第13話:ジョブスキルって何ですか
「オウ、おめーらちゃんと来るとはいい心がけだ」
「来なかったらどんな目に合うか分かったもんじゃないですもん……」
「んだと!? アタシが乱暴者とでも言いてぇのか!」
「ひい! 痛い! 痛い! そのビリビリチョップやめてください!」
デイスギルド本部の受付は朝から騒がしい。
主に俺たちのせいで。
一般の依頼が貼り出されるのにはまだ時間があるので、多くの冒険者が食堂で朝食をとっている。
そんな依頼待ち勢の目線多数を感じる……。
それはそうだろう。
大戦果を挙げてもギルドの平冒険者に甘んじている釣りバカ夫婦と、ギルド屈指の実力ながら、一人の舎弟も取らなかったヤンキー女冒険者が一党を組み、朝っぱらから文字通り火花稲妻を散らしているのだから。
流石にシャウト先輩が怖いのか、野次を投げてくる者はない。
「しかしまあ、ユウイチもミコトもなかなかいい装備買い揃えたな。特にその武器に関してはお前らのジョブスキルとステータスにぴったりだ」
「これホッツ先輩が買ってくれたんす」と言いかけたが、やめた。
恐らく先輩もそれは望むまい。
しかし、ジョブスキルだのステータスだの意識したこともなかったが……。
どうやって知るんだろ。
「いや……おめーらはさぁ……」
その二つに関してシャウト先輩に尋ねると、かつてないほど深いため息をつかれた。
本当にすいません……。
早く釣りしたくて受付の人のチュートリアル的な説明全部聞き流しちゃったんす……。
「おら! ここに手ぇ置け!」
先輩は俺の手首を握り、受付に設置された謎の器械に突っ込んだ。
なんか真実の口みたいで怖いんだけどこれ!
ガチ!ガチガチ!
駆動音がし、何か銀色の板が排出された。
「ほれ、これ見ろ」と、俺の眼前にそれが差し出される。
えーと……。
ジョブスキルが……トリックスター……何これ?
基本ステータス、それすなわち攻撃、防御、魔法、魔防は平均的だが、スピードに若干の強化が付いている。
あと特徴的なのは、補助ステータスのラックと知能にかなりの強補正が入っている点だ。
ラックくらいしか釣りに役立ちそうなの無ぇな……。
「何ガッカリしてんのか知らねぇが、お前それすげえレアジョブスキルだからな」
いや、レアジョブスキルと言われても……。
しっくりこない。
「私も見たいっス!」
そう言って手を突っ込んだミコトのジョブスキルはこれまた激レアと言われる「エンジェルナイト」
なんでも天使の末裔か天使そのものしかなれないとか……。
まあ天使そのものだもんね。
ステータスは攻撃、防御、魔法、魔防にかなり強い補強がかかり、しかも攻撃に聖属性が付与されるらしい。
補助スキルで特徴的なのが、愛する者を守ろうとする時、全ステータスが大幅に増大する「愛情」が異様に高い点だろう。
「すごいっス! こんなの雄一さんにお仕えするためにあるようなものじゃないっスか! 愛情っすよ愛情!!」
ミコトのテンションが急激に上がっていくのが分かる。
「一生雄一さんをお守りしますからね!」と、両手を握ってきたので、俺もその手を握り返し、「じゃあ俺はミコトを一生養うよ」と返した。
そのまましばし見つめあう。
「いいか? ジョブスキルはお前らの魂に紐づけられてる。強い敵を倒したり、精神的に成長したりするとその力は……」
先輩が解説を入れてくれているが、俺はもうミコトの目から目を離せない。
お互いの顔がゆっくりと近づき……。
「おめーら朝から盛ってんじゃねぇ!」
先輩のビリビリチョップが再び稲妻を散らした。
俺の頭に。
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飛行クジラ便でインフィートに向かう。
俺は未だ視界がパチパチしている。
どうも気分が優れないので、荷台で横になっていると、ミコトと先輩の話し声が聞こえてきた。
美味しいスイーツの店とか、最近の服の流行とか、普通に女の子っぽい会話してる……。
よく考えたら先輩って普段から割とオシャレな格好してるよな。
「ところで先輩、私たちのスキルとか何で分かったんスか?」
「識別スキルをある程度以上に上げると、相手の強さとかまで分かるようになんだよ。便利だからスキル講習行って取得しときな。毒魚なんかも見分けられるようになるから、お前の旦那も喜ぶだろ」
「そうっスね! えへへ……一緒に釣りに行く機会増えるかもしれないっス」
「しかしお前アイツに甘すぎねぇか? ほっといたら働かず延々釣りしてんぞアイツ。何か目標持たせてクエストさせた方がいいんじゃねぇの?」
「雄一さんが幸せに暮らせることが私の幸せっスから。そこは大丈夫っス。先輩……ちょっとお願いなんスけど、雄一さんが釣り出来なくなるほどクエストさせるのはご勘弁っスよ」
「まあ、アタシもそこまでさせるつもりはねぇよ。でもアタシ一人で対応できねえようなのはお前ら呼ぶからな」
「はいっス! 精一杯サポートさせていただくっス!」
うう……。
ヤバい。
泣きそう。
大丈夫だぞミコト。
俺、君がちょっといい暮らしできる程度には働くから……!
起き上がるタイミングを掴めずにいると、飛行クジラはインフィートの飛行甲板に接岸した。
ミコトが起こしに来てくれたので、それまで寝ていた風を装い、俺は神木都市へ足を踏み入れたのだった。