表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/348

第36話:挟撃! カニ 対 ミコト




「いや~凄かったっス! ヨロイゴチにあんな生態があるなんてビックリっスよねぇ!」



 横を飛ぶミコトがホクホク顔で言う。

 昨晩、すごい生命のドラマが見られると聞いたミコトは、直前までの爆睡が嘘のように飛び起き、文字通り現場へすっ飛んでいった。

 そしてコチが産卵する様子を事細かに観察し、死ぬほど興奮していた。

 研究者といえども、魚の産卵シーンに出くわすことは稀だ。

 案外、延々海と向き合っている暇な釣り人の方がそういうのに詳しかったりするらしい。

 確かに、近所の防波堤にいつ行っても居た爺さんは魚の行動パターンにやたら詳しかったっけ……。



「お土産もいっぱい釣れましたし、大きなカニまでゲット出来てラッキーっス!」



 俺の両肩にぶら下がるのは、コチとメッキが入ったクーラーボックスと、昨晩コチの死骸を食い漁っていたデカいカニの入ったクーラーボックス。

 計52kg……。

 飛行スキルの応用テクニックで軽くしているとはいえ、結構重い……。

 やはり一気に飛んで帰ろうとすると、結構しんどいな……。


 3時間ほど飛んだあたりで、一旦着地し、イエローポーションを飲みつつ小休止を挟む。

 しかし、随分長く飛べるようになったもんだ。

 春頃は1時間も飛んだら魔力切れでヘロヘロになってたのに、今や3時間荷物を抱えて飛んでも、まだまだ元気である。

 

 夏前の特訓の成果もあるだろうし、最近ちゃんと戦ったり働いたりしてるので、レアジョブスキルならではのステータス上昇率の高さが生きてきたというのもあるだろう。

 それ考えると、確かに俺達相当勿体ない生活してたんだな……。

 そりゃギルドの皆に奇異の目で見られるわ。



「ところで、昨日雄一さん何やってたんスか? 下半身ビショビショになってたっスけど」



 イエローポーションを一気にグイっといったミコトが、俺に尋ねてきた。



「うっ……。いや、まあ……酔った勢いでな……」


「何してたんスか~? 人魚ナンパしてたとかだったら怒るっスよ?」


「してないわ! てか、あんなとこに人魚なんかいねぇだろ! ちょっと入水自殺しかけただけだよ」


「へ!? “ちょっと”ってなんスか! “ちょっと”って! 何突然命絶とうとしてんスか!」



 まあ、そうなるよね……。

 とりあえず、事の経緯を簡単に説明する。



「いやいやいや!! 全然脈絡ないっスよ! 怖いことやらないでくださいよ! 手料理胃に抱えられたまま死なれたら私その後天界で死ぬまで引きずるっスよ!」



 ちょっと怒られた……。

 ミコトがクーラーボックスを開け、ヨロイゴチ達に「雄一さんを引き留めてくれてありがとうっス……。南無……」と、手を合わせている。

 だからお前、何の宗派なのよ!

 その後彼女はカニにも手を合わせようとふたを開けたが、まだ生きていたそれに思い切り挟まれていた。

 助けようとした俺も思う存分挟まれた。

 カニ怖い!


 暴れまわるデカいカニを二人死力を尽くして抑え込み、なんとかクーラーボックスに再封印した。

 うん……こいつはエドワーズにやろう。


 そこからはまた飛んでは休憩、飛んでは休憩を繰り返し、およそ9時間かけてデイスのすぐ傍の丘に辿り着いた。

 大体6時くらいだろうか。

 夏なのでまだ日は長い。

 デイスの向こうへと沈んでいく夕日を眺めつつ、二人で最後の休憩をとる。



「流石に遠かったっスね~」



 ミコトが肩をゴキゴキと鳴らしつつ、イエローポーションをがぶ飲みしている。

 俺もだいぶ疲れた……。

 体力回復用のグリーンポーションを飲み、ホッと一息つく。

 この距離の遠征は月一が限界だな……。

 車とかあったら簡単なんだけど……。

 キャンプ用品召喚でオフロード車とかキャンピングカーとか出せないもんかな?

 と、試しに手を突き出し、召喚を試みてみたが、何も起こらず、猛烈な倦怠感が襲ってきたので辞めた。



「ねえ雄一さん雄一さん。 アレ……何でしょう?」



 慌ててイエローポーションを飲む俺の肩をミコトが叩く。

 彼女の指さす方を見ると、デイスの城門の辺りから黒い煙が上がっている。

 火事か……!?

 いや違う!!

 城門前にいる何者かの集団が次々と攻撃を放っている。



 俺がそれに気付くのと、俺のギルドバードが手元に飛んで来るのはほぼ同時だった。

 「ジャシンキョウト シュウゲキ」

 殴り書きされているが、ギルドの受付のお姉さん(ぶりっ子)の方の字だ!



「ミコト!」


「はい!」



 俺達はミックスポーションを一気飲みし、デイス目がけて飛んだ。

 夕日はデイスの向こうの地平線に沈み切る寸前だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ