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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
最終章:釣具召喚チートで異世界を救う
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第38話:豊穣の大地の木の下で




「よっしゃあああ!! やるわよ!!」


「おいレフィーナ! 張り切りすぎんなよ!」


「アンタこそ!」



 そう言いながら襲い来るゴーレムに斬りかかっていくレフィーナとタイド。

 岩のように強固な皮膚が、バターのように斬り裂かれ、瞬く間にその亡骸が2体転がった。



「もう! 2人とも相変わらず突っ込み過ぎ!」



 ビビがそう言いながら、2人の周囲に結界を展開する。

 そこに次々着弾するミニゴーレムの眼力光線。

 結界に弾かれた光線が次々に撃った側へ跳ね返り、ドン!ドン!という音を立てて敵が弾け飛んでいく。



「おりゃああああ!! てやっ!!」



 ラルスは手近なミニゴーレムを拳で粉砕、沈黙させ、上空のガーゴイル目がけて思い切り投げ飛ばした。

 突然の攻撃に驚いたガーゴイルは逃げる間も無く、その剛速球の餌食となって砕け散る。

 地中から現れたゴーレムを朽ち木倒しでひっくり返すと、手足をもぎ取って周囲のゴーレムやミニゴーレムに投げつけた。



「俺達も負けてられないぜ! ジャベリンストーム!!」



 エドワーズが操る風が無数の竜巻斬撃となり、群れで襲い来るガーゴイルを次々に切り刻み、次々に叩き落としていく。

 その風を突破してくるゴーレムには、圧縮した風圧弾を撃ち込み、その腹に大穴を穿って見せた。



「おっとぉ! マッドゴーレムはちょっと厄介だね! まあでも対処済みだけど!」



 大地が波打つように現れた泥のゴーレム、マッドゴーレムに3つの薬剤ボトルから調合された緑色の泡魔法を噴射するサラナ。

 あっという間にマッドゴーレムの表皮がネバネバトした物体に覆われ、やがてそれは無数のキノコとなって繁茂する。

 キノコ塊となったマッドゴーレムは動きを止め、やがて周囲のマッドゴーレムたちもキノコの小山となって沈黙した。



「スプレッド・ファイアボール! タイドくん危ない! キュアラル! せやっ!! グラン・マッドスピアー!! ビビちゃん魔力使いすぎですよ! マジラル!」



 コモモは上下に美しいクリスタルを付けたロッドを、まるで華麗な踊りのように振り回し、強力な全体攻撃魔法を連射。

 そしてそれとほぼ同時にパーティ全体に気を配り、的確に体力を、魔力を、怪我や状態異常を瞬時に治療していく。

 彼女の踊るテンポが変わるたびに、敵が消し飛び、味方に力が戻る。



 凄い……。

 俺、ミコト、愛ちゃんをメタメタのボコボコにしたガーゴイル、ゴーレム軍団が次々に蹴散らされていく。

 敵の密集するポイントを避けつつも、ダークエルフロードの城までひたすら突っ切るゴリ押し戦法で、戦闘開始時には遥か先に見えた城が、既にあと一押しで乗り込めそうな距離にまで迫っていたのだ。



 しかしなぜ、このような無茶苦茶な殴り込みになったのか。

 敵の目を掻い潜りながら、戦闘を最小限にする戦略ではダメだったのか。

 それには、今の俺の、いや俺達の状態が関係している。



「アルティメット冷凍ビー――――――ム!!!」


「グラン・ポイズン・インフェルノ!!!」



 俺の超高圧、超低温、超遠距離冷凍ビームが空を薙げば、掠りもしていないガーゴイルさえも凍りつき、同時に吹き荒れた吹雪によってさらさらと溶けていく。


 ミコトの剣が地を薙げば、まるでマグマが走るように龍毒が地を裂き、聖属性の龍毒水流が、群がるゴーレムたちを地獄の聖毒沼に引きずり込んでいく。


 もはや撃破数など数えることすらできない。

 無数にいたゴーレムやガーゴイルを、無数に撃破している状態だ。


 そう。

 俺は飲んだ。

 あの魔女の秘薬を。



「何度考えても……!!! 告知義務……!!! 違反だろう!!!」


「あんまりっス! やっぱり! 魔女は人の味方じゃないっス!! 嬉しいっスけど!!!」



 俺とミコトは怒りと、少しの後悔と、果てしない喜びに身を震わせながら叫ぶ。



「「天地一閃! ラブラブアルティメットポイズンブリザード!!!」っス!!!」



 突き進むエドワーズ達に背を向けて放った毒激流と冷凍ビームの奔流は天と地を一閃に貫き、俺達を追って来ていた空と地を覆う魔物の軍勢を文字通り土へと直葬した。




////////////////////




 時は僅かに遡る。

 遥か遠方に城を臨む高台で、俺は再び俺の手中に出現した秘薬を掲げ、ミコトに、そして皆に問うた。

 これは命を削って強力な力を得る魔女の秘薬であると。

 使えるのは俺だけ。

 ミコトが飲もうとすると消え、俺の手元に戻ってきたこと。

 命は惜しいが、敬愛するシャウト先輩に屈辱的な真似をさせ、自分ばかりか最愛の人をズタボロにし、後輩の心に傷を負わせたあの憎き敵は俺が討ちたいと。


 ミコトは涙を見せながら応えた。

 ここでそれを使わなくては、きっと一生後悔することになると。

 後悔に苛まれながら生き続けることは、きっと死よりよほど辛く、恐ろしいと。


 レフィーナは少し怒りながら応えた。

 自分が討つ、と言いたいが、シャウト先輩の尊厳、そして俺とミコトの名誉のために、ここは譲ると。


 エドワーズは笑って応えた。

 お前らしいと。

 お前が早死にしても、お前の伝説は俺が語り継ぐし、末代まで子孫とミコトの面倒は見ると。

 ていうかお前運いいし案外寿命減らずに済むんじゃね? と。



 俺は皆の顔をゆっくりと見回し、ミコトを強く抱きしめた後、薬を一気に飲んだ。



「やぁ~ん♡ ちゃんと来てくれたぁ♡」



 果てしなく続く地平線の果てまで、豊穣の麦畑に覆われた空間。

 その中に立つリンゴの木の下で、彼女は待っていた。



「すみません。二回目のチャンスもらっちゃって」


「何言ってるのよぉ♡ 魔女のお礼は、相手がちゃんと恩恵を受けるまでは消えないんだからぁ♡ フウちゃんも言ってなかった?」



 大地の魔女さんは相変わらず、この世のものとは思えない、桃源郷としか例えようのない香りで俺を包み込みながら言った。

 ああ……そういえば確かに風さんがなんかそれっぽい意味合いのこと言ってたような……。



「でぇ? 今回はどれくらいの力が欲しいわけ?」


「どれくらい……? と言いますと?」


「犠牲にする貴方の命の量よぉ♡」



 大地の魔女さんは俺を抱きしめながら言った。

 優しげな声ではあるが、その端にはやはり、人外の超常的存在らしい恐ろしさがある。



「え、これ削る寿命の量自分で決めるんですか?」


「そうよぉ♡ いくつ私にくれるの?」



 そう言って、俺の鼻先に手を差し出してくる大地の魔女さん。

 と……突然言われても……!

 俺てっきり減る寿命の量決まってるもんかと……!



「えーっと……俺の寿命が80として……あのダークエルフロードを倒すためには……20年くら……」


「無理♡」


「じゃ……じゃあ30……」


「無理ぃ♡」


「じゃあ40……」


「もちろん無理ぃ♡」


「5……」


「無♡理♡」



 ちょっと待ってこれ以上捧げたら俺即死しちゃうよ!

 ていうかダークエルフロードどんだけ強いんですか!?



「当然じゃな~い♡ あの子は悪い子だけどぉ♡ ただでさえ強い森の子の中でも珍しく、人の子並みの鍛錬してた子なのよぉ♡ それに先代魔王に幹部としての力までもらってるからぁ~♡ 人の子の寿命で換算したら2000年くらい使わないと勝てないわぁ♡」


「ちょっと!? そんなん俺が限界まで寿命使っても、エドワーズやレフィーナと協力しても勝てないレベルじゃないですか!?」


「もちろん無理よぉ♡」



 ウフフフフと楽しそうに笑う大地の魔女さん。

 いやお前マジ……。

 もう本当に何なんだよぉ……。

 あんなカッコつけておきながら最悪じゃねぇか……。



「まあでもぉ……人の子の命にそんなに凝りたいならぁ……♡ 3時間だけあの森の子と拮抗するくらいの力をあげても良いわよぉ♡」



 項垂れる俺の顎をクイと持ち上げ、魔女さんは言った。

 ……。

 …。



「それでそれだけ寿命が減るんですか」


「ナイショ♡」


「……。」


「どうするのぉ?♡」


「…………ください」


「ん?♡」


「その力、俺にください!! 俺は何としてもあいつを打ち破って、先輩を助けなきゃいけないし、あいつを倒せないと魔王が倒せません! 俺はこの世界で、皆に命や暮らしを助けてもらいました。今こそ俺が、この世界に貰った全てを返さなきゃ!」


「やあああああああん♡ もうカッコいいいいいいいん♡ 分かったわぁ~♡ じゃあアゲル♡」



 そう言って大地の魔女さんは俺の頬にキスをした。

 直後、全身に凄まじい力が漲った。

 ザラタードケロンの時の比ではない。

 全くの別次元の力だ。

 この力が……3時間……!



「私が消えた瞬間からだからねぇ♡ 頑張ってねぇん♡ 応援してるわ♡」



 彼女の体がうっすらと透き通っていく。

 半透明になりながら、彼女は俺の耳元でそっと呟いた。



「――――――――――――――――――――」


「……はぁ!!!??」



 そんな素っ頓狂な声とともに、俺の意識は皆の元へ戻った。

 突然叫んだ俺に、驚きの表情で固まっているミコト達。

 なんかミコトも俺並みに魔力ギンギンになっているが、俺はとりあえず叫んだ。



「告知義務違反だろおおおおおおおおおおおおおおお!!」


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