第5話:マービーとインフィート散策
役割分担は決まった。
俺達、チーム釣りバカ(俺、ミコト、マービー)は、インフィート周辺の水産資源の調査、確保。
収穫祭経験の豊富なシャウト先輩は、やぐらや見世物、出店などの総合計画。
生真面目なエドワーズは、インフィート内で外部にアピールできそうな新名物探し。
料理が得意なコモモ、サラナは既存の食材や、俺達が確保してきた食材を用いた新メニューの開発だ。
サステナは「神木の街の英雄譚」なる劇を出し物として企画しているらしく、その脚本、演出企画を練っているらしい。
使えるリソースが限られる中で、3人も人員を割いてもらった以上、ただの楽しい釣りで終わらせられないぞコレは……。
そんなプレッシャーを感じつつ、初日の役割決めは終わった。
ちなみに結局、冒険者でインフィートの収穫祭手伝いを名乗り出る者は俺達以外には誰もいなかった。
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もう日も暮れそうなので、今日はインフィートの街を各々散策することにする。
俺はいつも通り、ミコトと一緒に行くつもりだったのだが、後からマービーが駆けてきた。
「しばらく一緒のチームなんだから、一緒に過ごそうぜ」とのことだ。
元々仲の良かったミコトもそれを快諾し、3人で再開発されつつあるインフィートの街をぶらつく。
「短い期間で結構変わるもんスねぇ……」
ミコトの言う通り、ほんの数か月でインフィートの街は様変わりしていた。
まず、樹木側、岩盤側を隔てていた障壁は極力取り除かれ、一つの階層の広さが倍以上に大きくなっている。
食品街、アクセサリー街などがそれに沿って通りを形成し、香港の商店街のような活気あふれる様子になり、それが宿屋街から見下ろせるようになっていた。
「サステナ曰く、宿泊客がワクワクするような区画整理をしたかったらしいぜ」
どこか得意げなマービー。
それもそのはず、この区画整備の企画はエドワーズパーティーも参加し、バーナクルから彼らが連れて来た職人集団によって為されたものだと言うのだ。
すげぇな君ら。
ただ、なにせ忙しく、こうやって再整備された街をゆっくり歩くのは今日が初めてらしい。
そのためか、えらくテンションが高い。
「おーいミコト! これバーナクルから持ち込まれた新名物らしいぜ!」
とか
「ユウイチ~! この双剣お前に丁度良くないか!?」
とか
通りごとに凄いハイテンションではしゃぎまわり。
「いや、最近アタシら本当に忙しくてさ。釣りも散歩も満足に出来ない日々が続いてさぁ。4人で過ごして、クエストするのはめっちゃ楽しいんだけどさぁ。アタシみたいな不真面目遊び人には時々厳しいって思う時があるわけよ……!」
そして、数時間後には飲み屋通り最奥のバーで管を巻き始めた。
こりゃ……よっぽど溜まってたな……。
しかしエドワーズのやつ……また自分の気持ちが先行してんな……。ちょっとシャウト先輩通して苦言呈してもらおうか……。
「あー……いや、それはやめてやってくれ。皆今いい感じでノッてきてんだ。アタシが多少無理すれば済む話だろ? ここで士気を下げるようなマネは避けたいんだ」
なんていうか……。
ブラックパーティー?
いや、当の本人らはそれすらも楽しんでるんだろう。
マービーも同じく、一線までは彼らと同じ感覚に違いない。
しかし、一つのズレがそこに存在する。
それはマービーがクエスト連続達成による立身出世以外にも、プライベートの楽しみを充実させたいという感情を持っていることだろう。
それ故に、時々しんどさを覚えてしまうのだ。
しかし、随分現代的な思考回路を持っているな、マービー。
もしかすると俺の釣りバカと一緒にそれも移っちまったのかね?
「実は今回、お前らと一緒のパーティーになれてマジで嬉しかったんだ。たまにはエド達から離れて、緩いクエストに身を置いてみたくてさ」
「それ、一歩間違えたらウチのパーティー入りとかになっちゃわないっスか? エドくん怒らないっすかね……?」
「いや! そんなつもりはないんだ! たださ、たまにはパーティー代わるのも良いかなって思ってるんだよな……」
人事部長、これ転職の前兆です。
俺とミコトはマービーと仲はいいし、どうせ基本的に緩いクエストしかしないのだから、一人増えたくらい何とかなる。
だが、これがきっかけでエドワーズと不和にもなりたくないし、むしろ彼女が抜けたエドワーズパーティーは深刻な前衛打撃力不足に見舞われるだろう。
俺と違って厳しいクエストライフに身を置く彼らからすれば、一人減るというのは大問題だ。
代打を探そうにも、ただでさえ不人気職の格闘家で、マービー以上の腕前を持つ冒険者は二つ名持ちくらいまでいないだろう。
これは格闘家の大半がベテランで冒険者を辞め、道場を持つ道に進んでしまうためである。
「雄一さん。マービーちゃんかなりキてるっスよ……。こんな愚痴今まで聞いたことないっスもん」
「うーん……。良くない傾向だなぁ……」
大体、秋はパーティーの不和が表面化する時期と言われている。
そして、秋に喧嘩別れしたパーティーの寿命は長くないとも言われている。
言ってしまえば、そんな程度で別れるような絆しか育めない者は、どこへ行っても上手くいかないということだ。
前時代的な考え方だなぁとも思うが、二つ名でも持たない限りは信頼が命のこの稼業。
些細な仲たがいで出て行くような者に旨い話が回って来づらいのも事実である。
「私はマービーちゃんと一緒にパーティー組めるなら大賛成っスけど……。多分私達じゃ満足できるクエストライフは提供してあげられないっスよ……。この子根はエドくん寄りの出世思考っスからね」
酔いに酔って潰れてしまったマービーを膝枕しながら、ミコトが言う。
俺もそう思う。
エドのパーティーから抜けて、俺のパーティーから抜けて、その後の彼女はどこへ向かうのか。
街の娼館などで名前を見た日には胃痛で寝込んでしまう。
「うん。マービーには今回のクエストで、エドワーズとは全然違う方向性のパーティーだっていうのを知ってもらって、あと、エドワーズにも俺から言っておくよ。前にサラナもチョロっと不平漏らしてたしな」
「それが良いと思うっス。そんな世間の流行りみたいなノリであの仲良しパーティーが瓦解していくようなのは見たくないっスから」
支払いをし、マービーを担いで店を出る。
割とリーズナブルな価格帯の店だとは思ったんだが……うん……一度の飲み食いでこの金額叩き出されたら、ウチのパーティーでは養ってあげられないっすわ……。
改めて、こいつをエドワーズパーティーから離別させてはならないと心に誓った俺達だった。





