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第17話:クエスト 神木都市の謎を解け D




「ここです。この穴からダンジョンの第2階層に下りられます」



 入り組んだ旧居住区の奥にある鉄扉。

 そこがダンジョンへの隠し入り口だった。

 ダンジョン内の鉱物を採取するため、昔使われていたらしい。

 容易に手に入る鉱物資源が枯渇したことで滅多に使われなくなったそうだ。



「せ・・・…狭いっスね……!」


「元々あった横穴をそのまま使ってるので……こんな狭いらしいです……!」


 ミコトがその胸をボヨンボヨンと壁に擦りながら歩いてくる。

 サステナもかなり苦労しているようだ。



「おい……! ここからは静かにしろ……! 敵がどこに潜んでるか分かんねぇぞ……!」



 反面、シャウト先輩はスルスルと通り抜ける。

 うむ……。

 格差社会。


 洞窟の中は想像以上に明るかった。

 思わず「すげぇ!」と叫びそうになり、先輩に口元を叩かれた。

 

 

「あはは……。木の根の光管と、洞窟に自生している光る苔が、洞窟内を照らしてくれているからです。おかげで明かりが無くても入れるんですよ」


「アタシらからすりゃラッキーだな。敵に位置を悟られずに済むぜ」



 一先ず、第2階層の岩陰にベースを設置し、サステナをそこへ隠し、先輩が護衛につく。

 その間に俺とミコトが第一階層の入口へ上がる。

 敵、すなわち邪神教徒や市長の存在があれば、その場で身柄拘束。

 誰もいない、またはとても二人の手に負えない人数であれば、テレポートで先輩らの元へ戻り、先に最深部の大魔封結界岩の様子を見に行き、調査でき次第ギルド支部へテレポートしてデイスからの増援を待つ。

 コレが今回の作戦である。



「お前ら、いいな? 絶対に無理はすんなよ?」


「当然です! もうあんな奴とは絶対戦いませんから!」


「先輩も今のうちに傷を癒してくださいね!」



 極力音を立てないように、洞窟を登っていく。

 明るいおかげで、かなり歩きやすい。

 しかも湧き水が豊富で、流水の音がダンジョン内に響いているので、俺達の足音は目立たない。

 となると感知スキル持ちの俺達が圧倒的に有利な環境というわけだ。

 人生初ダンジョンがここでよかった……。


 ふと、ミコトが袖をクイクイと引っ張ってきた。

 振り返ると、水場を笑顔で指さしている。

 その指の先に目を凝らすと、魚影がチラチラと見えた。

 おお! 魚!

 古い情報はあったけど、ちゃんといるもんなんだなぁ!

 俺も(クエスト終わったら釣りに来ような)と、笑顔で返す。

 ……これ死亡フラグじゃないよな?



 岩陰に隠れつつ、慎重に坂道を上りきると、広い空間に出た。

 どうやら第一階層まで登ってきたようだ。

 息を殺し、ゆっくりと全体を見渡すが、敵の気配はなく、感知スキルにも反応がない。

 入口と思われる大穴には鉄格子がかけられ、出入りが制限されているのが伺えた。

 その周辺には、崩れた木箱や台車が転がっており、多数の物を動かした様子が見て取れる。

 木箱の中身だろうか、割れた果物はまだ瑞々しい。



「やっぱり私たちが来てから大慌てで何かしたみたいっスね」


「ああ。あとこの……何だろう? 旗? これが俗に言う邪神教の模様なんかね?」



 紫の布に、黒い龍の刺繍が施されたペナントが、邪神教の御旗らしい。

 割とカッコいいなコレ……。

 ペナントを証拠として押収し、ついでに荷物の中身もいくつか拝借しておく。

 ハーブ類とポーション類は結構ありがたいな。

 食い物も結構あるので、ひと段落したら旧居住区に持って行ってあげよう。

 一応言っておくが、断じて盗みではない。

 悪事を働く者からの分捕りは推奨されている行為だ。


 道の安全が確保されたので、テレポートではなく走って第2階層の岩場まで戻る。

 魔力は節約しないとな……。

 途中、チラリと水場を覗くと、ヒラスズキのような銀色の魚が跳ねていた。

 うおお……。

 絶対無事にこのクエスト終えて釣りに来るぞ……!




////////////////////




「ああ。こりゃ間違いねぇ。邪神教の連中だ」



 俺が持って帰ったペナントを見ながら先輩が言う。

 荷物の件など、入口付近のことを続けて報告する。



「こりゃ罠とかじゃねぇ。証拠隠滅が目的だな。さっさと最深部行くぞ」


「「イェス ボス」」


「それもやめろ」



 再び皆で息を殺しつつ、第3階層へと下っていく。

 下るほどに水場が増え、広大な鍾乳洞や、棚田のような岩石の水たまりが多数見られるようになってきた。

 そんな水たまりにも湧き水が流れ、カエルや水棲昆虫が生息している。

 明るい洞窟の為か、目が退化している種が殆どいないようだ。

 所々で魚がライズしていて、もう見ているだけでワクワクが止まらない。

 だが、今はそれをぐっとこらえ、最深部を目指す。

 最深部の湖には巨大なスズキ似の魚がいると聞くし、早くこの事件を解決して釣りに行こう。


 第4階層辺りから、妙な匂いと共に、薄い瘴気が漂い始めた。

 やはり、魔封大結界岩は破られたか、もしくは破れかけの状態のようだ。

 ミコトがヘルムに付いた可動式マスクを口元に動かす。

 その中にホワイトハーブを詰めれば、対瘴気マスクの完成というわけだ。

 なんか……鳥みたい……。

 「大丈夫か?」と聞くと、「むん!」と言いながらサムズアップして見せた。

 ああ、喋りにくいのねそれ。

 

 瘴気のせいか、水場を見ても生命感が感じられない。

 所々に魚の死骸浮いていて、どうやらこれが臭いの源らしい。

 虫やカエルは上の階層へ逃げられるが、魚は逃げられないのだ……。

 可哀そうに。



 最下層である第5階層は、瘴気がかなり濃く漂っていた。

 人の気配を感じ、皆慌てて岩陰に隠れる。

 顔を少し出して覗き込むと、広大な湖の中央に立つ巨大な岩が、黒い煙を吐き出している。

 あれが魔封大結界岩!

 そして、その湖に何やら妙なものが浮かんでいた。



「潜水艦……?」



 木造だが、ハッチのような構造を備え、水圧に耐えるための球体をしている。

 大きさは10mあるかないかくらいだ。

 そのハッチに、黒ずくめの人間が数人、物資を運び込んでいる。

 そしてその上で指揮を執る、恐らくリーダーと思しき人物。

 その横に並んでいるのは……。



「お父様……!!」



 サステナが押し殺したような声を上げた。

 なるほど……アレが市長か、またはなり代わった何者かか……。



「おい、あいつお前の親父さんじゃねぇぞ。魔物だ」



 シャウト先輩が鑑定スキルで相手の属性を読み取った。

 姿を真似る魔物は数多くいるが、高い知能を持っていることから、イミテイターという魔物だろうと先輩は言う。

 この魔物は眷属型で、食った対象の知能を得て、悪事を働く厄介な奴らしい。

 え……ちょっと待ってそれって……。



「お前の親父さん、もう死んでる」


「先輩……! 何もそんな言い方……!」


「……覚悟は……していました……。父を生かしておくメリットが敵にはありませんから……」



「サステナちゃん……」



 俯いた彼女の表情は読み取れなかったが、小さな肩は震えいていた。

 グッと拳を握り、ひと際大きく肩を震わせたかと思うと、彼女はスッと顔を上げ、俺達の方を真っ直ぐに見つめてきた。



「今は亡き父に代わりご依頼致します。この事件の解決を……お願いします……!」


「「任せな!」」「っス!」



 俺達はゆっくりと、それぞれの武器を抜いた。


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