 作ってもらった180mのうち、実質使えるのは90~100m程度。

 ハマダイのタナにギリギリ届くか届かないかというレベルである。

 強度は問題ないみたいだが、快適に釣りができるかと聞かれると、ちょっと答えに困る。


 グラグラの竹タライを何とか制しながら、時に大きく、時に細かく腕を振り、水中でエサを躍らせる。

 収縮して伸縮性が弱くなったとはいえ、フロロカーボン程度の伸びはあるこのアオラ糸。

しっかり腕を振らないと、水中でエサが動いてくれないだろう。



「おっ! 食っ……たっ!! うおぉぉ!? おおお!?」



 ガツンという衝撃のアタリに、思い切り腕を振ってアワセを入れる。

 それと同時に、走り出す魚。

 回り出すタライ。



「おっとっとっと!! おおう!? なんだこれ!?」



 手で糸を手繰れば、クルリと半回転。

 魚が抵抗すれば、再び半回転。

 まるで自分がベイトリールのドラグにでもなった気分だ。


 しかしこれ……慣れたら案外やりやすいかも!

 水の抵抗が大きいタライは、その場に留まろうとする力が強い。

 魚の引きに対して、自動的にその場回転してくれるのだ。

 元居た世界で沖縄遠征の時使った一人乗りの小型カヤックは、大物を掛けるとそれに引かれて動いてしまい、後ろに回り込まれると足でカヤックの方向を変える必要があったが、タライはその動きを勝手にやってくれるというわけだ。

 ちょっと……目が回るのが玉に瑕だが……!



「雄一さーん! 大丈夫っスかーーー!?」



 湖面でクルンクルン回りまくる俺を心配したのか、ミコトが叫んでいる。

 その後ろで聞こえる笑い声は……マービーのやつ何ツボにハマってんだよ……。



「大丈夫だ! ちょっと酔うけど!」



 クルクル回りつつ、ミコトに返事をする。

 姿勢変更をタライに任せ、俺は糸を手繰る。

 斜めに魚を引いてくる投げやウキの釣りと違い、垂直の釣りは障害物をそれほど気にしなくていいのが良い。


 やがて、湖面に赤い魚影が浮かんできた。

 お、今回は赤個体か。

 魚のエラに縄を通し、太い竹で作られたウキに結わえる。

 簡易的なストリンガーだ。


 タライに直に結わえ付けてもいいのだが、魚に暴れられるとタライが回って不快感がアップしてしまう。

 なので2mほどの縄を伸ばし、その先で魚を生かしておくのだ。


 4匹、5匹と釣り上げると、タライの後ろに綺麗な紅白の魚影が並ぶ。

 これはこれでちょっと楽しいかも。

 アオラの糸は、7匹目を釣り上げてもなおピンピンしていたが、9匹目を掛けたところでブツンと破断してしまった。

 なるほど……7~8匹が限界か。



「おぉ~。すげぇ壮観だな」


「提灯行列みたいっスね」



 獲物を引いて凱旋する俺のタライを、竹の先につけられた鍵爪で迎えてくれる二人。

 陸に上がると、体がガクンと傾いた。

 咄嗟にミコトとマービーが俺の体を支えてくれた。



「だ……大丈夫っスか!?」


「体調悪いか?」


「いや、ちょっと足が痺れて……あと頭が揺れる……!」



 あの回るタライの中で、ずっと胡坐をかいていたのだから当然と言えば当然か……。



「ぷっ……そ……そういえばそうだよな……お前めっちゃクルクル……ふふっ……! いや、悪い……ぷはっはっはっは!!」


「笑うなよ! 俺なりに必死だったんだから!」


「そうっスよ~。雄一さんお疲れっス。足マッサージしてあげるっス」


「おっ。アタシも揉んでやるよ」



 ガチガチに固まった足を、二人が揉んでくれる。

 ああ……これ気持ちいい……。

 しかし、この釣り……というか漁、まだまだ改善点があるな。

 そんなことを考えながら、俺はタライに続き、船を漕ぎだした。


用語解説のコーナー

・ストリンガー

 魚をつなぎ、生かしておくための器具。

 エラや下あごに金具を通すタイプが一般的。

 生かしておいた魚を、帰る前に〆て持ち帰るもよし、リリースするもよしの便利グッズである。

 類似品として網を用いた「スカリ」「フラシ」があるが、大きめの魚を生かすのにはストリンガーの方が嵩張らず便利である。

 ただ、その二つに比べ、捕らえた獲物を縄に繋いで連行する蛮族やオーク感が出やすいのが玉に瑕である。

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