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第16話:クエスト 神木都市の謎を解け C




 思わず「うおぉ……」と声が出た。

 インフィートの旧居住区は、それはそれは酷い様相だった。

 微かに見える松明の明かりが照らす町並みはボロボロで、半壊した石の建物の隙間に木造のバラック小屋が点在している。

 小屋の隙間から、ゲッソリと痩せた人間がこちらの様子を伺い、そっと姿を隠す。

 所々に、ちょうど人の大きさくらいの布が敷かれていて……ちょっとしたふくらみが……。

 あれって、そういうことだよな……?

 なんだってこんなことに……!?



「今この街は、岩盤側の開発事業に従事していた方々が押し込められているんです……。一応定期的な配給は行われてるんですが、ご覧の通り、明らかに量が足りていなくて……」


「脱出したらいいんじゃねぇのか? 所々上に上がる階段あんだろ?」


「この階から出たところで、食物の配給は受けられませんし、ここのことを言えば恐らく即刻捕縛されてここに逆戻りでしょう……。検問があるから町の外にも出られませんし……」


「クソ……。この街のギルドは何やってんだよ……! デイスに戻ったら抗議入れてやる!」



 街を歩けば、物乞いをしている人々が否が応にも目に入る。

 何か施しでもしたいところだが、生憎今は渡せるものを持っていない。

 子供たちはサステナの姿を見ると目を輝かしながら寄ってきて、食べ物をせびっている。

 彼女は腰に付けられたポーチから保存の効くパンを出し、彼らに分け与える。

 ミコトも殺菌、消毒作用のあるハーブを何枚か手渡し、怪我に気をつけるように言い聞かせている。



「みんな! 安心して! デイスのギルドが強い冒険者さんを送ってくれたわ! きっと大丈夫! もうすぐ前みたいに……いえ。前よりもっといい暮らしができるようになるから!」



 サステナの言葉に、子供たちは喜び、大人たちは「サステナ様……」「ありがたや……」と拝んでいる。

 この様子だと、ずっと前からこの街に来ては住民達を見てきたようだ。

 そして、明らかに足りないそれに代わり、自前で配給を行っていたらしい。

 なんだよ……。

 そんなの見せられたら協力しなきゃってなるじゃん……!


 ここは俺も何か出した方が良いかな……。

 と、ポーチを漁っていると、「キン!」と感知スキルに鋭い反応が出た。

 敵!? しかもこの反応は!!



「みんな伏せろ!」



 大声で叫びながら、咄嗟にサステナを庇う。

 オートガードが展開し、そこへ ガン! とクナイのような刃物が突き立った。

 危ない! マジで危ない!

 今の反応こそ、奇襲攻撃を仕掛けようとする敵に出る反応だ。

 隠密スキル等で殺意を隠している敵が、攻撃の瞬間、そのスキルが解除された時にあのような鋭い感知が起きる。



「サンダーウィップ!!」



 伏せの姿勢から体勢を立て直したシャウト先輩が勢いよく駆け出し、敵へ攻撃を仕掛ける。

 しかし、敵もさるもの、電気鞭の一撃を回避し、今度は手裏剣を乱射してきた。

 うおおおお!? ニンジャ!?

 いや、傍観している場合じゃない。

 援護しないと!



「フロロケージ!」



 建物の角を使い、先輩と敵が立ちまわっているエリアを囲うようにフロロカーボン100号の檻を構築する。

 これで敵も自由に逃げ回れまい。

 

だが、切り合いでも忍者は強かった!

 先輩が振るう目にもとまらぬ短刀を、同じく目にもとまらぬ速度で振るわれる忍者刀で迎え撃ち、それどころか鋭い足技で先輩のバランスを崩し、あわや首筋に一太刀を突き立てそうになっている。

 先輩は何とかそれを避け、体勢を立て直しては鞭や剣で応戦するが、再び巧みな剣術でいなされてしまう。

 やべぇ!

 こいつ無茶苦茶強えぇ!


 え……援護しなきゃ!



「フロロバインド!」


「フンッ」


「ナイロンネット!」


「シュッ」


「ウォーターショット!」


「フォッ……!」


「嘘ぉ!?」



 俺のあらゆる攻撃を、狭いケージの中で、シャウト先輩と切り合いながら回避してくる忍者。

 化け物か!?


 そうこうしている間に、忍者は俺のケージの綻びを見つけ、そこに刀とクナイを突っ込んで切り裂き、あっさりと脱出してしまった。

 それを妨害しようとしたシャウト先輩は、腹に強烈な蹴りを食らい、ケージの中で蹲ってしまった。

 忍者はそのままの勢いでサステナに突進する。

 危ない!

 俺が彼女を抱きかかえ、ケージの中にテレポートする。

 フロロカーボンを重ねて召喚し、時間稼ぎ用のバリケードを形成した。



「先輩! 大丈夫ですか!?」


「シャウトさん!」



 ゲホゲホと腹の中の物を吐き出しながら、先輩は「大丈夫だ……」と応える。

 血を吐いていないので、内臓へのダメージは軽度らしい。

 ここで先輩の回復を待って、反撃の策を練ろう……。



「フフォフォッ!」



 だがその忍者は、俺達の籠るケージを一瞥すると、何やら指で変な形を作り始めた。

 アレ……印ってやつか?


 突如、俺達の足元に「魔封」という文字が現れる。



「やべぇぞ! 魔法封じられた!」



 シャウト先輩がそう叫ぶより先に、敵は細い串のような鉄針をこちら目がけて放っていた。

 やべぇ!?

 感知もオートガードも発動しねぇ!

 かつてない危機に、思わず死を覚悟した時、目の前に天使が舞い降りた。



「雄一さん! お守りします!」



 つい先ほどまで姿を消していたミコトが、俺達の前に立ちはだかったのだ。

 しかも何かすごい光輝く姿で……。


 輝くミコトは、飛来した針を防御魔法で弾き、返す刀で忍者目がけて飛び立った。

 飛行スキルの羽も4枚に増えてる……。


 ステッキソードを振るうたび、それを受け止める忍者の武器が弾き飛ばされていく。

 何かすげぇ強いぞ!?

 だが、俺も見ているだけではいけない。

 魔法とは異なる、召喚は行えるようなので、ミコトを釣具召喚で援護する。


 あの忍者、まるで飛行しているような機動をするが、よく見れば、足場なしに方向転換を行えないのが見て取れる。

 敵を拘束するなら、大ジャンプ中というわけだ。

 お誂え向きに、飛行するミコトを捉えるべく、敵は幾度も直線的なジャンプを行っている。

 チャンスをうかがっていると、敵の猛反撃に怯んだミコトがバランスを崩した。

 ここぞとばかりに、忍者が大ジャンプして彼女を討とうと刀を振りかぶる。

 今だ!



「フロロバインド!」


「フォッ!?」



 不意を突かれた忍者は極太フロロカーボンにグルグル巻きにされ、そのまま重力のままに落下していった。




////////////////////




「コイツ……人間じゃねぇ!?」



 落下死した忍者の亡骸をシャウト先輩が調べると、その忍者は黒い霧になって散り始めていた。

 眷属型の魔物である。



「ああ! それで私の攻撃が通用したんスね!」



 謎の強化形態から戻ったミコトが口元にホワイトハーブを当てながら言う。



「私の装備と、この首狩り骸骨くんって対魔の特性があるじゃないっスか? それと愛情スキルが相互効果を発揮したんスねぇ」



 ミコトが「お守りできて良かったっス」とほほ笑む。

 とりあえず抱きしめる。

 ついでにキスもしとく。



「正直今回はガチでヤバかったぜ……。しかし、こんなんが出てきてるとなると、地下の魔封結界はえらいことになってるに違いねぇ。急がねぇといよいよ手が付けられない事態になっちまう」



 シャウト先輩が、脇腹を摩りながら立ち上がる。

 正直今のでもう帰りたいのだが……。

 しかしまぁ……ここまで来たら放って帰れねぇよなぁ……。

 俺の足に縋りつき、ガクガクと震えるサステナの頭を撫でながら、俺は腹をくくった。


 とりあえず、サステナの抜けた腰が治るまで待ち、俺達はそのまま地下ダンジョンの隠れ入口へと向かう。

 はぁ……せめて死ぬ前に釣りしてぇ……。


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