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第14話:クエスト 神木都市の謎を解け A




 神木都市「インフィート」

 コンガーイール大山脈に沿って立つ巨木に作られた都市である。

 大陸の中央に君臨する世界樹にして大神木「エメラルダス」の種が遥か古代に飛来し、山脈の岩盤を削り取りながら成長した姿とされている。

 木のうろを利用した街の入口をくぐれば、オシャレログハウスのような受付がある。

 そしてその奥の空間には、幾重もの階層になった街が広がっていた。

 樹木の部分だけでなく、削られた岩盤側の内部にも都市が広がっており、外観以上に大きな都市を形成しているらしい。


 木の内部なので薄暗いのかと思っていたが、これが想像以上に明るい。

 デイスのギルド本部と何ら遜色ない明るさだ。

 それはこの木の特性のためである。

 広げられた幹に生える葉が光を吸収し、導管や維管束に沿って走る「光管」を使って循環させているのだ。

 その一部に傷を入れれば、光が漏れ出し、洞内を照らす照明の出来上がりである。

 大神木エメラルダスはこの原理で夜も眩く発光するというが、この巨木はまだ幼いためか、表面を発光させる機能は備え持っていないらしい。


 木の中はどの季節も温度が一定で、一日を通して明るく、さらに清潔な水も手に入る。

 人が住むにはお誂え向きというわけだ。

 まあ、自給自足が困難極まりないという点に目を瞑ればだが。



「この街は税金がクソ高ぇぞ。その代わり最低限の食糧は配給してくれるがな」


「うわぁ……。物価も結構高いっスねぇ……」



 市場を歩き、この街のギルド支部に顔を出しに行く。

 オシャレな木造の屋台街に並ぶアクセサリーを見るとついつい買ってしまいそうになるが、これがまた高いこと高いこと……。

 同じものならデイス比で3倍くらいするし、ここでしか買えないアイテムだと1万G越えが当たり前になってくる。

 大体商品そのもののと同じ額の税金がかかっているのだから、仕入れ値や利益を考えたら妥当か……。

 ところで、先ほどから食品の屋台が見当たらない。

 俺ちょっとお腹減ってきた……。

 先輩に「なんか食いませんか」と言ってみると。



「ああ、この区画は食い物の販売禁止なんだ。ギルド支部に飯屋が入ってるから、そこまで我慢しな」



 そう言いながら、先輩は木のうろを抜け、暗い階段を下っていく。

 ほう……ここが木と岩盤の境目か。



「なんか冷えるっスねこっちは……」



 ミコトが二の腕を擦りながら呟く。

 実際、体感気温が5度は違う。

 外気はもう初夏の汗ばむ気温、木の区画は春の心地よい気温。対してこの岩盤階段は初春かと思う程冷たい。

 岩肌を所々伝っている水は、凍えるような冷たさだ。



「そりゃ夏も雪と氷蓄えてる山だからな、ここは。その溶けた水が気温を低く保ってんだ」



 ランタンの微かな明かりが照らす階段を下りきると、これまた大きな空間が広がっている。

 先ほどの区画では、アクセサリーや果物などが中心に売られていたが、こちらではその雰囲気が一変。

 至る所で火が燃え、金属を加工する鍛冶場や、荒々しく鍋を振るう飯の屋台が並んでいた。

 オシャレな街の入口とはえらい違いだ。

 その街の一角に、ギルドの支部がひっそりと佇んでいる。



「なんか寂しげですね。冒険者もあんまりいないし」


「この都市は結構排他的でな……。あと、ちょっと差別的なとこもある。外様で底辺のウチらはそういう階層に押し込まれてんのさ」



 先輩が自嘲気味に笑った。

 そうだよなぁ……今でこそ街の花形扱いしてくれるとこも多いけど、元々はゴロツキの集まる日雇い労働階級だもんな……。

 しかしまあ……。

 汚れ仕事を下の薄暗い階層に押し込むとは確かに何とも差別的な部分を感じる。

 転生前の世界でも無いわけではなかったが、時代と共にかなり薄まってきた部分だろう。

 デイスでも武器職人やアクセサリー職人、調理師なんかはむしろチヤホヤされてたし。


 その立地から交易がさほど盛んでなく、閉鎖的な配給経済を持つ都市独特の、古い風習が未だ残っているようである。

 割と嫌な街だな……。



「おーい。来たぜ」



 先輩がギルド支部のボロボロの扉を開けると、かび臭い匂いが鼻を突いた。

 ああ……洞窟の中にある社とかこんな匂いだよね。

 中もガラガラで、受付のお姉さんもダルそうに本を読んでいた。

 三白眼に眼鏡の、顔色の悪いお姉さんだ。

 交代要員だろうか、奥の二段ベッドで誰かが寝ている。



「あ……はい……」



 モタモタと本をしまい、山積みになっている資料の山を漁りだすお姉さん。

 その中から染みのついた紙を取り出した。

 あれコーヒー零したな……。



「え、えーっと……。ああ、こ、これですね。ど、洞窟への立ち入りは……あ、明日の午後から許可だそうです。です……」



 どもりながら、その文章を読み上げる受付のお姉さん。

 「あ? 貸しな」と、それを分捕り、目を通すシャウト先輩。

 慣れていないのか、受付のお姉さんは「ひ、ひいぃ!」と縮こまっている。



「何だこりゃ!? 国からの依頼だぜ!? 早急に見に行かなきゃ駄目だろうがよ!」


「ちょっと先輩! 受付の人怖がってますって! どうしたんですか?」



 机をバンバン叩きながら抗議するシャウト先輩と、いよいよ泣きそうになっている受付のお姉さん。

 見るに見かねて助け舟を出すと、そのコーヒー痕付きの紙を俺に突き出してきた。

 何やらけったいなハンコがつかれているが……。



「市長の野郎……。洞窟にまだ入んなっつって言ってやがる……。明日の午後まで待てって……」


「それってどういう意図があるんスかね? これ国が依頼出すレベルの大事じゃないっスか?」


「そうだ。だが、ここのアホ市長は事の重大さを全く分かっちゃいねぇらしい。神聖な洞窟に入るにはまず儀式が必要だっつって、今祈祷中だとよ」


「えぇ……」



 先輩は「これだからこの街はどーも好きになれねぇんだよなぁ!」と悪態をつきながら、支部の隅にある飲食用テーブルにドカッと座った。

 悪しき伝統は相当に根深いな……




////////////////////




 飯を食った後、俺達は一旦木側の階層に戻り、宿にチェックインした。

 シャウト先輩は「アタシは明日の午後まで動きたくねぇ」とふて寝に入ってしまった。

 まあ、その気持ちはよく分かります……。

 先輩ガラは悪いけど誠実で生真面目な人だもの……。



「雄一さん! 夜までちょっと観光しましょうよ!」



 とまあ、我々適度に不真面目コンビは、とりあえず面倒な話は置いといて、今を楽しむことにした。

 微妙に気が乗らないのは確かだが、とりあえず12時間ほどの暇ができたのは素直に嬉しい。

 宿場区画を抜け、観光区画へと向かう。

 宿で渡された地図によると、俺達が飛行クジラで着いた入口のすぐ傍がショッピング区画、その2回下が博物区画、2回上が役所区画らしい。

 そして、木側の最上階にあるのが、観光客向けのお土産や飲食店が並ぶ観光区画とのことだ。

 岩盤側は気持ちいいくらい何も描かれてねぇなこれ……。

 しかもよく見ると、存在するのにマップから省かれている階層も結構ある。

 観光客向けだからなのだろうが、この街、外部に見せたくないものが多いのだろうか。



「あちらが上流階級の方々がお住いの高級住宅階層でございまーす」



 動力不明のエレベーターで上へ登っていると、日本ではめっきり減ったエレベーターガールのお姉さんが、上層階を解説してくれる。

 やはり、上に行けば行くほど豪華絢爛で、外部にアピールしたいんだなぁというのが伝わってきた。

 特にこの街のトップ連中が住む区画はえらく広くて、建っている家もレンガ造りの高級建築だ。

 シャウト先輩の悪態を聞いたためか、「あそこにこの街の古い膿が……」等と、柄でもないことを考えてしまった。




////////////////////




「うわぁ~! 凄い景色っすよ!」



 最上階の観光区画は想像以上に凄い眺めだった。

 山脈の頂上を少し越えた辺りに作られているそこは、大陸西部を文字通り一望できる。

デイスやカトラス、バーナクルの街が遥か彼方に見える。

 夏を迎えたへリング平原は美しい緑に輝き、そこをボニート川や名もなき河川が血管のように走っている。

 カトラス山は今日も煙を吹き、へリング高地は白い霞みに覆われている。

 お! エドワーズ達が精を出して働いてるランプレイ山脈も見えるぞ。


 遠方に見える紫色の煙に覆われた湖は……あれがクラム湖か……。

 瘴気に汚染され、今尚浄化作業が進まない魔の湖と化してしまったと聞くが、あんな視覚的に分かりやすく汚染されてたんだな……。


 後ろを見れば、つい先日までキャンプしていたコンガーイール南端岬が見えた。

 この街の地下にある魔王の痕跡から漏れ出た瘴気が、何らかの原因であの海域を汚染している。

 それが原因となり、お化けアンコウが出るので、多くの船が避けて通っているが、不便極まりない。

 早く解決してやらねば、バーナクルが物資不足で大変なことになるし、あの海域の魚たちも死滅してしまう。

 釣り人として、豊かな漁場が失われるのは見過ごせない。

 俺は不真面目ながらに、この依頼を頑張ろうと改めて自分に言い聞かせた。



「雄一さーん! このアイスめっちゃ美味しいっすよー!」



 と、いつの間にかアイス屋の屋台へ移動したミコトが俺を呼ぶので、そちらへ向かおうとした時……。

 ドス! という衝撃が俺の腰を襲った。

 


「ぼぉお!?」



 その衝撃の為すがままに、俺は盛大にすっ転ぶ。

 腰に重量感を覚えて上体を起こすと、鮮やかな緑髪の人が腰にしがみ付いている。



「ちょ……! 何ですか! 放してください! むぐぅ!?」



 振りほどこうと体を揺すっていると、手で口を勢いよく塞がれた。

 顔を上げた緑髪の人は、18歳くらいの少女だった。

 少女は俺の顔に自分の顔を近づけると



「騒がないでください。私とこの街を助けて」



 と、耳打ちしてきた。


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