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プロローグ:秋の始まり ミコトの悩み




 夏が終われば秋が来る。

 至極当然のことだ。

 朝晩が少し肌寒くなり、日中も涼しい風が吹く。

 多分、一年で一番過ごしやすい季節ではないだろうか。


 食欲の秋とはよく言ったもので、野菜、果実、キノコ類が次々と旬を迎え、魚やジビエも美味しい季節だ。

 俺のパートナーはそれを全身で体現している。



「やっべぇっス……」


「ああ、こりゃ確かにやべぇな」



 摘まむ肉の厚さ、実に3層。

 色々と不安があった去年と違い、この世界の勝手がおおよそ分かり、金銭面もだいぶ余裕ができた2年目の秋。

 ひと月目にして、ミコトは過去最大級に肥えた。



「雄一さんの愛が濃厚すぎたんスねきっと」


「人のせいにすんな! 何か最近重いと思ってたんだよ……。朝起きたら腰も痛いしさぁ……。隣にマナティ寝てるしさぁ……」


「ま……マナティ……!?」



 最近、ミコトは朝晩の冷え込みから身を守るべく、包まるタイプの掛布団を買って使っているのだが、灰色のそれに包まってうつ伏せで寝ている彼女の姿は、丁度お腹周りがボテンと膨らみ、軽くマナティだ。

 マナティ呼ばわりは流石に堪えたのか、彼女はがっくりと項垂れてメソメソしている。

 しかし……。

 ミコトは顔とかには脂肪が乗らないのに、腹と太腿にはガッツリ乗るんだな……。

 まあ、体がコロッとして可愛らしい太り方ではあると思うが、流石に腹三段は駄目だろう。

 天使に人間の健康尺度が当てはまるのかは分からないが、どう考えても体には良くない。

 これはちょっと、カロリーを消費させなければいかんな。


 などと考えていると、ミコトが「カロリー消費……マナティの……スか……」と、ボソボソと呟きながら立ち上がった。



「え……? どしたの?」


「マナティーの……は4週間なんスよ」



 光り輝く眼鏡の向こうには、ヤケクソ気味に大きく見開かれた彼女の双眼。

 おっと……。

 ちょっとこれは……怒らせちゃったか……。



「マナティの! 交尾は! 2~4週間続くんスよ―――!!!」



 彼女はそのまま俺に飛びかかり、上にドスンと乗ってきた。



「カロリー消費にマナティごっこなんて如何っスか――――!!!」



 その叫び声と共に、雷鳴が鳴り響き、激しい雨が降り出した。

 秋の雨は……長かった。




////////////////////




「しかしまあ、その腹を何とかする方法は考えなきゃだぞ。最近、秋の長雨だっつってクエストサボりがちだったからな」


「ええ……ちょっと反省してるっス。出かけないからってちょっと不摂生な生活ばっかやってたっスよ。研究論文と新生物企画書は進んだっスけどね」



 あくる日の昼過ぎ、俺達は遅い朝食をとり、出かける準備をしていた。

 雨続きだったここ十数日の中で、久々に晴れ間が見えたのである。

 その湿気のためか、お互いツヤツヤのテッカテカだ。

 昨日一日は少しばかり激しめの運動をこなしたのだが、残念ながら即腹が凹んだりはしない。

 ダイエットというのは適切な食生活と運動の積み重ねである。

 とりあえずミコトにマナティって言うのはやめよう。

 身が持たない。



「ちょっと体動かすようなクエストやろうぜ」


「……へーいっス。でも無茶なのは嫌っスよ。身重なんスから私」


「身重言うな。重みだ重み」



 そう言うとミコトがマナティのモノマネをし始めたので、俺はそそくさと準備を終え、デイス目がけて走り出した。

 今日から暫くは、ミコトの運動を兼ねて徒歩通勤である。

 振り返れば、家の施錠をし、のそのそと走ってくる彼女の姿が見えた。

 うん……。

 夏比で5割くらい速度落ちてるなありゃ……。

 ミコトが追い付いてくるのを待ち、俺達は秋風吹く草原を並んで歩き始める。

 この秋は、冬に備えた貯蓄と備蓄、そしてミコトのダイエットに奔走することになりそうだ。


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