第30話:ただいまデイス
「着いたー!」
「ただいまデイスっス!」
実に半月ぶりのデイスの城門。
苦労が多かったせいか、いつにも増して安心感を覚える。
古戦場跡をのんびりと歩き、いつかのトビバスの村に泊まり、オウゴンワカサギパン+皮ごとトビバスムニエルという禍々しいご当地バーガーで気分の悪い朝を迎え、そこからものの3時間で着いたため、まだ昼も回っていない。
うう……大声出したらまた気分悪くなってきた……。
何なのあの村はパンを生臭くしないと食えないの……?
ジールさんとの挨拶もそこそこに、ギルドへ向かう俺達。
クエストで遠出するとよく分かるのだが、この街は本当にいい街だ。
物価も安めだし、治安もいいし、変な伝統とかも無いし。
あと、ギルドがちゃんと機能してるしな……。
インフィートの支部酷かったし……。
「おいユウイチ~! お前何また評価上げてんだよ~!」
「うおっ! エドワーズ!? いきなりなんだお前……って酒臭っ!!」
こいつ珍しく昼からベロベロだ……。
パーティーの女の子達も皆泥酔している。
まだ呂律が回っているコモモによると、一昨日で長期契約が一旦満了したらしく、久々に4人揃ってパーティー飲みをしているらしい。
「なんだじゃねーよ~! お前アレ見てみろ~!」
千鳥足のエドワーズにグイグイと手を引かれ、ギルド受付横ギルドメンバー札のところへ行く。
すると、俺とミコトの札が紙の束で覆われていた。
ああ……なんかデジャブ……。
「インフィートの臨時市長様よりご報告いただきまして、邪神教による街の乗っ取りを見事阻止した冒険者がいると号外に出したらこの有様で……」
「それが以前ヤゴメを見事討滅した釣りバカと来りゃ、またスカウト熱も再燃するわよね~」
受付のお姉さん方が気まずそうに、または面白そうに茶化してくる。
その様子を見て、ギルドの食堂で座っていた何人かが腰を上げ、俺達の方へ歩いてきた……。
ヤゴメ事件・リターンズである。
それからはもう「我々の自警団に……」だの「ぜひうちのキャラバンまで……」だの「くっ! 貴様ら離れろ! 彼は我が騎士団に!」だのと……。
だから俺はそういうの嫌なんだって!
しかも今回も俺全然活躍してないし!!
そう言うが、完全にヤゴメの一件で戦績に箔がついてしまっているため、やれ「謙虚」だ「同期に気を遣って」だ……。
いい加減ゲンナリしていると、見かねたシャウト先輩がため息をつきながら歩いてきて、
「はいはい、こいつはアタシの一党のメンバーなんだよ。スカウト話はアタシ通してくれ! おら! アタシらはまだ依頼途中なんだ。散れ散れ!」
と、少し手荒に追い払ってくれた。
流石に二つ名持ちの一党メンバーとなると迂闊にヘッドハンティングとはいかないようで、彼らはあっさり引き下がった。
先輩頼もしいっす……。
「何だお前~! まーたそうやって謙虚なとこ見せやがって~ でも俺お前のそういうとこ好きなんだよな~!」
尚も絡み倒して来るエドワーズだが、パーティーメンバー達によって席に連れ戻されていった。
「たまには俺達にもいいカッコさせろー!」と大声で叫ぶと、巨大ジョッキを片手にグイっと傾けている。
ああ……あんな浴びるように酒飲んじゃって……。
明日響くぞありゃ……。
////////////////////
「つーわけで、インフィートの臨時市長、前の市長の娘さんが陸路の通商ルート開いてほしいってよ」
サステナから受けた依頼のメイン。
デイスの商会への通商依頼と、ルートの報告だ。
この街の商会は気持ちのいいくらい漢気溢れたおばちゃんが会長を務めているので、新規の通商依頼は滅多に断られない。
一定の安全性が確保されたルートがあるとなれば、もう十中八九通称成立だろう。
「ほほう……。インフィートか。あそこは木材と鉱石、あと良質な金属が産出される地域だね。うし! んじゃ早速通商キャラバン第一陣を編成するとしよう」
とまあ、本当に気持ちがいいくらいの即決だ。
こりゃサステナ喜ぶだろうな。
「多分明後日には出発になるだろうけど、君らはもう疲れたろ? 実力があってキャラバンの護衛慣れしてる奴3~4人連れてきてもらえるかな?」
などと恐ろしく気の早いことを言いだすので、ちょうどいいカッコさせろと息巻いていたあの4人組を推薦しておいた。
早速会長の秘書が足早にギルド本部へと向かって行く。
アイツらならバッチリ護衛任務をこなしてくれるだろう。
先輩は「ついでにインフィートに常駐したいって奴探して来るわ。んじゃ、今回はここらで解散っつーことで」
と言って去って行った。
「お疲れさまでした!」「また誘ってくださいっス!」とその背に声をかけると、スッとピースサインを返してくれた。
さて、俺達は家に帰ろうかと、ミコトの手を引こうとすると、クイっとその手を引っ張り返された。
「雄一さん。すんごいご無沙汰だったことですし……」
彼女が指さした先は、休憩と宿泊ができる立ち寄り個室温泉宿だった。
まだ昼間だよ?
と言うと、スッとミックスポーションを差し出された。
……いつの間に買ったんだこんなもん。
しかしまあ、俺も色々と蓄えがあるのも事実。
俺はそれをグイっと飲み干し、彼女の手を引いてその扉をくぐった。