第18話:臨時クエスト 神木都市を救え 上
「サンダーブランブル!!」
シャウト先輩が勢いよく飛び上がり、荷物を運んでいた敵のど真ん中に着地。
そのまま短剣を地面に突き立て、電撃魔法を詠唱する。
短剣から激しい電撃が放たれ、それは茨のように地表を走り、近くにいた邪神教徒を一瞬で薙ぎ倒した。
あまりに素早い攻撃だったため、用心棒と思しき武装した連中も為すすべなく黒焦げだ。
ひえぇ……おっかねぇ……。
その惨状を眼下に見ながら、俺とミコトは潜水艦の上まで飛ぶ。
よし、連中の目はシャウト先輩に釘付けだ。
混乱を脱し、次々と現れる武装した邪神教徒、眷属魔物を薙ぎ払いながら、先輩が一瞬こちらを見上げた。
その口元は笑っている。
「いいか、アタシがあの邪神教徒連中が溜まってるとこに突っ込んで滅茶苦茶にするから、お前らはあの本丸二人を叩け。大丈夫だ。決して弱いやつじゃねぇが、お前らならやれる」
「お前らならやれる」
攻撃開始直前に言い渡された乱暴な作戦と、その言葉が脳裏で反響した。
ミコトと目を合わせ、タイミングを計り、同時に急降下を開始した。
「「てやあああああ!!」」
邪神教徒のリーダーとらしきゴテゴテした格好の奴と、偽市長がこちらを見上げた。
二人が目をカっと見開くのがはっきりと分かった。
俺はリーダー、ミコトは偽市長に切りかかる。
だが、二人とも驚くほど軽い身のこなしでそれを回避した。
やっぱ一筋縄ではいかねぇか……!
「きっ……貴様ら! この方はこの街の……」
「知ってるよ! 偽市長だろうが!」
邪神教徒リーダーが戯言を抜かし出したので、すかさず切りかかる。
奴は長いローブの中から俺と同じく双剣を振り出し、俺の斬撃を受け止めた。
「フロロバインド!」
「ぐおお!?」
間髪入れず、フロロバインドで敵を拘束した。
敵は双剣を落とし、体を揺すりながら後退する。
コレでトドメだと双剣を振り下ろすが、防御魔法で弾かれる。
こいつ魔法も使えるのか!
「妙な真似を……! エアロボム!」
「うああ!?」
ローブの中から空気塊が飛び出し、俺に迫る。
オートガードがそれを弾くが、激しい空気の爆発で俺は弾き飛ばされてしまった。
エドワーズが使う風魔法の上位版か……!
「エアロボム!」
「フリーズシュート!」
風魔法は氷魔法で受ける。
エドワーズに習った対処法だ。
空気の塊を操る風魔法は、空気を収縮させることで威力が大幅に落ちる。
弱体化した空気の爆弾はオートガードで容易に弾くことができた。
冷凍魔法アップグレードしておいてよかった……!
「バインドブレイク! エアロスラッシュ!」
しかし、その隙に敵はバインドを解除する魔法を詠唱し、そのまま双剣を掴むと、風の刃を繰り出してきた。
フリーズシュートで片方を崩し、もう一方を双剣で弾く。
自分でも驚くほどまともに戦えている。
もしやコレがジョブスキルの知性の強補正というやつなのか!?
拮抗しながらも、敵が予測できない釣具召喚スキルで、俺は確実に敵を追い詰め始めていた。
ミコトの方を見ると、彼女もまた、眷属魔物相手を一方的に押していた。
小太りのオッサンという見た目からは想像もつかない程俊敏ではあるが、装備によって強化がかかったミコトの方がスペックで上回るようだ。
見ているうちに、ミコトの氷魔法が敵の足元を凍らせ、ステッキソードの一撃で敵を見事に切り捨てた。
やった!
敵は瘴気を放ちながら潜水艦から転げ落ち、深い地底湖へ姿を消した。
「貴様らぁ! 司祭様より賜った魔物をよくも!!」
「アンカースタンブラー!」
声を荒らげて切りかかってくるリーダーの足元に、フォールディングアンカーを召喚した。
突然現れた10kgのアンカーに足を取られ、盛大に転ぶ邪神教徒リーダー。
その首筋を挟むように双剣を突き立てる。
「おい、今司祭様って言ったな。お前より上のがいんのか?」
「く……くくく……私など我らが邪神教の中では下も下……。私を絞ったところで何も情報など無いぞ」
「なら知ってる範囲で吐け! お前らのやろうとしてることは湖と海汚染して生態系荒らして、女の子の親父さん殺してでも成すべきことなのか!?」
戦いで高揚したためか、自分でもビックリするほど荒々しい言葉が出て来る。
だが、本心には違いない。
「当然だ!! エアブロック!」
「うおっ!?」
首筋に張られた風防御魔法に双剣を弾かれ、俺はバランスを崩した。
「ファイアボール!」
しまった! やられる!
間近で放たれようとしている炎魔法に、俺は思わず目を瞑った。
だが、それが飛んだ先は、大魔封結界岩の方だった。
え……。
一瞬、俺は敵が何をしようとしたのか分からなかった。
だが、敵の目的がそれの破壊だったということに気が付いた時、既にその炎は大魔封結界岩の下に積まれた樽に着弾していた。
「―――――――――――――――!!!」
凄まじい轟音、凄まじい衝撃。
ミコトが俺を抱きかかえ、潜水艦の上から飛び降りた。
洞窟が揺さぶられ、天井が崩れてくる。
落ちてきた瓦礫は幸運にも俺達には当たらなかったが、辺りにいた邪神教徒の連中は次々に下敷きになっていった。
「あ……あいつは……!?」
「計画は総崩れだが……! 大魔封結解岩の破壊だけでも御の字よ! ハーッハッハッハ!」
振り返ると、敵は高笑いと共に潜水艦に飛び込んでいった。
潜水艦はハッチを閉じ、急速に潜行していく。
その向こうに見える大魔封結界岩は、崩壊した部分からいよいよ激しく瘴気を吹き出し、湖を汚染していく。
あ……ああ……!
俺があそこで妙なこと考えたから……。あそこで迷わず首を切っていれば……!
激しい後悔が俺を襲う。
「オイ! 何ボーっとしてる! テレポートだ! 出口が崩落で塞がれちまった! あんな瘴気に当てられたら死ぬぞ!」
先輩に首筋を掴まれる。
だが、俺は脳の整理が追い付かない。
「せんぱ……俺……すみませ……」
脳裏に浮かんだ言葉が勝手に口をついて出ていく。
手足は最早俺の意思とは無関係にガクガクと震え、満足に動かすことができない。
「正気に戻れ!」
先輩の電撃ビンタが俺の頬に炸裂する。
ぶはぁ!! 目が覚めた!!
「雄一さん! 先に飛ぶっス! ギルド支部で待ってるっスよ!」
そう言ってミコトがサステナを背負い、テレポートしていく。
俺も同じく、先輩を抱きかかえ、ギルド支部目がけてテレポートを行った。
「ぐほぉ!?」
「痛てぇ!!」
しかし、俺はものの1メートル先へテレポートしたに過ぎず、勢いよく地面に叩きつけられてしまった。
うそ……魔力……切れ……!?
「マジかよ!? くそっ……マズいぜ!!」
先輩は俺の腕から抜け出すと、力の抜けた俺を瓦礫の上へ引きずり上げる。
「ちぃ……。アタシらここまでかもしれねぇぜ……」
「先輩……俺のせいで……」
「あぁ!? お前はよく頑張っただろうがよ! 横目で見てたが、あいつレベル以上に手練れだったぜ……。それを追い詰めたんだから大したもんだ」
「せ……先輩……」
「くっ……お前みたいなのを死なせるわけにはいかねぇが……アタシには今打つ手がねぇ……!」
拳を握り、悔しさを露にする先輩。
瘴気はますます増え、既に地表と湖面を覆いつくした。
この瓦礫の上まで上がってくるのも時間の問題だ。
「ミコト達が増援を連れてきてくれる可能性に賭けましょう」
「……そうだな。だが、お前がそんなに消耗してるってことは、アイツも同じく消耗してるはずだぜ。洞窟のどっかの階層で墜落してるかもしれねぇぞ」
「あ……」
そういえばアイツ回復アイテム旧居住区で子どもたちに渡してたし……。
やっべぇ……。
「ちっ……もう出やがったぜ……。あいつら……」
先輩が指さした先、いつか見た半魚人型の眷属魔物が湖から這い出してきた。
それも10匹とか20匹などという数ではない。
その無表情な目が、一斉に俺達の方へ向いた。
 





