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第19話:臨時クエスト 神木都市を救え 下




 次々湧いて出て来る半魚人型魔物を相手取り、孤軍奮闘するシャウト先輩。

 範囲攻撃で敵をまとめて屠り、時折現れる大型個体は高威力の電撃で倒し、自慢の短刀で群がってくる敵を次々と切り伏せた。

 だが、近寄った個体に組みつかれ、その隙に手痛い攻撃を食らってしまう。

 拳やヒレの斬撃を食らいつつも、それでも一騎当千の戦いを続けた先輩だが、ついには水流弾で短剣を弾き飛ばされ、数体に組み伏せられてしまった。



「ぐっ!! 放しやがれ!!」


「先輩!!」



 俺も残された魔力でバインド、足結び等で援護を行い、寄ってきた魔物を双剣で切り倒すくらいのことはしたのだが、強烈な水流弾を何発か食らってしまい、その痛みで足腰が痺れ、動けない……。


 

 そんな俺の目の前で、シャウト先輩が袋叩きにされる。

 殴られ、蹴られ、水流弾を受け、ぼろ雑巾のようにされていく先輩。

 まずい……このままじゃ先輩が……!


 魔力を振り絞ったバインドで敵を足止めするが、一体や二体足止めしたところで何の意味もない。

 手元にある石を投げ、何とか注意をこちらに向けさせようとする。

 しかし、見るからにダメージを負い、もはや脅威にならないと判断された俺は相手にもされていない。

 何とか先輩に剣を拾う隙を……。



「ぐっ……。このっ!!」



 鎧の殆どを剥がれた先輩が、半魚人の群れの中で必死に抵抗をしているのが分かる。

 その手足に、肩に脚に、何体もの半魚人が噛みつき、激しく頭を振る。

 あいつら……先輩を食い殺す気か……!!



「ぐあああああああ!! うああああああ!!」



 先輩の悲鳴が木魂する。



「や……やめろ――――!! 先輩! シャウト先輩―――――!!」



 何か……何か手は無いか……!!

 双剣で切り込むのは無理だ……!

 残った魔力……で何か出せる釣り具……!

 この状況を打開できる何か……!

 重量で換算すれば、あと100g分も出せれば御の字だろう。

 だが、その程度の錘では一体くらいしか倒せまい。

 バインドでも数体の足止めが限界だ……。

 どうする……!

 どうする!?


 ふと、ある考えが脳裏をよぎった。

 だけどそんなことしたら……。



「釣り具……召喚! ニシン油!!」



 迷うよりも早く、俺は禁断の釣り餌を召喚した。

 ベショ!

 と激烈な匂いのする液体が俺にかかってきた。

 背中を油が垂れる嫌な感触が襲う。

 直後、先輩を襲っていた半魚人達が一斉に俺の方を向いた。

 当然だ……。

 港によっては使用禁止を謳う程の悪臭と集魚効果のある悪魔のフレーバー。

 魚の特性を持つ限り、お前らはこの臭気に抗えない……!



「ピョオオオオオオオ!!」



 およそ人型の生物が出す音とは思えない声を上げながら、無数の半魚人が俺目がけて突っ込んできた!

 先輩は一瞬唖然としていたが、すぐ我に返り、弾き飛ばされた短剣の元へ走る。

 いいぞ……!

 作戦成功だ!


 半魚人が次々に俺に飛びかかって来る。

 あれ……?

 よく考えたらコレ俺じゃなくて、その辺の岩にでも振った方が良かったんじゃ……。

 後悔先に立たず!

 俺の四肢に、頭に、それどころか全身に鋭い刃が食い込んできた。



「ぎゃあああああ!! 痛でででででで!!」



 ヤバい!!

 全身の肉が裂ける!!

 死ぬ!

 マジで死ぬ!!

 食欲をむき出しにし、俺を食い尽くそうとする半魚人達。



「頭下げろ!!」



 激痛で遠くなる意識の先で先輩の怒号が聞こえた。

 とっさに頭を下げると、俺の頭があった場所のすぐ上を、雷光の一閃が通り過ぎていった。

 全身が瞬く間に軽くなる。



「脱げ!!」



 そのまま荒々しく来ていた鎧を脱がされる。

 俺はもう何が何やら分からない状態だ。

 先輩は俺の上下の鎧を引っぺがすと、それを勢いよく湖面へと投げ捨てた。

 匂いの沁みついた鎧目がけ、我先にと水中に飛び込んでいく半魚人達。



「おらあああああああああ!! サンダーレイン!!」



 湖が高圧電流で激しく光る。

 鉱物を多量に含むこの湖は、電気を格段によく伝達し、俺の鎧に食いついていた無数の魚人たちを一瞬で黒焦げにした。



「はぁ……はぁ……。バカ野郎……。自分餌にする奴があるか……」


「すみません……。先輩が危ないと思ったので……」


「へっ……生意気言いやがっ……て……」



 先輩がガクリと崩れ落ちた。

 今ので魔力をほぼ使い切ったようだ。

 よかった……。

 先輩生きててよかった……!



 だが、そんな感動に浸る間も無く、瘴気の中から半魚人型眷属魔物が這い出して来る。

 俺は気を失った先輩の前に這い出し、辛うじて動くようになった両腕に双剣を握る。

 先輩に手出しはさせない……!


 ここで死ぬかもという恐れと、離れ離れで永劫の別れとなるミコトへの謝罪の念が入り混じる。

 だが、魚に背を向けて死ぬのは、釣り人として絶対に嫌だった。

 敵は早くも数十体、いや、百数十体……。

 俺は全身ガクガク。

 何分……いや、何秒持ちこたえられるか……。

 やっぱだめだ! こんな数勝てねぇ!!

 ミコト! ごめーん!!


 飛びかかってきた半魚人達の群れを前に、思い切りヘタレた俺が悲痛な覚悟を決めた時、突然、壁から火山が生えてきた。



「ボルケーノインパクト!!」



 同時に、聞き覚えのある馬鹿でかい声と共に、業火が辺りを包んだ。

 大火炎が巻き起こした空気の激しい膨張が、地面を覆っていた瘴気を吹き飛ばす。

 その熱量に、数十体の半魚人が消し炭となり、俺達を襲っていた一団もその衝撃で薙ぎ倒された。

 とんでもない破壊力だ……!



「ユウイチ! 大丈夫か!! お前なんかクセェ!!」


「シャウト先輩……! 大変! 酷い怪我……! 今手当いたします!」



 砂煙の向こうから駆けてきたのは、マービーとサラナだった。

 マービーが衝撃でよろめく半魚人達を次々に殴り倒し、サラナがボロボロのシャウト先輩に治療薬魔法をかけている。



「おーおー。随分手酷くやられたなぁシャウトォ。えらく色気のある格好になっちまったな! ガハハハ!」



 そして、大剣を振りかざしながら現れたのは、ホッツ先輩だった。



「全く……斥候が殴り込みかけてどうすんだってーの……。まあ今回はそれがプラスに働いたみたいだがな」



 サラナの治療薬魔法の効果で、先輩は見る見るうちに回復していく。

 無数の噛み跡にも回復泡が取りつき、じんわりと治療してくれているようだ。

 ついでに俺にも消臭回復泡をかけてくれた。



「君たち! よく頑張ってくれた! ここからは我々に任せてくれ!」



 ホッツ先輩に続き、全身銀色の鎧に身を包んだ重騎士が続々と現れる。

 あれがギルドナイト!

 それに続いてやって来たのは、国定の魔導士資格において最上位格とされる、紫に金の刺繍が入ったローブを着たお爺さんたち。



「ほお……。まだまだ擦り傷程度じゃのう」


「じゃが放っておいていいわけもないじゃろう」


「ほっほっほ……。いい腕ならしになりそうじゃ」



 爺様魔導士の方々は瘴気を噴き出す大魔封結界岩を見ても、余裕綽々ムードだ。

 お爺さんらに迫る半魚人の群れを、ギルドナイト達がこともなげに切り捨て、その間に3人の爺様魔導士は、何やら複雑そうな呪文を唱え始めた。

 するとどうだろう。

 大きくひび割れていた大魔封結界岩が、見る見るうちに修復されていくではないか。

 噴き出す瘴気はどんどん薄くなり、やがて完全に止まった。



「これで仕上げじゃ」



 3人のリーダーと思われる爺様が杖を大きく振ると、大魔封結界岩の周りに青いガラスのようなものが張られ、美しく輝き始めた。



「あれが大魔封結界岩本来の姿だ。魔王の痕跡を塞ぐだけじゃなく、周囲のマナを取り込んで浄化し、魔の者を寄せ付けないようにする。ダンジョンの虫よけ線香みてえなもんだな」



 ホッツ先輩……その例えは如何なものかと……。

 だが、何はともあれ俺達は助かった……。

 そう思うと、急激に力が抜けていく。

 脚にガクン!という衝撃があり、俺はそのまま意識を失った。


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