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第28話:デイスを目指して 3日目夜 緑に包まれて 




 何も……何も見えない……。

 ものすごい暗い……。

 とりあえず明かりを点けないと……。



 LEDランタンを召喚し、電源を入れると、緑色の壁に囲まれた空間が浮かび上がった。

 ミコトとシャウト先輩は……!?

 首を回して確認すると、ミコトは俺の後ろでひっくり返っていた。

 頬を軽く叩くと、「うう~……雄一さん……私こういうプレイはまだ……」と寝言を言っている。

 大丈夫そうだ。

 しかしシャウト先輩とタマタマがいない。

 どこだ……?


 追加でLEDヘッドライトを召喚する。

 今度は上にライトを向け、視界を巡らせる。

 すると……いた! 

 天井から伸びたツタに縛られ、吊るされている。

 タマタマも一緒だ。



「先輩―! 大丈夫ですかー!」



 大声で叫んでみるが、反応は無い。

 大丈夫か!?



「う……うう……コレはやられたっスね……。食肉植物っスよ……。これ……村まるごと食肉葉の上だったみたいっス……」



 夢想SMから目覚めたミコトが、這い上がってきた。

 ていうか村丸々一個食肉植物!?

 やべぇんじゃねぇの俺達!?



「あ、多分大丈夫っスよ。食肉植物って刃物があれば内側から裂いて脱出できるんで。まあ仮に無数の触手が伸びてきて、身動きも出来ないくらいガチガチに縛られて魔力吸い尽くされるようなことがあれば、成すすべなく消化されちゃうかもしれないっスけど……」


「それは……今のこの状況みたいに……?」


「ええ、そうっスね。もう私身動き取れなくて……テレポートも出来ないくらい魔力吸われ始めてるっス―――!! 嫌あああああ!! 雄一さん! 私達食べられちゃうっス―――!!」


「冷静に言ってる場合じゃなかったろ―――!! うおおおお!! 全然動けねぇ!!」



 話している間に四方から素早く伸びてきた触手に絡め取られ、俺達は瞬く間に消化待ちの列に並ばされてしまった。

 足元から、壁から、天井からドロッとした液体が流れ出てくる。

 熱っ!! 服溶けてる!!

 ていうか服以外も溶けてる!!

 皮膚が焼けるように熱い!!



「ぐっ!! なん……だ……!? くああっ!! 痛ぇ!!」



 頭上から聞こえる、先輩の苦し気な声が聞こえてきた。



「先輩! 俺達食肉植物に食われてます! 早く脱出しないとヤバいっすよ!」


「あんだとぉ!? クソっ! 力が入らねぇ!」


「キューキュー!!」



 ずっと触手に絡みつかれていたせいか、シャウト先輩は既に対処できないほど力を奪われていた。

 いよいよやべぇ!

 俺に何かできることは……!?

 魔力は残り少ない、腕は動かせない、テレポートは……この外までなら一発は出来るはずだ。

 だが、道具召喚も出来て2つ……いや、早くしないと1つも出せなくなっちまう!



「雄一……さん………茎っス……茎を断ち切るんス……! テレポートで……早く!」



 茎!?

 ああ!そうか!ハエトリソウや、ウツボカヅラも、捕食を行う葉を支える茎がある。

 そこを断ち切ればいいのか……!



「すまん、ちょっと待っててくれ! 絶対助ける! テレポート!!」



 なけなしの魔力を使い、葉を一枚隔てた外へ脱出する。

 無論、外に飛べたのは俺と、武器セットだけだ。

 外に出て驚いたのだが、この食肉植物、無茶苦茶なデカさだ。

 地面から生えたハエトリソウに似た口型の葉が、壁のようにそそり立っている。

 そして……あった!

 木のように太い茎が、その大口を支えている。



「てりゃああああ!!」



 俺は双剣を握りしめ、幾度も、幾度もその茎に斬撃を叩き込む。

 だが、うっすらと傷が入る程度で、到底切り倒せるようなものではない。

 よく見ると、茎の内部を黄色い光が流れている。

 これは……二人の魔力か!


 時折、雷の閃光によって、内部が透けて見える。

 吊るされた先輩とミコトの影が映し出されるが、二人はぐったりとしていて動かない。

 早く助けないと……!


 再び剣を振るおうとした瞬間、視界が真っ白になった。

 続けて、ドーン!という轟音が耳元で聞こえる。


 一瞬気を失いかけたが、何とか持ちこたえた。

 眩んだ視界が戻ってくると、青いオートガードが俺の周りに張られ、辺りの地面から煙が上がっていた。

 落雷が葉に直撃したのだ。

 その衝撃は凄まじく、俺は10mほど吹っ飛ばされてしまったらしい。


 だが、葉は健在だった。

 落雷を受けて尚、動じることなく聳え立っている。

 こんなの……俺がどうにかできるものじゃねぇ……!!


 絶望が俺の心を揺さぶる。

 再び光った稲光が、葉の中の溶解液がせり上がり始めているのをはっきりと照らし出した。

 時間がない……!

 でも……打つ手が……!



「くっそおおおお!! 切れろ!切れろおお!!」



 茎だけでなく、葉も双剣で打ち付けるが、これもまた恐るべき強度を持っていて、俺の腕力では満足に傷もつけられない。



「ミコト! シャウト先輩!」



 一心に茎に斬撃を撃ち込んでいると、ふと、あることに気が付いた。

 俺が先ほど付けた傷跡が柔らかくなり、刃が若干ではあるが、通るようになっているのだ。

 ……雷だ!!


 葉の表面は電気を通さない性質を持っているが、一皮むけた内部には、その特性が無いのである。

 多分!

 つまり、切れ込みを入れ、何発か雷をぶつけ、また切りつけ続ければ切断の可能性がある。

 いや、いっそ雷の熱を持ったモノで切り続ければいいんだ!


 俺は一旦その葉から距離を置く。

 そして、残された魔力を振り絞り、釣具召喚を行った。

 茎に強く巻き付くは、サメ釣り用の極太ワイヤー。

 それを周囲の木、岩等、極力高いものに結わえ付ける。

 後は……召喚した釣具が消滅しないように、気を強く持つだけだ……!

 幸運にも、足元に魔力回復作用のあるイエローハーブが生えていた。

 泥まみれのそれを、無理やり口に突っ込んで飲み込む。


 待つこと数秒、雷光が林の木に直撃した。

 その電撃がワイヤーを伝い、茎に命中する。

 全力でワイヤーを締め上げ、茎の内部組織を出来る限り破壊する。

 今度はデカい岩に雷が落ちた。

 再び、茎に電流が走る。

 今度の一撃で、一瞬葉が大きく傾いた。

 いいぞ……いける……!

 また一撃、二撃……次々と雷が茎に高圧電流を注ぎ込む。

 葉の揺れは一層激しくなり、あともう一息で切断できそうなくらいだ……。


 だが、幸運もここまでだった。

 突然、目の前が真っ白になる。

 同時に、激しく魔力が失われる感覚が俺を襲った。

 俺に雷が落ちたのだ。

 オートガードがそれを何とか弾いたが、その瞬間、全てのワイヤーが消滅した。



「そ……そんな……」



 二人を閉じ込めた葉は、俺を嘲笑うかのようにユラユラと揺れる。

 く……くそぉ……!

 魔力が尽き、俺はもはや這いずることしか出来ない。

 何とか双剣を持ち、葉の元へ向かうが、そうしている間にも、二人の影が溶解液に沈んでいく。

 くっ……そおおおお!! ミコト! 先輩!

 もはやヤケだ、双剣を思い切り茎目がけて投げつける。

 すると、何とそのうちの片方が茎にざっくりと突き刺さったのだ。

 二人への想いが通じたのか、それともジョブスキルのラック故か、そんなことは分からない。

 フッと一瞬、体に力が戻った。

 人は限界の先に希望が見えた時、その限界を超えた力を発揮することがあると聞いたことがあるが、これがそうなのだろうか……。

 いや、そんなことは今はどうでもいい。

 その双剣目がけて走る。

 途中、俺の眼前に雷が落ち、視界が3度目のホワイトアウトを起こしたが、もはや気にしない。

 白い靄が晴れた先には、「ミコト♡」と書かれた双剣の柄が見えた。



「おりゃあああああああ!!」



 全身全霊でその剣を捩じり、勢いよく切り抜く。

 あれほど頑丈だった茎が、まるで裁縫糸のようにさくりと切れた。

 やがて、葉は大きく傾き始め、バターン!と音を立てて倒れた。




////////////////////




「助かったぜ……ありがとよ……」


「雄一さーん!! 絶対助けてくれるって信じてたっスよおおお!!」



 溶解液の中から這い出てきた二人は、どちらもほぼ裸だった。

 幸運なことに、先輩が背負っていたリュックは歯の口元に引っかかり、溶解の難を逃れている。

 全裸でデイスの門を叩くのは回避されたようだ。



「外はまだすげぇ雨と雷だ。この葉の中でテント張って寝るぞ。おら、ポーション飲め」



 ほぼ裸の先輩に、イエローポーションとグリーンポーションを無理やり飲まされる。

 消化液の分泌が無くなった葉を木で無理やり押し広げて、俺がその中にテントを張る。

 雷を遮断してくれる葉のおかげで、安心して横になることが出来るという寸法だ。

 ほぼ裸のシャウト先輩と、半裸のミコトのせいで、テントの中にもう一つテントが張られていたことは想像に難くないだろう。

 ズボン溶かされなくて本当に良かった……。


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