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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
最終章:釣具召喚チートで異世界を救う
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第39話:囚われのシャウト姫




「ついに来たわね……」



 レフィーナが呟いた。

 俺達の眼前には、禍々しい気を放つダークエルフロードの城の城門が眼前に聳える。

 その古めかしい城扉は既に崩壊しており、堀を飛び越えれば簡単に侵入できる状況だ。


 念のため、俺は氷手裏剣を城内へ投げ込む。

 ……。

 …。

 うん。

 罠とか結界は無さそうだ。



「じゃあ……行くぞ……」



 俺が振り返って皆に言うと、全員が緊張した面持ちで頷いた。

 この先にいるダークエルフロード・ルキアスはこの超絶パワーアップ状態の俺でようやく食い下がれる戦闘能力を誇る。


 レフィーナ、エドワーズ達に加え、なんか「多分雄一さんをお守りする立場として、同じくらい強くなるようになってるみたいっス」とかいう真っ当なのか不可思議なのかよく分からない理屈で超絶パワーアップしているミコトがいるとはいえ、前回の戦闘が割とトラウマになっている俺は、若干の身震いを覚えた。



「おいおい、ビビってる暇はねぇぞ。もう日がだいぶ動いた。お前の残り時間は確実に短くなってるぜ」



 エドワーズが俺の肩に手を置く。

 ……そうだな。

 もうかれこれ2時間は経過している。

 残された時間はもう1時間もない。

 一刻も早くルキアスの元に辿り着かなくては……。



「よし!! 全員突入!!」



 俺の叫び声と共に、皆で堀を飛び越え、城内に飛び込んだ。

 廃城になっていたとはいえ、ルキアスの居城はかなりしっかりとした中世風の佇まいをしている。

 俺達は起伏のある城内を抜け、城を守る石魔物達を蹴散らしながら、見るからにルキアスが居るであろう、小山を利用して建造された所謂シェルキープへ続く坂道を駆けあがって行く。


 あっという間にシェルキープが近づき、さあ本丸突入だと身構えた瞬間、激しい感知ピークが立った。

 この反応の強さは……!?

 と驚く間も無く、シェルキープの後ろから長大な石像が姿を現す。

 いや……石像じゃない!



「みんな待って!! ヤバい!!!」



 サラナの叫び声が聞こえた。

 俺は咄嗟にその巨影目がけ、ロングレンジ冷凍ビームを放ったが、激しい閃光と共に放たれた禍々しい色のブレスと相殺されてしまう。



「それなら…! アルティメット……」


「雄一さん待つっス!! みんなが!!!」


「え……。はぁ!?」



 振り返った俺の目に飛び込んで来たのは、石像と化したミコト以外の全員と、背後から迫りくる長大な尾であった。



「させないっス!!」



 石と化した皆を粉砕せんと振るわれた尾を、ミコトの大剣が受け止め、そのまま先端を切断する。

 まさかの反撃に、巨影が目に見えて怯んだのが分かった。

 その僅かな間に、石像の一人が動き出す。



「ぷっはぁ!! 危なかった! みんな今助けるよ! セイクリッド・カースディゾルブ!!」



 叫ぶサラナの杖から発射された水流が、エドワーズやレフィーナ達の石化を解いていく。

 俺とミコトはとぐろを巻きながら威嚇する巨大な蛇龍に冷凍ビームを、毒斬撃を叩き込んで牽制をかけ、彼らが復活するまでの時間を稼いだ。



 岩塊蛇龍メディガンジュラ。

 岩石の如く硬質な肉体が数百メートルにも渡って連なったような外見をしたドラゴンである。

 その頭部には、髪の毛かと見まごうような形状の襟巻が無数に生えている。

 その先端についている宝玉から放たれる閃光には石化の呪いがかかっていて、浴びた者を問答無用で石像に変えてしまう。

 そんな石像を根城とする城に持ち帰り、何千、何万と飾ることを価値とする、極めて人類にとって有害なといえるドラゴンといえよう。

 戦闘力も凄まじく、成体の海龍や皇龍、黒龍に匹敵するとさえ言われている。

 人魔大戦においては呪い耐性のある種族を総動員し、徹底的な絶滅が行われた。



「らしいっス!」



 と、ミコトがいつにもまして早口で図鑑を読み上げてくれた。

 解説ありがとう。

 徹底的な絶滅出来てねぇじゃん!!



「多分、先の大戦からこの地でひっそりと眠りについてたんだろうね……。そして魔王の呼び声や、城の主の復活を察知して目覚めた……」



 サラナが忙しなく薬剤を調合しながら応える。

 クソッ……!

 時間のないときに限って……!!



「雄一さん! またあの光が来るっス!!」



 メディガンジュラの頭部に生える襟巻の筋がウニョウニョと動き、まるでメデューサの髪の毛の如く広がっていく。



「させるか! アルティメット……」


「待って!! 私達に任せて!!」



 俺の大技を遮り、サラナ、ビビ、コモモが前に出た。



「「「グラン・セイクリッド・カースプロテクション!!!」」」



 3人の杖が地面を突くと、サラナの杖から噴射した薬液と、コモモとビビの杖から展開された光の帯が連結し、俺達の足元に眩い結界を形成する。

 結界は瞬く間に広がり、城内全てが呪い避けの結界に覆われた。

メディガンジュラの放った石化閃光はその結界に阻まれ、消滅する。

 驚愕したのか、メディガンジュラは巻いていたとぐろを解き、大地に潜行する。

 そして今度は、多数のゴーレム、ガーゴイルと共に、俺達の背後の地中から出現した。



「ユウイチ! 今だ! お前はシェルキープに突っ込め!」



 エドワーズが叫ぶ。

 いや……だが……!



「時間が無いんでしょ! さっさと行きなさいよ!!」


「コイツは俺達が食い止め……いえ、倒します! 先輩は早くシャウト大先輩を!」



 そう叫んだタイド目がけ、メディガンジュラのドラゴンブレスが噴射された。

 ビビとコモモが防御魔法を貼り、それを防ぐが、余波で3人とも吹っ飛ばされてしまう。

 追い打ちをかけようと大口を開けた龍の喉元へ、エドワーズの突風魔法が突き刺さり、岩石の体の一部を粉砕し、大きく怯ませた。


 そこにすかさずレフィーナが駆け上がり、襟巻の一部の切断に成功する。

 だが、メディガンジュラは体当たりで城壁を破壊し、砕けた岩を身に纏ってすぐに元の姿に戻ってしまった。

 今度はサラナが特殊な薬学魔法を噴射し、龍の全身で激しい爆発を生じさせ、怯ませたところにラルスとタイドが突っ込み、再び襟巻や、頭部を切り、打ち砕く。



「ユウイチ!!! 早くしろ!! 俺達を見くびるな!」



 ………。

 ……。

 分かった……!



「ミコト! みんなと一緒にこの龍を倒してくれ! ドラゴンの力を使って有効打を与えられるのは今、お前しかいない!」



 俺が叫ぶと、ミコトは一瞬キョトンとした表情になったが、すぐに力強く頷いた。



「雄一さん! 先輩をお願いするっス!」



 ミコトはそう言うと、部位破壊と再生のループに苦戦し始めていた皆の元に走っていき、振り下ろされた龍の腕を剣で受け止め、そのまま根元から切り落として見せた。

 龍を確実に殺せるのは龍の力だけ。

 エラマンダリアスの龍毒と、ゾラダラーガの金盾を装備するミコトがいれば、強敵とはいえ、決して勝てない敵ではないはずだ。



「大地の魔女さん……! ちゃんと拮抗できるだけの力くれてるんですよね……! 信じますからね!」



 俺は激しい戦いの音に背を向け、不気味なほどに沈黙しているシェルキープの内部に飛び込んだ。




////////////////////




「シャウト先輩!!!」



 城の中は極めてシンプルだった。

 なにせ、入ってすぐ正面の扉を空ければ、ルキアスの鎮座する主の間だったのだから。


 ルキアスが腰かける風化した椅子の背後には、異様に巨大な木の根元が聳えており、シャウト先輩は檻のようになった根の間で、磔のような姿勢で拘束されていた。

 彼女の四肢を縛める根からは、毛細血管を思わせる筋が広がって、先輩の柔肌に痛々く食い込んでいる。

先輩は意識が無いように見えるが、時折、根から何かを送り込まれる度に、苦し気な声と共に身悶えしている。



「先輩に何してくれてんだ!!」



 思わず感情を爆発させてしまった俺に、ルキアスはフッと鼻を鳴らす。



「生憎シャウトはまだ子を成せる体ではない。故に猿人どもの世での穢れを落としがてら、罰として200年ほどここで眠ってもらうこととした。ただそれだけのこと」


「てめぇ何イカれたことを……!!」


「イカレてなどいない。シャウトは吾輩に全てを捧げ、吾輩の妻となった。いかなる罰をも受けるとも言った。何ら可笑しなことではあるまい? シャウトはここで吾輩に相応しい母体となり、我らが誇り高きハイエルフ族、ダークエルフ族再興の母となるのだ」



 ダメだコイツかなり狂ってるし気持ち悪ぃ……!!

 ドン引きしながら双剣を構える俺を見て、ルキアスの目つきが鋭くなった。



「貴様、吾輩の間で剣を抜くことの意味は分かっておろうな?」


「殿中でござるってかい。生憎俺はダークエルフの作法には疎くてね」


「……。貴様はなかなかに吾輩を不愉快にしてくれる。いいだろう。ならば貴様の肩入れする猿人の作法に則って応じようではないか」



 ルキアスはそう言うと、椅子の両サイドに自立していた剣と杖を手に取る。

 物の本によれば、あの剣と杖は古代エルフの業物にして、所謂オリハルコン製だという。

 インフィート鋼が欠けるわけだ。



「猿人には、妻としたい者を雄同士が奪い合い、互いを殺し合う、ケットウなる野蛮な文化があるだろう。貴様が吾輩の妻を奪おうとするのであれば、その作法に則り貴様を殺すまで」



 ルキアスは何やら冷静な口調で訳の分からんことを呟いているが、俺の感知スキルは高鳴っている。

 ………。

 ……。

 お互いを睨み合い、しばしの沈黙が流れた。



 ドン!!!!!



 刹那。

 微動だにしない俺とルキアスの間の空間で激しい衝撃波が発生した。

 それこそが、戦いの始まりを告げる、互いの初撃のぶつかり合いであった。


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