第33話:ボニート川河口の水中探索
少し緑色の濁りをもった海中。
白い砂地が延々と続いている。
俺はミコトの頼みを叶えるべく、あのコチが恐れる捕食者を探して海水浴中だ。
本格的に潜水スキル使ったのコレが初めてだな……。
まあ、魚の水中映像なんか見るのは好きだし、水中探索が嫌というわけじゃない。
実際、眼下でモゾモゾと泳ぎハゼや小イカような小型魚を捕食しているヨロイゴチや、その他の水生生物達の様子は見ていてとても楽しい。
離岸流に乗って沖まで泳いでいくと、海中に急な坂が現れた。
「カケアガリ」、またの名を「ブレイク」である。
さて、そろそろ気を引き締めて探そう。
カケアガリは身を潜めやすく、また、底生生物が波によって巻き上げられやすいことから、大小を問わず魚が集まりやすい。
それも、離岸流が絡んだカケアガリとなれば、その釣りポイントレベルはSSS級である。
(お! 並んでる並んでる!)
傾斜に沿って潜る深度を少し下げると、カケアガリの際に列を作ったヨロイゴチの姿が目に入った。
離岸流によって抉れた部分、すなわちエサが真っ先に飛び出して来るであろう場所には、大型の個体が陣取り、中型以下の個体を威圧している。
小柄は個体群は少し深い、坂の下の方で群れていた。
パラシュートアンカーを召喚し、それに捉まって海底まで沈む。
深度は10mほど。
ちょうどコチが群れる坂道を海底から見上げる形だ。
大型の肉食魚を警戒しつつ、まったりと眺めていると、シロギスのような小魚の群れがカケアガリの上から離岸流に乗って飛び出してきた。
次の瞬間。砂に半分潜って待ち構えていたコチ達がクワッ!と大口を開けて襲い掛かった。
散り散りに逃げるキスの群れ、それを追うコチ。
大自然のスペクタクルである。
重い甲殻の重量を補うため、エラから激しく水流を吹き出しているのが確認できる。
大きな腹びれを広げ、白い泡を噴き出しながら飛び上がっていくコチの姿はロケットのようだ。
大型の個体は生き延びてきた経験値故か、瞬く間にエサを捕えて再び砂へと潜っていった。
一方、小型のコチは、二度、三度と食いつき損ない、弱って浮き上がっていくキスを追って海面近くへヨタヨタと泳いでいく。
やはり、泳ぎそのものはあまり達者じゃないんだな……。
若干の愛らしさを覚えつつ、その姿を眺めていると、突然、海面に巨大な影が出現した。
何だ!? と思う間もなくそれは急降下し、泳ぎ上がったコチに食らいついた。
天敵の出現を察知したのか、辺りを泳いでいたコチ達が海底に突き刺さるがごとく潜伏し始める。
その様子に気を取られている間に、謎の巨大な影は姿を消していた。
////////////////////
「どうだったっスか!? クエっスか? ロウニンアジっスか?」
海から上がるや否や、ミコトがすっ飛んできた。
「とりあえずどうぞっス」と温かいお茶を手渡される。
その茶をグイっと飲み干すと、塩でイガイガしていた喉がスッと回復した。
「どっちでもないぞアレは……。何だろ? 海面に擬態して浮いてて、上からコチ達を狙ってるんだ」
「わお! そんな魚がいるんスか!? それは早速飛んで上から見てみるっス!」
そう言って飛び上がろうとするミコトの手を掴み、それを止める。
ミコトの頼みを聞いた次は、俺が我儘を言わせてもらう番だ。
「まあ待て、魚の生態は分かったんだ。ここからは釣りで正体を暴かせてくれ」