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第12話:インフィートに向かう前に




 さて、何やら多大な苦労を伴いそうなクエストに強制参加させられることになってしまった俺達。

 飛行クジラからチラッと見てから、いつか行きたいと思っていた神木都市インフィートだが、こんなにすぐ行くことになるとは思わなかったな……。

 まあ、そういうわけで、俺たちは今デイスの交易街を練り歩きつつ、装備を買いそろえている。

 特にミコトの対瘴気装備は必携だ。



「雄一さんこれどうっスか!? 可愛くないっスか!?」



 そう言って試着室の中から現れたミコトは、白いフリル付きのワンピースに身を包んでいた。

 うむ……。

 色白で少し丸っこい彼女の胸や腰の凹凸が強調され、それでいて可愛らしいフリフリがシルエットをより可憐にしていて……。

 いや! 違う!



「洋服じゃなくて防具選べよ! 明日出発だから全然時間無いんだぞ!」


「ち……違うっス! これ聖属性の繊維で作られてて、瘴気を弾いてくれるんス!」


「瘴気弾いても他の攻撃防げねえじゃん! ていうか高!! これ一着9万Gもするの!?」



 「ちぇーっス……」と言いながら、試着室のカーテンを閉めるミコト。

 気の毒だが、今は時間がないのだ。

 なにせ、昨晩丸々激闘を繰り広げてしまったため、二人とも昼過ぎまで寝てしまったのだ。

 食事を済ませ、デイスに到着したのはもう日が傾き始めた頃。

 翌日から長期滞在クエストをしようというには、絶望的に時間が足りない。

 至って自業自得だが……。



「これとかどうっスか? 聖属性付与のインナーに、魔封石付きのジャケットっス」



 再びカーテンが開き、ミコトが姿を現す。

 ほほう……。

 白と金の装飾が施された薄手の鎧に、青い魔封石が3つ嵌められている。

 下半身はショートスカート型のレギンスに、黒いスパッツ。

 今の装備に比べて頑丈かつ身軽そうで、しかも瘴気耐性もそこそこ高い。

 あと……すごく似合ってる。



「えへへ……。照れるっス。コレにするっスよ」



 4万Gで上から下まで揃うとは、なかなかのコスパである。

 俺も同じくらいの金額で軽量鎧を買おうと思い、適当に性能がいいものをピックアップしていると、ミコトが割って入ってきた。



「ちょっと雄一さん! この組み合わせはちょっとオシャレじゃないっスよ!」


「い……いや……。俺は別に見栄えとか気にしないんだけど……」


「ダメっス! もうそこそこ有名人なんスから、ちゃんとコーディネートするっスよ!」



 そう言って、店主と何やら話し込み始めた。

 ああ……これ長くなるやつだ……。

 日本にいた頃、姉さんの買い物に付き合わされたのを思い出した。


 結局、ミコトに言われるがままに装備を試着し、脱ぎ、また試着し……で、俺の新装備が整ったのはすっかり日が落ちた後だった。

 ミコトは「すみませんっス……熱くなりすぎたっス……」と反省していたが、確かに色の組み合わせ、動きやすさ、性能、それら全てが今買える範囲で最良と言えるものが揃っている。

 「ありがとう、すごく良い買い物ができたよ」と褒めると、ミコトはとても幸せそうな顔で喜んでくれた。

 新装備に身を包んだ彼女は、いつにも増して天使感が増している。

 思わず抱きしめると、お互いの鎧がガチャガチャと音を鳴らし、周囲の視線を集めてしまった。

 は……恥ずかしい……。


 次は武器の更新をしようと、武器屋に寄ると、ホッツ先輩が大ぶりの両手剣2本を振りかざしていた。

 す……すげぇ……。

 彼の巨体と剛腕にかかれば、あの重厚な剣が双剣扱いである。

 その雄姿に見とれていると、「おお! 久しぶりじゃねぇか!」と声をかけられた。

 確かにここのところご無沙汰である。



「お前らシャウトのパーティーメンバーになったんだって? 珍しいこともあるもんだな!」


「まあ、なったというか、無理やりさせられたというか……」


「はっはっは! あいつらしいな!」



 構えていた剣を下ろし、豪快に笑うホッツ先輩。

 話によると、シャウト先輩が一党を構えるのは初めてらしい。



「もうお前らはあいつの舎弟だから、俺がとやかく言うことは控えるけどよ。あいつのことよろしく頼んだぜ?」


「え? 俺たちがですか? むしろよろしくされっぱなしなんですけど」


「いつかお前らがシャウトを支えなきゃいけない日が必ず来る。ま、その日までに強くなるこったな! ガハハ!」


 そう言うとホッツ先輩は店に並んでいた武器を一瞥し、一対の双剣とステッキソードを手に取り、俺たちに手渡してきた。



「これは俺からのエールだ。シャウトの舎弟になった以上、今までみたいにアレコレ口出しは出来ねぇからな。まあ、ほどほどに頑張って、しっかり生き残るんだぞ!」



 店の親父さんに金貨の束を渡し、先輩は立ち去って行った。

 「ありがとうございます!」とその背中に叫ぶと、先輩は拳を振り上げ、サムズアップして見せた。

 か……かっこいい……!

 「私たちもいつかあんな先輩分になりたいっスねぇ!」と、ミコトも目を輝かせている。


 気が進まなかった今回のクエスト。

 ちょっと頑張ってみようかな。




////////////////////////




 まあそれはそれとして……。

 新たな街に行くとなると、そこの釣り情報も仕入れておかなければ……。

 ということで、俺は行きつけの釣具屋に立ち寄る。

 閉店間際だったが、顔なじみということで、店長は快く迎え入れてくれた。



「いやぁ~。随分立派な装備になったじゃないか! もう冒険者一筋に転向かい?」


「何言ってるんスか! 冒険者はサブ職っすよ! 明日からインフィートに長期滞在で行くんすけど、何か情報とかあります?」


「インフィート!? あそこは神木に作られた街だろう? 魚なんかいないんじゃないのか?」


「あ、やっぱりっすか?」



 やはり、木の上には魚はいないか……。

 周辺の泉も釣りの情報は無く、現地で聞くか、自分で開拓するしかないようだ。

 と、思っていると、思い出したように店長が分厚い本を持ち出してきた。



「いや、インフィートそのものには魚の情報はないが、その地下に広がるダンジョンの地底湖に潜む怪魚の伝説は聞いたことがあるぞ!」



 本をバラバラとめくる店長。

 「これだ!」と叫んで指を止めたページには、何と日本語が書かれていた。



「随分昔……それこそ先の魔王による災厄の時代に書かれたものなんだが、君と同じ東の暗黒大陸出身の勇者が書き残したものの写しだ」


「えーっと……その体11尺にして、青き目をもち鱸に似たる……?」


「おお! 君これ読めるのかい?」


「はい。3メートルを超える巨体に、青い目を持っていて、キバスズキに似ているって書かれてますね」



 店長は保管していて良かったと随分感動している様子だ。

 しかしまあ……。

 この勇者、絵へったくそだな!!

 釣り方や、ファイトスタイルに関してもいろいろ書かれていたが、そこに描かれた下手すぎる挿絵に気をとられ、内容が全く頭に入ってこなかった。


 まあとりあえず、このクエストに対するモチベーションは大幅に高まったので良しとしよう。

 明日が本当に楽しみだ。


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