第48話:愛の一閃!
「マナ・フラッシュ!!」
レアリスの杖が操る風、炎、水、大地のマナが逆巻くエネルギーの閃光となって駆け、迫るエレファントノーズザメ魔獣の群れを吹き飛ばす。
「ダイナ・インパクトォォォォ!!」
ターレルが巨大な戦斧を短剣のような軽やかさで振り下ろし、彼より二回りは大きいハリセンボンザメ魔獣を両断、その衝撃波で周囲にいたフグザメ、マンボウザメ、ヤリマンボウザメ魔獣を粉砕する。
「殺戮鋲・針樹海!!」
マーゲイが放った無数の魔力針がタコザメ、ナマコザメ、クラゲザメ魔獣に次々と突き刺さり、大神樹の力に呼応して美しくもおぞましい神樹の森を形成。
苗床にされた魔獣たちは瞬く間に浄化され、養分を吸われ、干物となって風化していく。
そうやって特務戦力の3人は、俺達の先陣を切り、襲い来る魔獣軍団を次々に蹴散らしていく。
全ては俺とミコト、シャウト先輩、そしてコモモとサラナを無傷でレッサーダゴンの、そして愛ちゃんとコトワリさんの待つ頂上へ送り届けるためだ。
エドワーズも先陣を買って出たが、マーゲイによって「お前はメンバー二人の作戦を守り通す義務があるにゃ 黙って守られてるにゃ」と一蹴されてしまった。
エドワーズは目に見えてキュンとしていた。
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しかし、大神樹というだけあって、道のりは長かった。
そして、魔獣は数を頼みに次々と湧いてきた。
「ユウイチ~! みんな~! ここは任せて先にいくんだ~!」
そう言って、ターレルが吊り橋を落として殿を務め、パーティから離脱した。
「ミコトちゃん! ユウイチくん! 後から追いつくわ! ここは私に任せて!」
レアリスはそう言って、湖を跳梁する魔獣達を一人ひきつけ、滝の下へ飛び降りていった。
「ちょっと急用を思い出したにゃ! 先に行って待ってるにゃ! ボクの獲物は残しておかなくていいにゃ!」
そして、マーゲイは最上層に続く樹脈の大リフトに俺達を押し込み、1人殺到する魔獣の群れに挑んでいった。
「おいユウイチ! オメーら!! メソメソしてんじゃねぇ! 一刻も早くあの魚野郎をぶち殺して、アイツらを助けんぞ!」
リフトの床に突っ伏して慟哭する皆に、シャウト先輩が檄を飛ばす。
……。
そうだ、彼らを助ける術はもうそれしかない。
「みんな! 大丈夫だ……! あいつらはちょっとやそっとで死ぬ器じゃない! ここで俺達が戦意喪失したら敵の思うつぼだ! 俺たちは絶対に勝つ! そうだろ!?」
涙をぬぐい、立ち上がった俺の手に、一人、また一人と熱い掌が迎合する。
「そうだ……! これで負けたらあいつらに顔向けできねぇぜ……!」
「私達のために頑張ってくれたんだもんね……! 絶対成功させよう……!」
「どんなに絶望的な状況でも、諦めない限り希望はあるって、知ってますから……!」
「雄一さん! あのサメ野郎を倒して、愛ちゃんとコトワリさん助け出して、みんなで笑って帰るっス!!」
皆の思いが一つになった時、「ゴン!」という音と共に、リフトが停止した。
到着したのだ。
最上層に。
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「ギシャーッシャッシャッシャ!! 待ってたぜぇ! 思ったより生き残らせちまったのは計算外だがなぁ!!」
バカでかい声が俺達へ降ってくる。
リフトの扉を開き、長い階段を上った先には、巨大な祭壇があり、あの転生者連中の生き残り4人が雁首を揃えて並んでいた。
なにやら頭や額から角だの羽だのを生やして、幾分血色と人相が悪くなっている。
「愛ちゃん!!!」
無論、愛ちゃんも同じように翼と角を生やし、赤い瞳でこちらをぼうっと見つめていた。
「愛ちゃん! 助けに来たっス!! 私たちの家に帰るっス!!」
「アイ! 心配かけてすまなかった!! アタシらの元に戻ってこい!」
ミコトと先輩が両手を広げて叫ぶが、愛ちゃんに反応はない。
「ギシャーッシャッシャッシャ!! 俺様を無視して家族ごっこたぁ随分腹立たしいことしてくれんじゃねぇか……よっ!!!」
かつてないほどマッシブで巨大な肉体を得、その胸からコトワリさんを封じる大貝を生やしたレッサーダゴンが、その剛腕を振り下ろしてくる。
ミコトがそれを拳で受け止め、殴り返した。
レッサーダゴンの巨体が揺れ、ズシンズシンと後退する。
「何を……愛ちゃんに何をしたんスか――――!!!」
叫びながら毒斬撃を飛ばすミコト、俺はそれ目掛け、冷凍ビームを速射して撃ち落とした。
「チィ! おもしれーもん見れると思ったのによぉ! ギシャシャシャシャ!」
愛ちゃんが虚ろな表情のままレッサーダゴンの前に飛び出し、ミコトの斬撃を受け止めようとしたのだ。
愛ちゃん……!
「ギシャーッシャッシャッシャ!! オメーらはこれで手出し出来なくなるんだから面白れぇよなぁ!! オイ、テメェ、俺様と取引しろ」
レッサーダゴンが俺を指さして言った。
取引だぁ……?
「お前が俺様と契約し、眷属となるなら、この樹の魔獣は全部消してやらぁ、ついでにこの世界に俺が手出しするのもやめてやる。ついでに元の世界に返してやれるかもしれねぇぜ? どうだ? お?」
「断る」
「ギシャーッシャッシャッシャ!! いいのかテメェ? 置いてきた連中は今頃テメェについてきたことを大層恨んでるだろうぜ? なぁ?」
レッサーダゴンはそう言って、転生者連中に目をやった。
連中は無気力な表情で「お前が……お前のせいで……」だの「どうして何度も私たちの邪魔をするの……?」だの「私の……私の……」だの「お前がさっさと俺達のもとに来なかったせいで……!」だのと抜かしている。
「断る。お前みたいな契約も満足に守れない劣等悪魔の相手してられるほど俺は愚かじゃないんでな」
「あぁ!? んだてめぇ?」
「惨めな奴だ。その様子では冥海神ハデスに軽んじられるのも道理。冥府において一流の悪魔は緻密かつ明瞭な美しき契約で心の光と闇を暴き出すもの。お前は自身の野望にかまけ、微塵の緻密さもなく、後出しでいくらでも継ぎ足せる不細工な契約で無垢な魂を惑わせ、闇へ引きずり込んだ。ハデスが聞けば鼻で笑うだろうよ」
俺のトリックスター舌が、ミコトから聞いた冥界あるあるを悪魔の神経逆撫でトークに変換して撃ち出す。
こんな安っぽい煽りだが、レッサーダゴンの顔が怒りの形相に変わっていく。
俺達人類の体は7割が水で出来ているが、悪魔の体は7割が契約で出来ているのだ。
「クソがぁああああああ!! これならどうだあああああ!!」
レッサーダゴンの口から、禍々しい魔法陣を纏った火炎弾が放たれる。
愛ちゃんが赤く染まった瞳から一筋の血涙を流しながら「あ……」と手を伸ばすのが見えた。
俺は彼女にそっと笑いかけながら、その魔光球に身を躍らせた。
「がああああああ!!」
熱い!!
マジで熱い!!
死ぬ!!
確実に死ぬうううう!!
「ユウイチ君!!」
コモモとサラナが俺に魔法をかけ、「だめ! ぜんぜんこうかがない!」「まるでかいふくまほうがききません!」と叫ぶ。
やばいやばいやばい!!
ちょっと苦痛が度を越えてる!!!
「ギシャーッシャッシャッシャ!! どうだあああ!! その呪いは俺様にしか解けねぇぜえええ!! 契約しねぇと永遠に苦しみ続けるしかねぇぜぇぇぇ!! さあ! 言え! 契約すると! 眷属になりますと!!」
「そんなことはねぇ!! 俺達だって、研究すればあくまの呪いはとける!!」
エドワーズが叫んだ。
レッサーダゴンはニイ……と笑うと、「貴様ら猿どもが何をしても無駄だああああ!! 俺様の、悪魔の呪いを解くことなんざ、出来るわけがねぇだろうがあああああ!!」
と、高らかに吠えた。
……。
…。
言ったな?
「サラナ……! コモモ……!! 早く……早く助けてくれぇぇぇ……!」
俺の情けない叫び声に、サラナとコモモが清く光る薬物瓶と呪文詠唱をもって応えた。
「「アルティメイト・カースディゾルブ!!!」」
二人の放った泡と魔法が俺の体を包み込み、全身で蠢いていた赤黒い呪いの楔を浄化し、見事に消し去った。
「ギシャァ!?」
レッサーダゴンの表情が驚愕に歪む。
「レッサーダゴン……いえ、冥界の魚悪魔ダゴン!! お前は邪な思想の元、人類でも解除可能な呪いを自身にしか解けないと偽り、虚偽の事実に基づいた契約行為を行い、あまつさえ一人の人間を不法に眷属化したっス! 天冥条約に則り、天使ミコトが天の捌きを代行するっス!!」
ミコトが叫ぶと同時に、レッサーダゴンめがけて天使の輪型のエネルギーリングを投げつけ、拘束した。
すると、レッサーダゴンと愛ちゃんの間に赤黒い光の帯が生じる。
「この契約! 無効っス――――――!!!」
ミコトが叫びながら、その帯に手刀を振り下ろす。
が、バチィ! という音と共に弾かれてしまう。
「ハァ……ハァ……焦ったがテメェみてぇな三下天使に契約を絶たれるほど俺様はヤワじゃねぇんだ!! ギシャーッシャッシャッシャ!!」
ミコトの表情が悔しさと絶望に染まる。
だが、次の瞬間、レッサーダゴンの胸の貝から激しい光が漏れ出した。
「ミコト!!! 諦めるんじゃない!!! 愛の力でその悪しき契約を断ち切って見せろ!! ぐああああ!!」
愛の力……。
そうか!!
俺はミコトに駆け寄り、その手を握った。
「愛の力だ! ミコト!」
俺が短剣を差し出すと、ミコトの顔がぱぁっと明るくなった。
「愛の力っスね!!」
「そう! 愛の力だ!!」
俺とミコトは短剣を握りしめ、再びその帯に斬りかかった。
「行くぞミコト!! 俺はお前を永遠に愛してる!!」
「私も雄一さんを永遠に愛し続けるっス!!」
愛の言葉を叫びながら、俺たちは悪しき契約に短剣を叩きこんだ。
そう!
これこそが!
「「契規・入刀!!!」っス!!!」
俺との愛で著しくブーストされたミコトの天使の力が、愛ちゃんとレッサーダゴンを繋ぐ契約を、見事一閃の元に両断した。
レッサーダゴンは全身から火花を散らしながら倒れ伏せる。
やったか!?





