第47話:約束の夜明け
「雄一さん。いよいよっスね!」
「ああ。これでようやく俺のパーティが全員戻る……といいんだけどなぁ……」
夜更けの街道を走るヒポストリの車列。
俺たちは荷車パンパンに吊られたハンモックと、俺が召喚した寝袋に寝そべり、大神樹突入の時を待つ。
マーゲイが無理を言って、2両のヒポストリ馬車を手配してくれたのだ。
屋根の上ではマーゲイをアニキと慕う3人組が目を光らせ、防衛体制も万全である。
ターレルの時も思ったが、やっぱり特務戦力組って地元の求心力凄いんだな……。
「お前も大層なもんだろ。何インフィートの歌劇になってんだよ」
などと、隣に雑魚寝しているエドワーズが笑う。
するとレアリスが「へぇ~。ユウイチくん劇の主役なの!?」と言ってハンモックから顔を覗かせた。
そこへ俺に足を向けて寝ているマーゲイが「どーせ色好きの女たらし主人公が子神樹の女の子たち食い散らかすような内容にゃ」と茶々を入れてきたので、両足を掴んで電気あんまを食らわせてやる。
悶絶するマーゲイを尻目に、コモモとサラナが「ユウイチ君たち頑張ったんだよ~!」とか、「その劇が生まれたお祭りも楽しかったよねー!」と、劇の内容やインフィートでの出来事を嬉々としてレアリスに話す。
するとシャウト先輩が「実はあの祭りん時、アタシも劇の物語作り手伝わされてよぉ、もう笑いそうになって困ったぜ! あの町長ん中で、コイツ『姫……私がこの町に巣くう闇を祓って見せましょう』とか言う奴になってんだぜ!」と、ゲラゲラ笑いながらその誕生秘話を語る。
するとターレルが「それだけ頼もしかったってことだよ~」と、のほほんと笑う。
なんていうか……。
いいなぁ……。
「俺……。この世界に来られて……。みんなと出会えて……。本当に良かった」
賑やかだった荷車内が一瞬で静かになった。
皆が「お前何しんみりしてんの……?」といった表情だ。
まあ、しんみりもする。
俺は彼らと同じ時代に転移したが、もう彼らと同じ時を刻むことが叶わないのだから。
それを察したのか、俺の体質と寿命のことを知るエドワーズ達が神妙な顔になる。
特務戦力3人は何が何やらといった感じだ。
「全部言っといた方がいいぜ。これで何かがあったら禍根が残るってもんだ」
と、先輩が言った。
そうですよね。
これから戦う敵だって……。
そして、俺は話した。
全てを。
出自も、寿命も、そして、これから戦う敵の正体も、愛ちゃんのことも、コトワリさんのことも。
////////////////////
荷車の窓から微かに見える地平に、微かな光が灯り、それが空と地の境を照らし、やがて、空をようよう白く染めていく。
赤紫と蒼白の混ざった夜明けの空を、巨大な壁が二分し、壁の遥か上にかかる青々とした空には、今なおエメラルドのような星空が輝く。
大神樹エメラルダス。
俺とミコトが決着をつけるべき運命の待つ場所だ。
いや、だった。
彼らは冥界の悪魔ダゴンと、俺の同郷の者が起こした一連の事変、そして、魔王誕生に絡む彼らの暗躍を知り、怒った。
悪魔に、そして、自分たちに。
エドワーズは言った。
「お前と同郷の奴、そいつらを失望させちまったこの世界が、悪魔に付け入る隙を与えたんだ。お前らだけが背負う責じゃねぇ。俺達にもけじめを付けさせろ」
と。
サラナとコモモは言った。
「ユウイチ君。この世界に来てすぐあんなことがあったのに、この世界への希望を失わないでいてくれて、この世界に尽くしてくれてありがとう」
「私達でもっといい世界に変えていかなきゃいけませんね!」
と。
特務戦力の皆は言った。
「この世も綺麗ごとばっかりじゃないからにゃ~。ま、それでも何となくいい方向へ向かわなきゃって思うのが人ってもんにゃ」
「悪魔の魔の手がこの世界に伸びて、天使のミコトちゃんとユウイチくんがやって来た。きっと悪魔が笑うか、天使が微笑むかの分水嶺の時代なのね」
「ユウイチ~。この戦い絶対に勝とうね~。僕らが作る時代を見届けてほしいなぁ~」
と。
そんな言葉をかけてくれた皆が、今、俺の眼前で円陣を組み、手を差し出している。
俺はその上にそっと手を置いた。
「釣神・矢崎雄一パーティ、大神樹に巣くう悪魔を打ち滅ぼしてパーティメンバーを奪還し、輝ける明日を切り拓きに行くぞっ!」
「「「「「「「「お―――――!!」」」」」」」っス!」
叫び声と共に俺たちは駆け上り始めた。
どこまでも続くエメラルダス坂を!