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第31話:フラットフィッシュを釣りに行こう




 コチが……コチが釣りてぇ……食いてぇ……。

 気温の高まりと共に、釣り人の性が疼きだす。

 だが、生憎家の近隣でコチが生息しているポイントはない。

 ヒラメもだ!

 夏といえばフラットフィッシュ釣らなきゃ駄目だろ!



「と、いうことで遠征します」


「急っスね!」



 去年の今頃は、色々とえらい目に遭ったせいで釣りどころではなかったが、今年は違う。

 装備も揃ってるし、スキルのレベルも上がってる、ジョブスキルも少しだが成長し、並の魔物、賊の類なら俺達だけで排除できるくらいの自信もついた。

 ここらで一発、プライベートで遠征と洒落込みたいところだ。



「魚屋のオヤジに聞いたんだが、ボニート川の河口あたりでコチとかヒラメっぽい魚の水揚げ情報があるらしい。見た目が変な魚なんで、この辺じゃ売値がつかなくて、現地で消費されるだけなんだってよ」


「美味しい魚なのに勿体ないっスねぇ」


「まあ、釣り人からしたら下手に有名になって乱獲されて激減! なんかに比べりゃ、断然マシだけどな」



 ボニート川の河口は、家から徒歩で4日ほど。

 ちょうどデイス~インフィート間の道のりと同じくらいだ。

 飛行クジラを使えば4時間程度だが、個人でのチャーターは高すぎる。

 大きな都市もないので、通称キャラバンの旅客車に乗せてもらうこともできない。

 となると……。



「えぇ~! また歩きっスか~!?」


「いや、流石に飛行スキルで飛ぶよ。俺だってもうあんな歩きたくねぇもん」


「良かったっス……。私この間の徒歩旅行で3キロくらい痩せちゃったスもん」


「代わりに5キロ太ったろお前。なんだこの腹は~!」


「うわ~ん! 揉んじゃダメっス~! 雄一さんとの平和で幸せな日々がお肉に変わっちゃったんスよ~!」



 幸せ度が増したミコトの腹を揉みつつ、新調したリュックに衣類を詰めていく。

 後は米と……ドライフルーツと……回復用、調理用のハーブ類、そしてポーション類……。

 結構大荷物になるな。



「途中で休憩しながら行くようにするっス。魔力をうっかり使い切ったら危ないっスからね」



 ミコトは俺の腹揉みを完全に受け入れながら、地図に線を書き入れていく。

 そして、途中に小規模ながら村があるので、そこに宿があれば泊まり、無ければ近くで野宿させてもらおうと言う。

 行きは釣りする体力を考えて途中一泊、その後釣り場まで移動して朝~夜まで釣りをし、野宿。

 そして帰りは1日でひとっ飛びしようという計画である。

 うん。

 流石はミコト。

 この上なく妥当かつ真っ当な遠征計画だ。




////////////////////




「はい。承りました。それでは5日間、お二人のギルドメンバー札を裏返しておきますね」



 ギルドの受付のお姉さんに旅行へ行く旨を伝え、俺達が暫くクエスト参加不能であることを告知しておいてもらう。

 指名クエストを出したのにいつまで経っても返事が来ない等のトラブルを避けるため、長期で留守にする時は必ずギルドに報告しなければならないのだ。


 無名の新人なら多少怠っても問題はないが、俺達は今やちょっとした有名人にして、雷光のシャウトの舎弟であり、唯一の一党メンバーである。

 いつ大それた指名が来るか分からない以上、ちゃんとしておかないと先輩にもギルドにも迷惑かかっちゃうからな……。


 ところで、シャウト先輩が見当たらない。

 先輩はよっぽどのことがない限りは自由に暮らしてろと言ってくれたが、一応、一声かけておきたいのだけど……

 ん……?

 先輩もだけど、なんか今日えらく閑散としてねぇかここ?



「シャウトさんは今、都に呼ばれて出張中ですよ。邪神教と接触した各地の二つ名持ちを集めて対策会議してるんです。ホッツさんやジニオさん、シービーさんもギルドマスターと一緒に行ってます」



 また、先輩達以外の冒険者も、インフィート行の交易キャラバンに同行して、あちらのギルドを見に行っている者が多いらしい。

 どうりで静かだと思った。

 となると、この街に駐在してる冒険者は俺達除いて4組18名か。

 常駐組だけで19組53人いることを考えると、こりゃ相当に少ない人数だな。



「言い方悪いかもしれませんが、今ここのギルドは初心者パーティーばっかりですよ。もし近隣でこの間みたいな規模の猛獣騒動、魔物騒動なんか起こったら対処できません……。本当はユウイチさん達には残っていてほしかったんですねどねぇ……」



 と、ちょっと含みを持たせた言葉をぶつけてくる。

 冒険者はあくまでもギルドに所属しているだけの自営業者のようなもの。

 インフィートへの転居も、私的な旅行も、その他諸々の行動に対してギルドは殆ど拘束力を持たないのだ。

 だからインフィート見学で中堅冒険者がごっそり街から出ても、俺達がそんな中で旅行したいと言っても、それを無理に呼び止めることは出来ない。


 流石に街が壊滅するとか、または強敵が大量発生したとか、魔王軍が攻めてきたとか、そういった時のために、断ったら登録抹消レベルの罰則がある「緊急招集」という制度もあるにはあるが……。

 滅多なことでは使われない。

 まあ、過去幾度も魔王軍や大型魔獣の攻撃を凌いだこの街でそれが必要になることはまずないだろう。

 それに、俺達が居たって大した戦力にはならないし……。

 明後日、明々後日が大潮だし……。



「俺のギルドバード置いておくんで、何かあったらコイツ使って呼び戻してください。急いで飛べば半日くらいで戻れますんで」


「むー……ユウイチさんって案外冷たいですね」


「あはは……釣りしたいモードになっちゃったら他のことにはドライになっちゃうタイプの人っスから。私はそういうひたむきな所も好きっスけどね」


「あーハイハイ。お熱いことで……。なにはともあれ怪我せずに帰ってくださいよ~」



 ちょっとぶりっ子入ってる受付お姉さんと、三白眼の受付お姉さんに見送られ、俺達はデイスを発った。

 しかし……。

 さっき言ってた今攻撃を受けたら云々……何かのフラグじゃなきゃいいけど……。


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