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第15話:クエスト 神木都市の謎を解け B




「もー! やっと見つけたよお兄ちゃん! 直ぐ迷っちゃうんだから! ティナから離れちゃ駄目だって言ってるじゃない!」



 ものの数秒前まで俺の下半身にしがみ付いていた少女がスクっと起き上がり、俺を見下ろしながら言う。

 さも高慢な妹キャラを演じているようだが、その目にはものすごい必死感が漂い、泣きそうな雰囲気すら伝わってくる。

 ただ、関われば確実に面倒ごとに巻き込まれるぞコレ……。



「いやぁスマンスマン! 景色があまりに良かったんで、ついつい先行っちまった」



 彼女の顔がパァッと明るくなったのが見て取れた。

 この子演技下手くそだな……。

 「コレちょっと持っててくれ」と言いながら、腰の双剣を渡し、大げさにズボンを直して見せる。

 彼女の目線をチラリと見ると、うん、俺の意図は伝わっている。



「雄一さん大丈夫っスか! 君もよそ見は危ないっスよ!」



 ミコトが慌てて駆けてくる。

 目をサッと合わせると、彼女も何となく只ならない状況を察知しているようで、コクリと頷いて見せてくれた。



「全く! ユウチお兄ちゃんってば! ミコトお姉ちゃんもちゃんと見ててよね!」


「いやぁ……申し訳ないっス……」


「あ、ティナ。それもう大丈夫だから、ちょい返してプリーズ」



 そう言って双剣を彼女から受け取る。



「こんな重いの持って観光とかバッカじゃないの!? お上りさんなんだから! 一回宿屋戻りましょ!」


「「たはははは……」」




 初めは何事かと思ってざわついていた周囲も、何だ兄妹喧嘩かと散っていく。

 ふう……とりあえずは目論見通り。

 剣の底に二人の名前ハート付きで彫っておいてよかった……。


 とりあえずエレベーターに飛び乗り、宿屋の階層まで下ろしてもらう。

 途中、何やら役所区画で人だかりができていたが、今はそれどころではあるまい。

 彼女がえらく周囲をキョロキョロと見回して不安そうにしているので、フード付きの薄いフィッシングウェアと偏光グラスを召喚して着せてやった。


 これなら誰も彼女に気付くまい。

 彼女も少し安心したのか、おどおどとした動きを止め、雑談を交えつつ楽しそうに歩き出した。

 しかしこの子……何をやってこんなことになってるんだ……?




////////////////////




 部屋に戻ると、なぜかシャウト先輩は居なかった。

 困ったな。

 こんな時頼りになる人が居ないのは心細い。



「はぁ……はぁ……ありがとう……ございます……」



 部屋に入るや否や、ティナと名乗った少女が膝をついた。

 よほど緊張していたようで、軽い眩暈に襲われたようだった。

 ミコトが水を差し出すと、それをちびりちびりと飲みほした。

 何か品があるなこの子。



「さて、ティナちゃんだっけ。何があったか教えてもらえないか?」



 とりあえず部屋の窓と扉を全て閉め、小声で話しかける。

 すると、彼女は膝をついた姿勢からペタリと頭を下げ、土下座を始めた。

 同時に、被っていた緑色の髪の毛がずるりと床に落ち、水色の地毛が姿を見せた。

 わお、カツラ被ってたんだ。



「匿っていただき……ありがとうございます……!」


「不安だったんスねぇ……。よしよしっス」



 涙を流しながら感謝の言葉を述べる彼女を優しく抱き寄せ、なだめるミコト。

 その姿、まさしく天使。

 ミコトの幸せボディーに包まれたおかげか、彼女は落ち着きを取り戻し、体の震えも収まったようだ。

 乱れた衣服を着直し、片膝をついて俺達を見据えた。

 それまでの様子とは随分異なる、キリっとした表情に、俺もなんか緊張する。



「わたくしは……」



 彼女がそこまで言いかけたところで、ドアが激しく蹴り開けられた。



「だ―――――――!! もうやってられっかクソが! アタシらだけで強行突入してやるわ!!」



 大声と共に現れたのはシャウト先輩であった。

 ティナは突然の出来事にビクッ!っと跳ね、そのままの姿勢でパタリと倒れてしまった。

 あ、失神してる……。



「んあ? 誰だそいつ……ってオイ! なんでお前こんなとこいるんだ!?」



 何やら大声で一人問答を始める先輩。



「先輩? この子ご存知なんスか?」


「いや、知っちゃいねぇが、こいつこの街の長の娘だぜ」




////////////////////




「そうです……わたくしはサステナ。サステナ・ネレイド。この都市の代表を代々務めております、ネレイド家の一人娘です」



 時折心臓を気遣うような動きを見せつつ、彼女は身の上を語りだした。

 ティナは偽名であり、カツラ共々追手を巻くための策だったそうだ。

 しかし……本来自分の庭であるこの街でなぜ追手に追われるようなことに?



「お父様……つまり今の市長は、何者かに成り代わられたニセモノなのです……。その悪事を暴こうと動いていたのですが、感づかれ、このようなことに……」


「……ははーん、なるほどな」



 突然何かに納得し始めるシャウト先輩。



「市長の野郎……頑なに面会拒絶しやがると思えば、そういうことか。アタシに面会されたら正体暴かれちまうもんな。市長舎に押しかけても出てこねぇわけだぜ」



 ああ……。

 あの役場エリアの騒動先輩のせいだったんすね……。



「となると、明日の午後ってのが俄然怪しさを増してくるな……。怪しまれるようなものを隠してるか、それともアタシらに対する罠でも張ってやがるか……」


「ええ!? 後者だったら俺行きたくないっすよ! ギルドナイトさんらに任せましょうよ!」


「バカ野郎! 今まさに証拠隠滅なり悪事なりが行われてんだぞ! すぐにでも乗り込んで連中の悪だくみ暴くぞ」


「そんなぁ~」


「雄一さん! ここは覚悟を決めましょう! サステナちゃんも困ってるじゃないっスか!」



 ミコト……お前人が良すぎるよ……。

 天使だもんね……そうだよね。



「私、正規以外でダンジョンに下りるルート知ってますから、皆さんとご一緒します!」



 この子も引き受けてもらえると思ったとたん、何かグイグイ押してくる……。

 この世界の女の子は皆強かだ……。


 「ダンジョンで人為的に怪しげな動き、及び都市代表関与の疑い有り。緊急調査。増援求む」という手紙をギルドバードで飛ばした後、先輩を先頭に、こっそりと宿屋の裏口を抜ける。

 そしてサステナの案内に従い、旧居住区画の岩盤階段を目指す。

 途中、宿屋の区画で大きな音とともに騒動が起きたような声が聞こえてきたので、俺達は怪しまれない程度に早足で階段を目指した。

 ゴミ捨て場の裏にあった蓋を開けると、見るからに古い岩盤の階段が姿を現した。


 度を越えて暗いその階段は、至る所が崩れ、苔まみれになっている。

 今は殆ど使われていない様子だ。

 先輩の「エレキライト」無しでは一寸先も見えない。



「しかしお前、何でこんなとこ知ってんだ? 街の偉いさんはこんな底辺階層来ねぇだろ?」



 ようやく話せる状態になったので、先輩がサステナに事態について尋ねた。



「私の父は、本来そういった階層による差別を嫌う人だったので、よく下層へ視察に行っていたんです。私もよく同行させてもらったので」



 岩盤側と樹木側の都市の連絡を容易にする通路の開発や、豊富な湧き水と神木の光管を用いた洞窟内の農地化、都市直下の森に街道を作り、デイスとカトラスを繋ぐ輸送路の中継点を目指すなど、先進的な都市創生を目指していたそうだ。



「良いお父さんだったんスね!」


「ええ……しかし、半年ほど前からちょっと様子がおかしくなって……。それこそまるで別人のように」



 彼女が言うには、突然、上記の計画を独断で全て白紙に戻し、樹木側の観光地開発を進め、外部からの人の立ち入り基準を緩める一方で、岩盤側の街への立ち入りを制限し、一部区画を「この都市の恥部」等と言って封鎖。

 さらにダンジョンを神聖な禁足地とし、立ち入りを禁止。


 その影響で樹木側は外部から流入した人間増加の影響で治安と公共サービスが悪化、岩盤側の街は人目に触れなくなったせいで、経済が大幅に衰退し、スラムのような状態になってしまった。

 ギルド支部がある区画はまだ加工産業の拠点があるためマシな方で、今から行く旧居住区画の荒廃ぶりは洒落になっていないらしい。


 確かにそれを聞くと、別人に成り代わったように感じるな……。

 都市に対してメリットが少なすぎるし。



「ええ、どうも半年前、私が一時街を離れていた頃に、怪しげな宗教団体が父と面会していたらしく、それが関係していると私は踏んでいるんです」



 怪しげな宗教……。

 それって俗に言う邪神教とかいう……。



「恐らくは……。私もようやくその尻尾を掴みかけたのですが、ご覧の通り、バレて追われる身です」


「尚更放っておけねぇな……。急ぐぞおめぇら!」


「「へい、親分」」


「その返事はやめろ」



 やがて俺達の眼下に、ユラユラと揺れるオレンジ色の光が見えてきた。

 インフィート最古の居住区画、旧居住区の入口である。


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