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第47話:大討伐クエスト終了! もう一つの栄光は




 デイスのギルド本部屋上に据えられた大鐘が鳴り響き、大討伐クエストの終結を告げる。

 自分で始めて自分で解決するとはなんたるマッチポンプ……。

 発注者も参戦することが多い大討伐クエストでは珍しくないことらしいが。


 ユーリくんとコトノさんはデイス直営の病院に担ぎ込まれたが、命に別状はなく、少し安静にしていれば直ぐ元の調子に戻るとのことである。

 治療魔法マジ便利。

 まあ、俺の参加報奨金は二人の治療費に消えたわけだが……。



「うえぇええ……気分悪いっス~」



 またしても瘴気当たりしたミコトは、ホワイトハーブを咀嚼しつつ、俺の膝枕で療養中だ。

 瘴気といえども、煙幕に混じったごく薄いもの。

 ハーブと適量の飯を食って、しばらく横になっていればすぐ回復するらしい。

 今だ熱量収まらないギルド前噴水広場の屋台街で買ったビリヤニのような炒め飯を、彼女の口元に運んでやると、「ふへへ~……美味しいっス~」と頬を緩ませた。

 可愛いなぁもう。

 ついでに腹を揉むと、頬を抓られた。


 クエストを終えて帰ってくる冒険者達の列を見ながら、ミコトの頭を撫でる。

 皆、大討伐クエストの恩恵に預かれたのかホクホク顔だ。

 受付横に控えている鑑定士さんが、慌ただし気に戦果を計算している。

 この2日間だけで、デイス周辺に潜んでいた邪神教徒は一掃されたと言っていいだろう。

 それ即ち、多数の命が失われたというわけだが……。

 世界の平和を乱す悪の教団に情けをかけるべきではない。

 国が「討伐対象」に指定するのには、相応の理由があるのだ。


 だが、中には自身の考えや帰依する教えによって、対人の殺生を避ける者もいるようで、そういった者は、捕らえた邪神教徒をギルドの法務官に突き出していた。

 無論、これもちゃんと実績カウントはされる。

 ただし、監獄島への護送費用が報奨から天引きされるのが玉に瑕だ。



「ユウイチさん。こちらがクエストの一方を達成された報奨金です」



 ミコトに給餌しつつ、時間を追うごとに賑やかになっていくギルドの食堂を眺めていると、受付のお姉さん(ぶりっ子)が、赤の布に金の刺繍が施された豪勢な銭袋を持ってきた。



「コトノさんの救出おめでとうございます。村のお子様も無事見つかって良かったです!」



 今回のクエストの目的はコトノさんの救出と邪神教徒の討滅。

 俺が達成できたのはそのうちの片方だけというわけだ。

 もう片方の賞金は、最も多くの邪神教徒を討った者に送られるらしい。



「ほら、表彰よ。表彰台に登って」



 受付のお姉さん(三白眼)が、食堂に据えられたベニヤ板の台を指さしている。

 なんかすごいやっつけだな!



「あはは……。まあ急なクエストでしたし、クリアも早かったですから……」


「ほら! さっさと上がる! みんな待ってるんだから!」



 受付のお姉さん方にグイグイと押され、俺はグラグラと揺れる表彰台(仮)に上げられる。

 もう一人は、今集計中らしい。



「さあみんな!! 今回の大討伐クエストの達成者の一人は、釣りもクエストも大物狙い、デイスギルド一の変人冒険者! フィッシャーマスター・ユウイチよ!」



 えらく駆け足ながら、俺の表彰式が執り行われる。

 常駐、流離の冒険者達、そして屋台の人たちや住民の方々が拍手や喝采を飛ばしてくれた。

 片腕を挙げ、それに応える。

 やかましい面々……ホッツ先輩やエドワーズを始めとする俺の同期連中がいないためか、体感でいつもより静かな気がする。

 まあ、俺の性分としてはこれくらいがちょうどいいや。

 しかし釣りもクエストも大物狙い……か。

 なかなかいいフレーズだ。



「おっと! たった今、集計が終わったみたいよ!」



 俺の腕が吊りそうになった頃、鑑定士のおじさんが札を受付のお姉さん達の元へ持って来た。

 三白眼のお姉さんは一瞬驚いたような表情を見せた後、嬉しそうに口を開く。



「これは驚きよ! 何と邪神教徒討伐数ナンバー1は……新米冒険者、タイドパーティーの長刀使い! レフィーナ!」



 マジで!?

 レフィーナって確かあの新米くんパーティーの水色髪ちゃんだよね!?

 頭角現しすぎだろ……!

 俺も驚いたが、当の本人が一番驚いているらしく、口を開けてポカンとしている。

 そんな彼女の背中を、同パーティーのもう一人の女の子、ビビが押し、俺の横まで歩かせてきた。



「えっ……!? え……! 何かの間違いです! 私……13人しか倒せてません!」



 その言葉に、辺りは騒然だ。

 二つ名持ちの強豪不在とはいえ、中堅や流離の強者を抑えてただ一人の「ツ抜け」である。

 俺よりよほどデカい拍手喝采に包まれ、彼女は困ったような笑顔を俺に向けてくる。



「ユウイチ先輩が……私に進むべき道を示してくれたおかげです……」



 そう言って笑う彼女の顔には、コイ釣りさえ怖がっていた弱虫少女の面影は残っていなかった。



「うふふ……。またしても凄い子が現れたわね。デイスギルドの未来は明るいわ! さあみんな! このまま打ち上げよ!!」



 デイスの食堂に響いた歓声と拍手は、今日一番の大きさだった。


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