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第42話:不穏の幕開け ハーピィ行方不明事件




 草原を駆ける5匹のグラスゴブリン。

 最後尾を走る1匹を、俺のフロロバインドが捕らえる。

 足を結束され動きが止まったところに、ミコトのソードステッキの刺撃が撃ち込まれた。

 「グエエエエ!」と、人間のオッサンのような声を上げて倒れるそいつをあっさりと見捨て、逃げていく残りの4匹。



「残念でした……! っと!」



 俺はそのうちの2匹の目の前にテレポートし、双剣の斬撃で叩き込んだ。

 同じように、オッサンボイスの断末魔を上げて倒れるゴブリン。

 討伐数2!

 だがその隙に、残る2体は高く茂った草の陰に潜伏してしまった。

 まあ、こういう時は慌てず騒がず……。



「くそー! どこにかくれやがった! うおー!」



 冷静かつ大胆に当惑して敵の術中に嵌って見せるのだ。

 そして同時に、周囲の音、動き、息遣い等の気配に意識を集中する。

 こうすることで、探知スキルをより積極的に発動できるのである。


 ピン……ピン……ピン……キン!!


 今だ!

 脳内に響いた感知反応の変化を捉え、俺は自分の立っていた位置の直上にテレポートする。

 同時に、上から様子を伺っていたミコトが、俺の立っていた場所に入れ替わりでテレポート。

 俺の背後を突いて飛びかかって来たはずのゴブリンたちは、重厚なソードステッキを構えて待ち構えるミコトの打点ど真ん中に飛び込む事になってしまった。



「せやあああ!!」



 ソードステッキの真芯で勢いよく振り抜かれた2体のゴブリンは、遥か遠方まで吹っ飛んで行った。



「ナイスホームラン!」


「逆転満塁っス!」



 俺達は今、近所の村からの依頼で、作物を奪いに出没したゴブリンの群れの討伐をしている。

 群れと言ってもかなり小規模で、10匹程度しかいなかった。

 今の5体で最後である。


 ゴブリンは時として「集落」と呼ばれる簡易キャンプのようなものを設営し、数10匹に及ぶ群れを形成するが、こいつらはまだ、そんな規模になる前の若い個体群だったらしい。




////////////////////




「ゴブリン10匹討伐しましたよ。集落は無かったので、これで全部だと思います。依頼の達成はギルドバードで飛ばしといてくださいね」



 村長の息子、ブアートさんにクエストの成果を報告する。



「すまないなユウイチくん、ミコトちゃん。こんなに安い依頼料で助けてくれて」


「いやぁ……普段野菜とか貰ってる身ですし……」


「地域は助け合いっスよ!」



 今、この村は麦の収穫と夏野菜の収穫で大忙しだ。

 ただでさえ人手が足りていない中、ゴブリン防衛に人員を割くことなどできないのである。



「そういえば、ユーリ君はどうしてるんですか? 最近見かけないけど」



 この村には、銀髪褐色碧眼のあざといショタがいる。

 少し前はやたら俺にくっ付いてきたのだが、どうもご無沙汰だ。

 たまにはあの可憐な姿で目を癒したいのだが。



「ああ~……彼はなぁ……」



 気まずそうな表情で視線を逸らすブアートさん。

 え……!

 まさか彼の身に何かが……!?



「いや、いたって元気なんだが……その……ちょっと拗らせてしまってな……」



 そう言いながらブアートさんは膝をクイクイと揺すり、奥の家を指す。

 その物陰からこちらをじっと見つめるのは……。

 あ! ユーリ君!

 しかし、俺と目が合った彼は、プイと後ろを向き、走り去っていってしまった。



「あのヒグマの件依以来ずっとあんな調子なんだ。悪く思わんでくれ。どうも彼は自分の中の、無敵のユウイチ君像が壊れてしまって、気持ちが整理できてないみたいなんだよ。最近じゃ我流で剣術みたいなのも始めて、将来は強い冒険者になるんだって聞かないんだ」


「マジっすか……。悪いことしちゃったかなぁ……」


「そんなことはない! あの件に関しては村民みんな君に感謝しているし、君が命を賭してでもこの村を守ろうとしてくれたというのは彼も分かっているんだ。ただ、自分の中の憧れが崩れたショックはデカかったんだろう……」


「まあ、今はそっとしておいてあげるべきっスよ。その間にもっと強くなって、彼にまた希望を見せてあげるっス!」


「……そうだな」



 少し寂しさを感じつつも、俺達は村を後にした。

 背後から「なんでユーチ兄ちゃんに頼んだんだよ! ゴブリンくらい僕が倒せるよ!」という、魅惑のショタボイスがうっすら聞こえてきて、ますますブルーな気分になった。

 ユーリ君……弱いお兄ちゃんでごめんな……。




////////////////////





 家に戻ると、見慣れないハーピィが軒先でウロウロしていた。

 いつものお姉さんとは違う、赤い羽根を持った子だ。

 何やら落ち着かない様子で、ウチの中や郵便ポストをチラチラ覗き見ている。

「どうしたんですか?」と声をかけると。



「あ! 君がユウイチくんね! コトノ知らないかしら!?」



 と、息を切らしながら言い寄ってきた。



「こ……コトノですか?」


「ああ、あの子名乗ってなかったのね……。よくここに配達に来てる子よ。今朝から行方不明なの……」


「え!? 朝はいつも通り届けに来てたっスよ?」


「……やっぱり。この家に郵便を届けて、デイスに向かう途中か……」



 彼女はボソッと独り言をつぶやくと、飛び去ろうとする。

 慌てて引き留め、捜索の手伝いを申し出た。

 以前、コトノさんはこの家とデイスの間に、好きな実をつける木があると言っていたのだ。

 若干記憶があやふやだが、何か力になれるかもしれない……と。

 彼女は「本当!? 助かるわ!」と、快諾してくれた。

 俺達はすぐさま空へ舞い上がりデイス方面へ進路を取った。


 しかし、ハーピィは人当たりが良くも、実は警戒心が強く、初対面の人間と行動を共にすることはまず無いとコトノさんは言っていたのだが……。

 この人は随分とあっさり俺達の手助けを受け入れてくれたな。

 特に俺の家を発った直後に失踪しているのだから、俺達を疑っても不思議ではないだろうに。



「うふふ……。だって、コトノったらあなた達のことを大層気に入ってたのよ? 毎日機を織りながら、あなた達から聞いた冒険の話を自慢げに語ってたわ。あの子がそれだけ気に入る人が悪い人な訳ないじゃない?」



 そんなこと言われたら……。

 俄然頑張って探さなきゃってなるやつじゃん!


 いつか聞いたあやふやな記憶をたどり、彼女が話していた「目印」を思い出しつつ、俺は目を凝らしてあの美しい水色を追った。


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