第41話:指輪と鍛錬 時々水着
「アクアシュート!」
「アイスショット!」
二人の魔法が交差し、炸裂、冷気をあたりにまき散らす。
次は飛行スキルで同じ高さまで飛び、何度か旋回する。
今度はテレポートで瞬間移動だ。
これを数回繰り返す。
「ふう……お疲れさん」
お互いに息が上がったところで一度休憩を挟む。
「これで俺は1メモリくらいだな」
「私は2メモリくらいいってるっス。ちょっと燃費は悪いっスね」
「でも威力はお前の方が高いじゃん。低級魔法で中級魔法押せるんだぜ?」
シャウト先輩が送ってくれた指輪。
それは体内の魔力を可視化してくれるマジックアイテムだった。
俺達は低レベルでありながら、レアで強力なスキルを持っている。
その最たるものは飛行スキルであり、転移スキル(テレポート)である。
どちらも移動、戦闘、日常生活全てにおいて有用なのだが、如何せん魔力消費量が多い。
そのおかげで俺達はこれまで、危機を脱し、強敵相手に互角以上に渡り合い、その一方で雑魚相手に死にかけ、肝心な時に動けなくなったりした。
それらマイナスの要因となるのが、俺達の絶対的な魔力の少なさだ。
特に戦闘においては、このほかにも攻撃魔法や召喚魔法、オートガードを多用するわけで、常に魔力切れの恐れが付きまとっているのだ。
一応、体の疲労感などで察することは出来るが、激戦や乱戦となると、魔力の残量の計算など考えている場合ではなくなってしまう。
結果、戦闘中、もしくは戦闘後に魔力切れを起こして死にかけるというのが半ばお約束と化してしまった。
これまではあわやというところでシャウト先輩を始めとする仲間の冒険者達に助けてもらえたが、今後、そのような幸運が続くとも限らない。
冒険者としてクエストをこなしていくためには、自力で敵を倒し、生還する程度の腕を備えなければならないのだ。
その一環として、指輪の力を借りて自分達の魔力消費量を計測し、今後の戦いに生かそうというわけである。
そもそも、この世界で好き放題に釣りをするためだけのスキルだったのだが……。
最初の一年で経験した望まぬ対人戦、魔物戦、そして今年に入ってから酷い目に遭った大型猛獣戦、そして目下この大陸で跳梁している邪神教徒と眷属魔物達。
彼らとの戦いを経て、そう気軽に構えていられないと思ったのである。
シャウト先輩の部下にもなっちゃったし、デイスは襲撃されるし……。
邪神教は海川自然を汚してくるし……。
もはや戦いは避けられないのか……!
さて、朝から昼過ぎまでかかってお互いの能力を色々計ってみたのだが、思っていたよりお互いの特性が異なることが分かった。
例えば、同じ魔法を使えばミコトの方が遥かに高威力。
初級魔法で中級魔法を相殺してしまうのだから、それこそ3~4倍くらいの差がある。
一方で俺は魔力消費量がかなり少なく、ミコトの半分程度しか必要としない。
加えて魔法の出は俺の方が早い。
ミコトは一撃の重さ、俺は手数で勝負というわけか。
威力という概念がない魔法、それ即ち飛行スキルやテレポートではスピードに強化がかかる俺の方がずっと有利だ。
さらに知能の補強により、形質変化も俺の方が得意なようだ。
これがシャウト先輩の言っていたジョブスキルによる性能差というやつである。
トリックスターの俺と、エンジェルナイトのミコトでは得意分野が異なるのだ。
これまではお互いに下の下レベルだったが、戦いを重ねてレベルが上がるにつれ、その差が顕著になり始めたようである。
俺はジョブスキルの名の通り、スピードや低い魔力消費を活かしたトリッキーな攪乱戦に向いていて、ミコトは高い攻撃、魔法攻撃、防御、魔法防御を活かして敵と正面から殴り合うスタイルが合うというわけだ。
実際、ミコトはインフィートの時、敵の強力な眷属魔物を相手取って一方的に打ち勝ってるからな。
俺は切り合いと魔法の打ち合いでは押されてたが……。
なんか……。
ミコトの方がカッコ良くない?
「そんなことないっスよ! トリッキーに戦うのカッコいいじゃないっスか! 忍者みたいなもんっスよ!」
俺のボヤキにミコトが優しい反応を返してくれた。
そう言えばこいつ、ここからさらに愛情ブーストかかるんだよな……。
可愛い顔してとんだストロングスタイルである。
////////////////////
遅い昼食を挟んだ後は、農園の世話をする。
ラッパキュウリや人面ナス、ポマトが収穫時だ。
良い感じに熟した実をもぎっていく。
畑の隣にある水田では、自家製どぶろく用のブリーム米が青々と茂っている。
春に植えたマリバナナの苗はすくすくと成長中だ。
作物を収穫した後は、キングウズラにエサをやり、その卵をもらう。
最近一羽が執拗にお辞儀をしてくるのだが、なんだろう?
まあ、卵の出もいいようなので健康に影響はないだろうが……。
そんな普段の生活を謳歌していると、バサバサと羽ばたく音が聞こえてきた。
聞き覚えのある音だ。
「おーい! ユウイチくん! ミコトちゃん! 水着が出来たの! 着てみてくれない?」
随分興奮した様子で降りてきたのは、いつものハーピィのお姉さん。
昨日ミコトを撫でたり舐めたり揉んだりして調べ上げた水着の試作品が早くも仕上がったらしい。
「えぇ……また着るんスか私……」
ミコトは昨日の件でお姉さんがトラウマになっているようだ。
しかし、お人好しなミコトのこと。
頼まれるがままにハーピィ製の水着を着用しに家へと入っていった。
「ど……どうっスか?」
再び現れたミコトの姿は、可憐そのものだった。
純白の布で隠すべき場所を隠し、一方で、魅惑的な部分は大胆に露出させる。
それは例えば、下乳、横乳だったり、ムッチリした太腿の付け根と腰の境目だったり……。
それでいて、所々にあしらわれた長めのフリルが露出に対していやらしさを緩和している。
クロスホルダータイプのマイクロビキニに、フレアビキニタイプの要素を足したような形状だ。
所々にあしらわれた天使の羽の刺繍も可愛らしい。
「いいよミコト。すごく」
「いいっスか? えっと……雄一さん? なんで家に引っ張り込もうとしてるんスか?」
「すごくいい。可愛いよミコト……」
「耳元で甘く囁いちゃ駄目っス! まだこんな明るいんスよ!」
静かに理性を失った俺を見て、ハーピィのお姉さんはグッとガッツポーズを作り、「うんうん。素晴らしい反応だわ。これで殿方憧れのファッション部門はいただきね!それでは私はコレで失礼するわ。製品版ができたらまた持ってくるわね。ごゆっくり~」と言って飛び去って行った。
「あー! お姉さん! ちょっと待つっス―――!」
ミコトの叫びが林にこだましたが、それを聞いている者はキングウズラくらいのものだった。
////////////////////
はっ!
また夜!
いかんいかん。
ついつい盛り上がってしまった。
部屋に明かりを灯すと、ミコトは既にベッドから出ていた。
「もう! 雄一さんも人のこと言えないじゃないっすか!」
台所ではミコトが野菜とヨロイゴチでコチ鍋を作っていた。
朝から夜まで激しい運動を続けたので、お腹はペコペコである。
「いやぁ、ゴメンゴメン。あの水着すごく似合ってたからついつい……」
「可愛いって言ってくれたのは嬉しいっすけど……もう……」
そう言いながら、小さな土鍋がテーブルに乗せられる。
旨そうな匂いだ……。
二人で手を合わせ、いただきますの一言。
その後はもう飢えた獣のごとく、二人してコチに貪りついた。
旨い!
コチのうま味がポマトの果実で引き立てられ、さらにその出汁がポマトの根にしみこんでいる。
海鮮ポトフのような味わいだ。
あっという間に鍋は空になり、俺はそれを流しに持っていく。
「お詫びに今日は俺が洗いものするから、ミコトはお風呂入って来なよ」
「えへへ……優しいっスね。でもいいっスよ。二人で洗うっス」
そう言ってミコトが横に並んできた。
洗い物の邪魔になるので、指輪を外そうとした時、俺はあることに気がついた。
「指輪の魔力ゲージ……増えてね?」